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これぞSF。緻密に練られた世界観を体感できる作品5選


 変わらない日々をすごしていれば、時には旅に出て知らない景色をみたり、別の文化の中に自分を置きたいと思うこともある。

 特に移動を制限されたいま、どこか遠くへ行きたいと思いながら、こころは自然と映画や小説の世界へ向かおうとする。

 今回はそんな遠くへ行きたい皆さまに、濃密な世界観が魅力の小説を紹介する。物語にどっぷりと浸かれること間違いなし。


1. ウィリアム・ギブスン『ニューロマンサー』サイバーパンクSFの定番

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あらすじ

 ケイスは、コンピュータ・カウボーイ能力を奪われた飢えた狼。だが、その能力を再生させる代償に、ヤバイ仕事をやらないかという話が舞いこんできた。きな臭さをかぎとりながらも、仕事を引き受けたケイスは、テクノロジーとバイオレンスの支配する世界へと否応なく引きずりこまれてゆく。話題のサイバーパンクSF登場!(「BOOK」データベースより)

ポイント

 サイバーパンクと言えばこの作品!と挙げられる本作は、とにかく表現が難解で読むのに慣れがいる。しかし攻殻機動隊やロックマンエグゼ、デジモンシリーズに慣れた日本人にとって、物語の舞台となる電脳世界は馴染みやすいものではないだろうか。

 このサイバーパンクの世界を「マトリックス」などの映像作品から楽しむのもおすすめだが、個人的にはぜひ文章で読んでいただきたい。さまざまな世界観特有の小物や特殊な物質の表現に、読者の想像力は鍛えられることだろう。

 例を挙げれば、細い金縁の眼鏡に人口石英、ホログラム、ファイバーグラス製の荷箱、真鍮ランプ、模造翡翠などなど……たったこれだけのワードでも、多くの人々がこの世界に惹き込まれる理由がよくわかるはずだ。



2. アイザック・アシモフ『鋼鉄都市』ロボット×バディもの=SFミステリの金字塔

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あらすじ

 警視総監に呼びだされた刑事ベイリが知らされたのは、宇宙人惨殺という前代未聞の事件だった。地球人の子孫でありながら今や支配者となった宇宙人に対する反感、人間から職を奪ったロボットへの憎悪が渦まく鋼鉄都市へ、ベイリは乗り出すが……〈ロボット工学の三原則〉の盲点に挑んだSFミステリの金字塔!(Amazonより)

ポイント

 ストーリーはあらすじにもある通り、主人公の刑事がロボットの相棒と共に事件を解決するというシンプルなものだ。しかしアシモフが想像した人間の衰退とロボットの繁栄という対比に、彼の考案した「ロボット三原則」という基本回路が加わることで、物語にさらなるリアリティが生まれている。

 鋼鉄都市の中で生活する未来世界の描写だけでなく、人々がロボットに対して抱く複雑な感情が、読者をさらに世界に惹き込むことだろう。



3. P・K・ディック『ヴァルカンの鉄槌』コンピュータの裁定する世界のいく末

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あらすじ

 20年以上続いた核戦争が終結したのち、人類は世界連邦政府を樹立し、重要事項の決定をコンピュータ“ヴァルカン3号”に委ねた。極秘とされるその設置場所を知るのは統轄弁務官ディルただ一人。だがこうした体制に反対するフィールズ大師は、“癒しの道”教団を率いて政府組織に叛旗を翻した。ディルは早々に大師の一人娘を管理下に置くが。ディック最後の本邦初訳長編SF。(「BOOK」データベースより)

ポイント

 ディックの長編といえば、「近未来でドラッグ漬けのカオスを楽しむ本」というイメージが強いに違いない。しかしこの物語はどちらかといえば彼の短編、「トータル・リコール」や「変数人間」に近いベーシックでSFらしい作品である。

 簡潔にいえば、この物語はコンピューターに全ての決定権を委ねた世界だ。過去に戦争を起こした人間たちが統一政府を樹立し、自戒としてこのような統治形態になったという経緯がある。そんなディストピア小説が始まりそうな様子だが、宗教団体が現れ人々を煽ったり、謎の「鉄槌」が出現したりと世界は混乱に満ちている。ディック節炸裂の混沌世界だ。

 しかし登場人物が少なくシンプルなストーリー展開なので、読みなれていない方も彼の短編が好きな方にも、ぜひおすすめしたい。



4. オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』効率のよい、皆が幸福な理想の新世界

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あらすじ

 すべてを破壊した“九年戦争”の終結後、暴力を排除し、共生・個性・安定をスローガンとする清潔で文明的な世界が形成された。人間は受精卵の段階から選別され、5つの階級に分けられて徹底的に管理・区別されていた。あらゆる問題は消え、幸福が実現されたこの美しい世界で、孤独をかこっていた青年バーナードは、休暇で出かけた保護区で野人ジョンに出会う。すべてのディストピア小説の源流にして不朽の名作、新訳版!(「BOOK」データベースより)

ポイント

 本を読んだ人はまず、細部までよく考えられた人間の出生方法に驚くはずだ。そして個人が確実に幸せを実現できる仕組みについてもぎょっとするだろう。

 私個人としては、この物語の世界は非常によくできていて、最高なのではないかと思ってしまう。これと比べれば日本なんて世代間でいがみ合ったり、年収の格差でストレスを抱えたりと、何て酷い世界だろう。

 とにかく、幸せへの効率を追求したこの物語の極端さを楽しんでもらいたい。



5. アーシュラ・K・ル・グィン『所有せざる人々』わたしたちとは異なる、持たぬ人たちの世界

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あらすじ

 恒星タウ・セティをめぐる二重惑星アナレスとウラス―だが、この姉妹星には共通点はほとんどない。ウラスが長い歴史を誇り生命にあふれた豊かな世界なら、アナレスは2世紀たらず前に植民されたばかりの荒涼とした惑星であった。オドー主義者と称する政治亡命者たちがウラスを離れ、アナレスを切り開いたのだ。そしていま、一人の男がアナレスを離れウラスへと旅立とうとしていた。やがて全宇宙をつなぐ架け橋となる一般時間理論を完成するために、そして、ウラスとアナレスの間に存在する壁をうちこわすために…。ヒューゴー賞ネビュラ賞両賞受賞の栄誉に輝く傑作巨篇。(「BOOK」データベースより)

ポイント

 わたしたちは何でも所有することを喜びとする。それはさまざまな物であり、愛する人の心でもある。この物語の主人公は、そんなわたしたちとは反対の「持たない人」なのだ。

 著者の構築した「持たない人」たちの生活は全562ページの至る所で語られる。その情景、息遣いが伝わる本書を読んで、わたしたちの物質至上主義のあり方を考えてみてはいかがだろうか。



おわりに

 ありえないはずなのに、あたかも自分がそこにいるかのように世界に没頭できる作品を紹介した。

 深く考えられた世界に浸り、頭の中だけでもどこか遠く知らない場所を放浪する。今回紹介した作品が、日々の気分転換の手助けになれば幸いである。



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