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『多重露光』バックステージツアーに参加した話。

この投稿をご覧いただきありがとうございます。
昨晩の興奮いまだ覚めやらず、な黒木りりあです。

昨日の『多重露光』バックステージツアーについて改めて思いを馳せながら、なんと貴重な時間だったのだろう、と未だに戸惑いの思いが強く。
昨日は現実として受け入れ切れておらずずっと夢見心地だったのですが、一晩経つと現実感が湧く以上に「あれは夢だったのでは」という感情が強まってくる、不思議な気持ちでおります。

さて、そんな『多重露光』バックステージツアー。本当に貴重な経験をさせていただきましたので、少しでもその様子を多くの方にお伝えできればと考えております。(拙い文章と写真で恐縮ですが…。)
なお、本投稿はすでに舞台『多重露光』の内容をご存じの方に読んでいただくことを想定しております。作品のあらすじ等は公式サイトおよびこちらの投稿をご覧ください。

※ここから先は作品内容のネタバレを含みますので、ご注意ください。


終演後の奇跡のアナウンス

上演会場である日本青年館に到着したのが思ったよりも開演間近になってしまったため、バックステージツアーの当選番号を確認することなく自身の席についた私。
インタビュー記事やラジオなどはチェックしていたものの、敢えて既に観劇された方のレポートなどは読まず、という予備知識なしでの観劇でした。目の前で繰り広げられる演劇を真摯に堪能し、拍手鳴りやまない中でのカーテンコールを瞳に焼き付けながら、客席が明るくなっても拍手を続けていました。

完全に終演した後、立ち上がった瞬間に始まったバックステージツアーのアナウンス。「バックステージツアーなんて参加出来たら最高に幸せだけれども、無理だろうな」そう思いつつも希望を捨てきれずに選んだ公演日程。アナウンスもなんとなく他人事程度にしか耳を傾けていなかったものの、突然読み上げられた自身の座席番号に、文字通り耳を疑いました。感激と動揺、その場で右往左往しながら、瞳に涙が浮かばないようにぐっとこらえつつ、劇場の入り口に。掲示された番号と自身の番号が同一であることを何度も確認しながら、時間を待って、集合場所へと足を進めました。
さあ、ここからドキドキのバックステージツアーの始まりです。

バックステージというよりむしろオンステージ

注意事項等の説明を受けてから、ステージを傷つけないために履き替える用のスリッパをいただき、再度劇場内へ。最初は組ごとに誰もいないステージ全体を背景にした記念写真撮影をしていただきました。(緊張しすぎておかしな顔になってしまったのはご愛敬。)

撮影後はいざ、舞台の上へ。

バックステージツアーという名目ではあるものの、このツアーはステージの上で始まるのです。滞在時間だけで考えると、むしろオンステージツアー?と思ってしまうほど、実際の舞台上に置かれたセットをじっくり間近に堪能することができます。
上手からゆっくりと舞台に上がると、最初にお出迎えしてくれるのは椅子の上に礼儀正しく座ったテディーベアさん。麗華お嬢様の子供時代にも大活躍したという、可愛らしいお友達です。

写真館のテディーベア

それから、その隣に置かれていたサイドテーブルと、撮影時にも使用されていた椅子。おそらくすべて富士子さんの代から使用されているものというだけあって、程よく年季が入っているように見受けられます。

写真館のサイドテーブルとランプ
写真館の椅子

そして、視線を変えれば写真館の外、お庭に出られます。どの角度からが一番良いお顔を撮れるかな、なんて考えながらお花を撮影していると、なんとなく純九郎さんと自分が多重露光しているような気分になったり、ならなかったり。

庭のお花
可愛らしいお花

純九郎さんの視点を意識していると、おそらく純九郎さん用と思われるバミリらしきものまで。こういうところを見ると、やはり舞台なんだな、と実感します。

お庭のバミリ?

バミリを目視しながらそのまま立ち上がると、目の前には観客席が広がります。舞台上の役者さんには、客席はこのように見えているんだな、と感動を覚えました。インタビューなどでも客席は割と見えている、とおっしゃっているのをよく耳にしますが、本当に見えているんだろうな、と思うほどにクリアな視界。お芝居を拝見しながら「あ、今、目が合った…気がする」なんて体験、複数回あるかと思いますが、意外と本当に合っているのかもしれませんね。

舞台上から見た客席

下手には外壁に絡みつくツタとお花。お庭のお花と比較して表情がなく、冷たい印象を受けるツタは、まるで純九郎さんに絡みついて彼を侵食する両親の呪いのようにも感じました。
(※本当はツタの全体像も撮影したかったのですが、近くに撮影NG箇所があったため、下部のみの写真となっております。)

写真館のツタとお花

さて、写真館の中に戻ると、純九郎のデスクがあります。他の家具と同様に、少し年季が入っているように見受けられます。きれいに整頓されているところから、純九郎の意外と真面目な性格が垣間見えるようにも思います。そして、デスクの上にちょこん、とかわいらしく飾られている植物。富士子さんはああ言っていたけれども、純九郎は本当に植物が好きなんだろうな、と感じさせられて、なんだか切ない気持ちになります。
デスクの上には歴代の写真館で撮影されたお写真がたくさん並んでいます。たとえ「お仕事として」だとしても、富士子さんが人々に寄り添い撮影してきたものであること、プロとしての誇りを感じました。
(※写真館に飾ってあるお写真については撮影NGだったため、映っている写真はございません。)

写真館のデスク

ここで、なんと写真館の撮影ブースで記念撮影をしていただきました。カメラは自分のスマートフォンでしたが、きちんとたくさん撮っていただけましたので、写真館のお客さん気分を少しばかり味わうことができました。

撮影ブース


オンステージからバックステージへ

ステージ上をしばらく堪能した後、今度は写真館の出入り口扉を通じていよいよバックステージへ。

写真館の扉

舞台袖に通されると、一気に舞台裏感が増してきます。
ステージ裏のこの木の板を見ると、普段は入れない場所に入れているんだな、とドキドキします。
写真館の出入り口の扉は、客席の角度によってはお客さんの視界に入ることもあってか、裏側もきちんと塗装されています。

裏から見た写真館の扉

そして、今回特別にお見せいただいた貴重な小道具が、物語のキーアイテムの一つでもある山田建武郎の賞状です。近くで見るときちんと作り込まれているのが分かります。

山田建武郎の賞状

この賞状、登場するのは過去の回想シーンだけなのですが、面白い仕掛けが。なんと、この賞状が壁にかかっているシーンにだけ登場するように、裏で毎回スタッフさんが手作業ではめ込んでいるんだとか。舞台裏にはめ込む用のスペースがあり、必要なシーンが登場するたびにこの板を交換しているんだそうです。意外な舞台裏のスタッフさんのお仕事のお話に、こうやって多くの方々の力が結集して作品が作られているんだな、と実感します。

はめ込み用のスペース

また、撮影NGではありましたが、貴重な稽古時のお写真も拝見することができました。稽古場にも本番のセットに似たセットが組み立てられており、そこで皆さんがお稽古をされていました。文字通り、舞台に組み入れる前のセット、といった感じでしたが大きな部分には変わりがなく、私たちが舞台上で目にすることのできるセットのプロトタイプ、といった印象でした。

その後も、撮影NGだったためお写真はないのですが、舞台裏の貴重なスペースを見学させていただきました。様々な機材や黒い幕の間を通ると、テープで矢印と共に「男」「女」と記された黒い幕が。テープで記されているあたりに舞台の裏側だ、と感じてしまった単純な私です。今回は男性側を見学させていただきました。

最初に見せていただいたのは、小道具が置かれた棚と、その横に張られたスケジュール表です。小道具はすべてが一つの棚に収まっていたのですが、割と暗いところにあったのが驚きでした。役者さんたちは本番中にそれぞれ自分でここから必要な小道具を持って舞台に上がるとのことなのですが、本番中は舞台も真っ暗とのことで、間違ったものを持って行ってしまわないか心配、という声が上がるほどでした。特に鞄やカメラケースなどは明るいところでもぱっと見では分かりづらそうなので、大変そうに思いました。

また、スケジュール表はほとんどが終了の意味の線が引かれていて、このカンパニーがもう少しで終わってしまうことを物語っており、少し寂しい気持ちになりました。
今回のバックステージを案内してくださった方曰く、座長である稲垣吾郎さんのおかげで現場のコミュニケーション等も円滑に行われており、非常に良い雰囲気で皆さん過ごされている、とのことでした。

次に訪問できたのは、衣装・着替えのスペースでした。カーテンで仕切られた簡易的な空間で、長い鏡が二つ。衣装は上演後すぐにお選択されるとのことで、ハンガーラックは空っぽでした。
なぜだかこれまた奇跡的なご縁があり、修学旅行先にて「稲垣吾郎が使用した鏡」なるものを十数年前に拝見したことがあったのですが、今回のツアーでその記憶がアップデートされました。ここで吾郎さんは髪の毛のセットにどれぐらいの時間をかけるのかな、と勝手に想像して楽しんでしまいました。

その次に見せていただいたのが、お化粧用の鏡台です。こちらで相島一之さんが毎日ご自身でメイクをなさっているとのこと。山田建武郎は20代半ば、40代半ば、70歳前後と異なる年齢で登場するため、物語の進行に合わせて、ご自身で老けメイクを施していくそうです。最初は苦労されていらして、ある程度の時間がかかっていたメイクも、回を追うごとにスピーディになられている、とのことでした。さすが舞台を長年やっていらっしゃるだけあるな、と尊敬すると同時に、定期的に玉手箱の煙を浴びているような想像を勝手にしてしまい、心のどこかでクスリとしてしまったのは内緒です。
鏡の隣には、役者さんそれぞれのヘアメイクがメモ書きされた舞台の進行表が張られていました。相島さんの列には確かに「ひげ」としっかり書かれていたのを覚えています。

バックステージの最後は、暗室の扉の向こう側を見せていただきました。黒い台の上の四隅、そして縁の部分にはよく見ないとわからないほどの小さなサイリウムが取り付けられていました。暗い中でも役者さんが台から落ちるなどの事故が発生することを防止するためのものだそうです。役者さんには見えるけれども、お客さんには見えないようにする、という塩梅が難しそうでした。
台には階段がついており、その階段を上って、暗室から出るように扉を抜けて、ツアーは再びステージの上へと舞い戻りました。

再びステージへ

暗室の扉を抜けると、そこは暗室でした。ただし、照明は赤くありませんでしたが。
暗室の扉は意外と小さめと言いますか、高さが低めです。『多重露光』の舞台セットは単純な四角ではなくて壁や天井がいびつに作られていますが、この暗室の扉周りが最も窮屈に感じるように工夫が施されているように思いました。

暗室の扉

暗室にはきちんと現像スペースもあります。

暗室スペース

このセット部分には稲垣吾郎さんのこだわりも含まれているとのこと。こちらに置いてある暗室時計はもともとセットには含まれていなかった小道具なのだそうですが、稲垣吾郎さんによる「暗室には暗室時計が絶対にないとダメ」というご指摘から、急遽、直前に暗室時計が設置されることになったとのことです。この小道具があるだけで一気に暗室としてのリアリティが増しますよね。

吾郎さんこだわりの暗室時計

ちなみに、テーブルの下の床に積まれている段ボールの中には、実は隠しスピーカーが設置されているとのこと。隠しスピーカーはセットの裏にもあるそうで、ここから音を出すことで臨場感、特に火災シーンでの火の燃える音のリアリティが創出されるとのことです。

暗室の隅にも、ツタが育成しています。やはり冷たい印象のあるツタは遠目では火災後のようにも、壊れてしまった心や関係性のひびのようにも見えて、不気味さと痛みを感じます。

暗室のツタ

再び、暗室から写真館のメインルームへと戻ります。乱雑に置かれた椅子や額縁から、この写真館や山田一家の崩壊しかかっている、ギリギリの様子が感じ取れるような気がしました。
写真では分かりづらいかもしれませんが、床部分がウッドベースとコンクリートベースに分かれているのが分かりますか?『多重露光』のステージは基本的に庭、写真館、暗室の3つのパートに分かれているのですが、その違いを床で表現しているとのことです。お芝居の演出と同様に、くっきりと明確に分けるのではなくグラデーションをつけて区別されているのが、この作品らしいですよね。

暗室から見た写真館の奥

そして、ここに見えるホースのようなものは、煙を出す装置なのだそう。客席からは見えないようになっていますね。火災のシーンの煙はここから噴出されているとのことです。また、純九郎が火を点けるシーンについてもお話を聞くことができました。なんでも、マジックで使用される特殊な紙に、実際にライターで火を点けているそうです。リピーターのお客様から、「吾郎さんはいつも一発で火を点けられない」とのご指摘が上がりましたが、本当のお話らしく、吾郎さん自身もそれは気にしていらっしゃるようで、楽屋で実際に試すこともあるのだそう。楽屋で試すと毎回一発で火が点くとのことで、おそらく吾郎さんが火を点けられないのではなく、純九郎さんが火を点けられない、ということなのでしょう。

ホースの仕掛け

そして最後に、こちらが応接スペースとなります。豪華なじゅうたんに、他の家具と統一された印象のテーブルセットですね。やはり所々剥げていて、年季が入っているように思えます。
客席から見ているととても存在感のあるセットなのですが、全体的に背が低いからか、舞台上で見ると意外と目立たないな、という印象も受けました。
シンプルで必要以上に主張をしないこのセットは、落ち着くようでいてどこか物悲しい雰囲気も帯びているように感じます。

応接スペースのセット

ここまでじっくりとお話を聞かせていただきながら、名残惜しくもバックステージツアーは終了の時間を迎えました。
最後にもう一度テディーベアさんに別れの挨拶をして、上手からそっと舞台を降ります。

舞台セットに最後のお別れ

スリッパを返却した後は特典の一つであるチラシを受け取り、劇場を後にします。最近は手に入りづらくなっている吾郎さんの舞台のチラシ。新しく『多重露光』のものを飾るのを楽しみにしております。

未だに夢か現実か、信じ切れていない部分もありますが、本当に貴重な体験をさせていただきました。このような素敵な機会を与えてくださった『多重露光』のカンパニー、およびスタッフの皆様、本当にありがとうございました。一生ものの思い出となりました。心より感謝しております。

舞台『多重露光』も残すところ3公演と千秋楽が迫っておりますね。カンパニーの皆様、スタッフの皆様が無事に千秋楽を迎えられますことを陰ながらお祈りしております。

ここまで、長々と拙い文章をお読みいただきありがとうございました。
また興味のある話題がございましたら、足を運んでいただけますと幸いです。

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