見出し画像

樹木希林さんとじゃんけん

朝起きたら、とりあえずめざましテレビを点ける。
だいたい、本当は起きたい時間の5分から10分遅れて目が覚める。
洗面台とクローゼットとキッチンを行ったり来たりする慌ただしい朝、画面を見る余裕はないけれど、テレビから聞こえてくる「めざましじゃんけん」や「今日の占い」でおおよその時間を把握する。

めざましじゃんけんでは、毎朝芸能人たちが「今日も一日頑張りましょう」と言ってくれるし、今日の占いでは自分の星座の運勢を読み上げてくれるときもあれば、そうでないときもある。
そうでないときは、とりあえず「1位でも12位でもないんだな」と平和な気持ちで家を出る。

是枝裕和監督の「万引き家族」がカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したとき、リリー・フランキーさんや樹木希林さんのような、誰もが知っているけれど頻繁にはテレビに出ない役者さんたちが、朝も夜もテレビに出て忙しそうだった。

この日のめざましじゃんけんは、樹木希林さんとの勝負だった。
声が聞こえて、「珍しい」と、思わず画面を見る。
パンを食べながら、あの、穏やかだけれどどこか人の気持ちを見透かしていそうな、そんな表情でじゃんけんをする樹木希林さんを眺めた。
そして決まり文句の「今日も一日・・・」

「頑張らなくていいのよ」

と、樹木希林さんは言った。

その語尾は、少し笑ったような、呆れたような、そんな感じ。
その一言を聞いた瞬間、すっと何かが腑に落ちた。

そっか。頑張らなくていいんだ。

頑張ったって頑張らなくたって、同じように仕事をするし
頑張らなくたって、それなりに頑張っている。

「大変だけど頑張らなきゃ」なんて思った日にはどんどん気が重くなる。
そのうちに頑張ってるんだか頑張れてないんだか分からなくなって気が滅入ってくる。

思えば、小さい頃から「頑張って」と言われすぎて、頑張ることが当たり前で、頑張ろうとしすぎていたのかもしれない。

自分の中の凝り固まった「頑張らなきゃ」という意識が、この一言でほぐされた気がした。
じゃんけんには負けた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?