今晩の缶ビール
ある夕方、ワシはスーパーマーケッツでお買い物をしていた。
明日は日曜日だから今晩は少し飲もうと思って、ビールやおつまみをカゴに入れた。
小さな幸せというやつだ。
カゴは他にも日用品などでいっぱいになった。
レジにて袋はいるのかと尋ねられたとき、マイバッグを忘れたことに気づいた。
「一枚ください」
「はい、一枚398千円になります」
ちょっと高いなと思ったけど、手で持ちきれる量ではなかったので一枚買った。
支払いを終えて商品を袋に詰めようとしたが、袋がくっついていてなかなか開くことができない。
冬で手が乾燥していることもありなかなか開けない。
感染症対策のため、濡れタオル的な物も撤去されている。
ワシは焦った。
1時間が経過した。
袋はまだ開かない。
2時間が経過した。
袋はまだ開かない。
ワシはどうしてこんなにダメなんだろうと思い始めていた。
振り返ればワシの人生、ダメなことばかりだった。
たとえば大学受験のとき。
受験当日、休み時間に席で必死にノートを見ていたら試験が始まっていることに気付かずカンニングで懲役3年をくらった。
たとえば好きな人への告白のとき。
自作の歌を歌って愛を伝えようと思ったのに、告白直前でクオリティに自信がなくなってきて、北島三郎の「まつり」にチェンジしたらフラれた。
たとえばハンバーガー屋の店員をしていたとき。
ポテトを「Mサイズで」と言われたのを閻魔サイズだと勘違いしてしまい、ありったけのポテトをお客様にお渡しして懲役1年をくらった。
本当にワシは、ダメなやつだ。
もう閉店間際になっていた。
蛍の光が店内に流れ始めた。
なんだかとても悲しくなったワシの目から一筋の涙がこぼれた。
それがちょうど指に落ち、手に潤いが。
ついに、ワシはレジ袋を開けることに成功した。
今までの悲しい出来事はこの日のためにあったのだ。
ワシは報われた気持ちになった。
よし、と店を出ると、パトカーが待ち構えていた。
「お兄さん、スーパーの袋詰め台の長時間占拠で通報を受けててね。懲役4年の判決になりそうらしいから連行する」
ワシはまた失敗してしまったのか。
ワシの人生のスポットライトはいつも赤色灯だ。
「お巡りさん、最後に、ビールを一本飲んでもよろしいですか。今晩の楽しみだったんです」
お巡りさんは頷いた。
ワシはプシュ、と缶ビールを開けた。
すっかりぬるくなったビールが喉に流れる。
全く美味しくはないが、今晩はビールを飲むのだという目標は達成できたし、まあいいか。
ワシのことを超一流であり続けさせてくださる読者の皆様に、いつも心からありがとうと言いたいです。