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制服タルタル

とある定食屋。

「なあおやっさん、今に始まったことじゃあねけどよお、どいつもこいつも『あれがなきゃだめだ、これがなきゃだめだ』って騒いでよお、ちったあ足るを知るって頭はねえのかってんだ。なあ?」

「そうですねえ。SNSやら何やらで他人の様子を垣間見ては、勝手に人と自分を比べて落ち込むんだとか。あの人はあんなにキラキラしてるのに自分は…とかって。それよりも、目の前にある幸せに気づきたいもんですねえ」

「良いこと言った!おやっさん、今いいこと言ったよ?そんでよ、そういう奴らはよ、勝手に惨めな気持ちになった挙句よ、『生きてる意味ってなんだろう…』とかって思うんだってよ。馬っ鹿だねえ、ほんと、そんなくだらねえこと考えるなんて平和な証拠だよちくしょーめ」

「そうですねえ。毎日が精一杯なら、生きる意味がどうのだなんて考える暇はないですものねえ。うちもこうやって、毎日毎日、店を営むばかりの日々ですけど、お客さんが食べに来てくれて、そのおかげで私も飯が食えて、それだけで十分ありがたい話です」

「なあんだよ、また良いこと言っちゃってさぁ。そうだよ、そうそう。まさに足るを知るってやつだな。文句言ってねえで黙って生き抜けってこったな!」

「そうですねえ。はい、お待ちどう、アジフライ定食です」

「よっしゃ!良い匂いじゃねえか。…ん。なんだこれ。このアジフライにかかってるこれだよ」

「当店特製のタルタルソースでござい」

「…ふざけんじゃねえよ!タルタルソース嫌いなんだよ馬鹿野郎!アジフライにはウスターソースじゃなきゃよ!こんなもん食えるかよ馬鹿野郎!」

「も、申し訳ございません…」

「ワシは足るを知れっつったんだよ!『タルタル』だとタルが足り過ぎてんだろが!過ぎタルは及ばざるが如しなんだよ頭悪いなまったくよ!」

そう言いはしたものの、ワシは足るを知る男なので文句ばっか言わずにしっかりと完食した。

「うま。意外とうまっ。…ふう、ごっそさん。ったく、ふざけんじゃねえ。それで、さっきの足るを知るって話に戻るとだな」

「あのお客さん。お代はけっこうですから、もうお引き取りくださいませんか…」

「馬鹿野郎!こんな不味いもんをしっかり完食してやったんだからむしろそっちが金を払えってんだ!どんだけ強欲なんだよおめえはよ!?足るを知れ、足るを!この強欲ダディ!」

「あのねえ、さっきから足るを知れって言うけど、むしろそっちじゃないですか。ウスターソースじゃなきゃいやだとか言って。メニューもタルタルソースだって書いてるのに」

「あ、たしかに!」

「でしょ?ちょっと冷静になってくださいよ」

「ですな。はい、うん。冷静になりました!」

「暴言について謝ったりとかってできたりしますか?」

「できそうな感じはしてます!」

「じゃあやってみてもらえる?」

「わがままですみませんでした」

「うん。良い子、良い子」

おやっさんはそう言いながらワシの頭をポンポンしてくれた。

ワシは嬉しくって涙がぽろり。

こんな風に優しく触れられたことなんて、いつぶりなんだろう。

足るを知れとか言ってたワシだけど、ワシには愛が足りてなかったのかもしれないな。

「おやっさん。愛をくれてありがとうと言いたい。じゃあ、また来ますね」

「うん、お金」

「あ、お金…。お金、実はちょっと今なくて…」

「いやお金。特製タルタルアジフライ定食9,800円」

「え、あの…」

「警察呼びます」


ワシは青い制服の人に連行されながら、生きる意味を考えた。

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