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電気自動車の見方・考え方

公民科の教員として、高校生に授業をするときに考えることを発信しています。教員向けの記事です。

未来を考える授業をしたことはありますか?

SDGsやAIなどを題材に、新聞記事やドキュメンタリー番組を活用して、課題解決について考えさせ、意見を発表させる活動が、最近の学校教育のトレンドだ。

電気自動車も授業で扱える題材だ。
プラグインハイブリッドや燃料電池車のしくみを学習し、資料集のグラフや新聞記事を読ませて意見を書かせる。電気自動車ユーザーも身近にいるから、生の声も集めやすくなってきた。

ちょっと待った!
これでは気づかないことがある。公民科の教員は、市民感覚も大事だが、専門家の知見も必要だ。授業のデザイナーとして、気づくべきことがある。

基本の確認
最近、電力不足が心配されているが、土曜・日曜には、家庭に節電の呼びかけはない。どうして?

答え 家庭の電力需要や使用量は、電力の総需要、使用量全体に占める割合は低い。電力を使っているのは、工場や生産活動をしている企業で、家庭の電力使用料より圧倒的に多い。だから休日は節電の呼びかけを家庭にはしない。

企業の需要と消費者の需要を分けて考える必要がある。電気やエネルギー問題を議論する上で外してはいけないポイントだ。自動車も物流を支える輸送車両、公共交通機関の旅客車両、労働者の通勤車両、移動車両など種類がある。残念ながら、種類別の統計資料を探すのは困難だ。販売台数では、用途はわからない。

日本の社会科教育は、新品だけを見ている。

もったいない、節約、リユースとよく言われるが、社会科の教科書には中古市場の取り扱いがない。中古住宅、古紙、プラスチック資源、金属、機械など中古市場は、業界によっては主流で、規模も大きい。しかし、社会科の授業ではあまり着目されていない。
自動車も中古市場の役割は大きい。生徒は新車販売台数の統計だけに依拠して議論を展開してしまいがちだ。中古車販売店があるだけでなく、中古車は新車販売店でも取引きされている。この事実を見落としてはいけない。

電気自動車について学習すると、政府による補助金制度や税制優遇があることに気づく。自動車という商品の特殊性を理解するための一端だ。自動車は特殊な商品である。免許や駐車場が必要で、道路やガソリンスタンドも必要、登録や車検、メンテナンスも必要、部品も多く、国産車も100%国産とはいえない。教員はこの特殊性を踏まえて、生徒に自動車業界の全体像をできるだけ把握できるように示してほしい。

電気自動車はまだまだ高額だ。
新車なら補助金があるが高額だ。
中古車が次の選択肢になる。
自宅に給電設備を用意できるかで判断が分かれる。
充電スタンドだけで充電するなら、家庭で電気自動車は買わない。
充電スタンドでの充電費用は安くない。
充電にかかる所要時間も長い。
急速充電は、バッテリーの性能を長期的には低下させるので、毎回急速充電をする人はいない。

充電用コンセントを駐車場に用意できる。
中古電気自動車ってどう?

走行距離、航続距離が短い。
外出時には復路も含めて距離を気にする。
出先で充電できるところも、出発時に要確認だ。
案外、ストレスがある。
性能の低下した中古電気自動車は、故障が怖い。
街の自動車整備工場では、点検修理ができない。
修理には日産や三菱といったメーカー直営店に持ち込む必要がある。
どこにでもメーカー直営店があるわけではない。
自走できなければレッカー費用が追加で必要になる。
バッテリーの寿命が尽きたら、廃車だ。
実はガソリン車と異なり、駆動用バッテリーが命だ。
バッテリー交換は選択肢にない。
メーカー保証がなく、交換しても走行可能距離はわからない。
バッテリー交換はとても高額だから、安さを理由に中古車を選ぶ人は、交換しようと思わない。

充電インフラ
新車販売価格

電気自動車普及の問題はここではない。

ガソリン車の普及を支えているのは、中古市場だ。中古市場があるから乗り換えできる。電気自動車の中古車は、極めて限定的で、中古車に乗るには不安が大きい。新車を買って長く乗るのが経済的にもっともメリットがある。ガソリン車の購入スタイルとは大きく異なる。

商用車、業務用車も含めて、電気自動車の特徴、自動車という商品について、多面的多角的にとらえることが大事だ。

素朴な疑問を突き詰めて、いろいろな側面に気付ける資質が公民科教員には求められる。社会科は実は社会の一面しか、子どもたちに見せていない。社会科の教科書が選んだ面だけじゃないのが、本当の社会だ。高校では教科書が見せてくれない面も扱える。教員の視野の広さと生徒の気付きを活かす授業をしたい。

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