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たまたま読んだ本4: 「前向きに、あきらめる」 一歩踏み出すための哲学 哲学悩み相談が気持ちの持ち方のヒントを伝授


前向きに、あきらめる。

まず、構成が面白く、読みやすい。
ストーリー形式で、
スーパーの一角にある哲学悩み相談のブースに
ふと立ち寄った人々の様々な悩みに、
あきらめについてさまざまな視点から綴った哲学エッセイが手渡される。
そのエッセイは、この本の各章を構成するものとなっている。

著者ははじめにで、
ネガティブに聞こえる「あきらめる」。
実はあきらめには、ためらう、捨てる、降りる、開き直るといったように、プロセスや段階がある。これはあきらめ方の種類といってもいいだろう。
その中にもまた、選択する、決断する、逃げるといった要素が絡んでくる。
と、あきらめを分析する。

当然人生には悩みが多い。
親は選べないが、学校の選択から専門の選択、仕事の選択、起業の選択、
伴侶の選択、住む場所の選択などなど、選択とあきらめの連続である。

決断に悩むとき、「あきらめるために一歩進む」ということも
あり得るという。保留し判断を先延ばしするもの良いが、
先延ばしすれば無念も大きくなる。
やる意味の喪失が決断の最大のタイミングだと助言する。
人生、そんな話ばかりではないと思うが、
要は気持ちの持ち方で前向きにあきらめる方法を伝える。

その反面、
一歩踏み出す決心がつかない。立ち止まり、ためらうこともある。
ためらいは「多面らい」。利他的行為だ、などなど、
ちょっと言葉遊びのこじつけ的な論理の展開もある。
でも、読者が、この本を通して何か共感でき、
自分なりに悟るものがあれば、それはそれでいいのだろう。

人生、あきらめ、ためらい、捨て、降りて、開き直る。
そして邂逅があるという構成で、
悩める読書の気持ちの持ち方に変化球を投げているようだ。

人生はうまくいくはずがない。
つまり人生は不条理なものたらざるを得ない。
求めるべきは客観的にいい人生などではなく、
主観的な心の安寧、諦念のみだといえる。
そこに哲学の存在意義がある。
最後は、哲学者としての矜持が見える。

要は考え方。そのいろいろなアプローチの物語りだ。


前向きに、あきらめる。
一歩踏み出すための哲学
出版社名:集英社クリエイティブ
発行年月日:2023/01/31
ページ数:208ページ
定価:1,760円

著者プロフィール
小川仁志(おがわ・ひとし)
1970年、京都府生まれ。哲学者・山口大学国際総合科学部教授。
京都大学法学部卒、名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。博士(人間文化)。商社マン(伊藤忠商事)、フリーター、公務員(名古屋市役所)を経た異色の経歴。徳山工業高等専門学校准教授、米プリンストン大学客員研究員等を経て現職。専門は公共哲学。
大学で課題解決のための新しい教育に取り組むかたわら、「哲学カフェ」を主宰するなど、市民のための哲学を実践している。
また、テレビをはじめ各種メディアにて哲学の普及にも努めている。
NHK Eテレ「世界の哲学者に人生相談」「ロッチと子羊」では指南役を務めた。
著書も多く、『孤独を生き抜く哲学』(河出書房新社)、『中高生のための哲学入門――「大人」になる君へ――』(ミネルヴァ書房)、『不条理を乗り越える 希望の哲学』(平凡社新書)など、これまでに100冊以上を出版している。
YouTube「小川仁志の哲学チャンネル」でも発信中。


トップ写真:アマリリス

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