たわいない話をもう一度(追記あり)

僕が通っていた中学では、修学旅行の行き先が京都でした。

初日は雨が降っていて、えらい目に遭いました。

伏見稲荷大社に着いたあたりで土砂降りが降ってきて、宿泊するホテルの最寄りの京都駅まで逃げ帰り、近くのアニメイトで時間を潰したのを覚えています。

日中の活動班と夜の宿泊の部屋の班のメンバーが被っていたので、みんなでこっそりコンビニで夜食を購入し、カバンに忍ばせました。
なんか悪いことしてる気分で、胸が変に高揚したのを覚えています。
「ついに俺は、”先生に怒られる童貞”を卒業してしまうのか!?」という謎の高鳴りでした。

そんな胸の高鳴りをよそに、僕はホテルの部屋に行くことに対してすごく緊張していました。

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小学校からの僕の友達・田中くん(仮名)が、中2の途中から不登校になってしまいました。
中3で田中くんと同じクラスになり、「修学旅行くるのかなぁ」なんてお節介な心配をしていました。

中3になり1ヶ月がたった頃、帰りの会の後に「釜飯君、この後先生のところ来て」と言われました。
近くの席の人に「お前何やらかしたんだよwww」と煽られ、内心ビクビクしながら先生のところに行きました。
話の内容は「田中くんが、釜飯君と同じ班なら修学旅行行けるかもしれないって言ってるんだけど良い?」という内容でした。
僕は田中くんにこう言ってもらったのがすごく嬉しく、快諾しました。

その翌日の授業で修学旅行の班決めが行われ、その際、先生が男子を集めて改めて田中くんの意向を説明しました。
普段おちゃらけてる野球部のやつも「釜飯やるな〜」なんて言いながら、田中くんが修学旅行に来ることに対して歓迎ムードでした。

修学旅行当日、【新幹線で京都に向かい、着いた後にバスに乗り換える】というスケジュールだったのですが、田中くんは京都のバスで集合ということになっていました。

僕は新幹線の中で、「アウェーを感じている田中くんをどうホーム感に持っていくか」を考えていました。
当日のバスや新幹線の席は自由に決めることができていたので、活動班・宿泊班が同じ人が周りに固まっていました。
新幹線の中で遊んでいた時、田中くん以外の班員の一人がトランプを持っていることがわかりました。
その瞬間、「これだ!」と僕は思いました。
バスで田中君と会ったらまずポーカーか大富豪をやろう、と。
僕はトランプゲームのルールが全然把握できていなかったので、バスでそれをやることで僕の序列を一番下にすることができます。
そして、「ルールがわからない僕」と「ルールがわかる田中くんと他の班員」というわかりやすい構造ができます。
さらに、田中くんと他の班員は面識がほぼなかったので、この構図でそこの壁もなくせるかもしれないと思いました。

正直、効果は的面でした。
バスを降りる頃には田中くんを含めて班員全員が仲良い感じになれていました。

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田中くんとはもちろんホテルの部屋も一緒でした。

そんな経緯もあり、僕は「ホテルで夜、田中くんとどんな話をすれば良いのか」という緊張をしていました。

夕食が終わり、室長だけ集められておこなう翌日のスケジュール確認も終わり、先生の消灯時間の巡回も終わり、いよいよ就寝時間。

大人しく寝るわけがなく、カバンからUNO、コンビニで買ったお菓子と飲み物を取り出し、僕と田中くんともう一人の友達の3人で丸テーブルを囲んで座りました。
部屋に備え付けてあったワイングラスみたいな形のグラスにジュースを注いで、それをそれらしく飲みながら、5回くらいUNOをしました。
UNOをしている途中で買ったお菓子を食べ尽くし、僕が自分用に買ったお土産の生八ツ橋を開封してそれを食べたのを覚えています。
お土産用を開封した理由は、八ツ橋の箱が雨でびしょ濡れになってたからです。

日付は余裕で変わっていたであろう頃、「この中で朝に強い人いる?」と僕が聞くと、「いや、弱い」と田中くんともう一人の友達は口を揃えて言いました。
「翌朝起きれなかったらやばいな」ということで、流石にベットで横になることにしました。
友達が「雑談しながら寝ようぜ」と言い出し、僕らは賛成しました。
すると、田中くんが「カーテン開けようぜ」と言い出し、僕らは賛成しました。
ベッドの足元が向いている側に大きな窓が2枚あり、寝転ぶとちょうど夜の街並みが見えます。
あのときホテルの部屋に差し込んできた青白い光と、そこから見えるビル群と、僅かに覗く京都駅の景色は一生忘れません。

青白い光を浴びながら3人でした会話は、たわいなさすぎて覚えていません。
でも心の底から楽しかったし、田中くんともう一人の友達と一段と仲良くなれたような感覚があったことだけは鮮明に覚えています。


修学旅行翌日は1時間目に「事後集会」が行われ、そこで放課という日程でした。
超絶ご褒美デーです。
その日の朝学校に着くと、田中くんが席に座っていてとても嬉しかったです。
少しでも学校への恐怖みたいなものを拭うことができたのかな、と僕は思いました。

ですが、その後田中くんが学校に来ることはありませんでした。

中学の卒業式の日も会えなかったし、この前の成人式の日も見かけませんでした。
誰かのツテで、一時期田中くんのLINEを持っていたのですが、いつの間にかブロ削されてしまいました。
さっき完全に思い出しました。
高1の夏に地元のお祭りに行った時に田中くんと偶然あって、その時にLINEを交換しました。
ですが、いつのまにかブロ削されてしまいました。


でも、田中くんが今も元気にしていてくれれば僕はそれだけで嬉しいです。


またポケモンしようぜ。
お前の家、wiiのリモコン何個あったっけ?俺持って行った方が良い?





ホテルで深夜、カーテンを全開にして青白い光を全身で浴びながらするたわいない話がもう一回したいです。
ついにお酒も飲めるようになったし、人生経験も中3と比べたら詰んだ。

今なら、たわいない話でフロー状態になれる気がするし、ゾーンに入ることもできるんじゃないかなと思います。


#227  たわいない話をもう一度

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