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早期退職 第17話 モンスター化

 退職後は、朝からソファーに転がり何かを食べながらテレビを見ている。洗濯をするのでもなく、掃除をするのでもなく、洗い物をするのでもなく、ゴロゴロしている。そんな生活になるのでは?と思っていたが、現実は全然違った。毎日、黙々と家事をやっている。朝は洗濯に掃除、そして午後は洗濯物の取り入れ、食器の洗い物など次々こなしている。
 
 日常は午前中妻が仕事で外出。昼からは私が散歩、買い物等で外出。帰宅後、私はベランダで音楽を聴きながらくつろいでいる。妻と会話するのは朝と夕食の時くらいか。
 あと、夜に娘が部活またはバイトから帰宅したときに三人で話すくらいである。ちなみに、妻には働いてもらってはいるが生活費については少し入れてもらっているだけである。そんな微妙なバランスの夫婦関係で数年が過ぎた。
 
 朝からソファーに転がり何か食べながらテレビを見ている。洗濯をするのでもなく、掃除をするのでもなく、洗い物をするのではなく、ゴロゴロしている生活。時間が経ってもやはり、そんな生活とは程遠い。自分は相変わらずである。
 決まった時間に決まったことを黙々とやっている。ふと、サラリーマンというのは、ある意味凄いんだなぁと思った。こんな単調なことを毎日黙々とやることができるとは。
 
 そんな日々が続いていたが、やがて訪れる自分のモンスター化は想像もしていなかった。
「出したら出しっぱなし、脱いだら脱ぎっぱなし、開けたら開けっ放し、ゴミが落ちていても拾わない、ゴミ出しもほとんど任せきり、など」家事をするようになってから妻に対して口うるさくなった。自分でも信じられないようなことを言っていた。これがモンスター化というやつかと思った。自分を支えてくれた家族にそんな暴言を吐く自分が本当に嫌になった。また、そんな自分が情けなかった。妻は、性格的にこの手のことが苦手なため、この先どうしようかと心配していたようだ。
 
 会社員時代は、ノルマは絶対にこなさなければならなかった。できなければ、生き残れないと思っていた。そういう世界で生きてきた。だから、見ていてどうしても我慢ができなかった。しかし、その考えを家庭に持ち込んではならないのだと気付いた。家族に同じ事を求めてはならない。どちらが正しいか別として家庭と会社は違うのだ。そう思い、せめて家の中では多少ルーズでも構わないと考え直した。
 
 その後は、取り敢えず落ち着いている。自分も反省した。妻も気をつけてくれている。
もう、大丈夫だと思う。

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