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【超短編小説】 まだ、愛してもらえなくても

「ほんとに好きだねー」
「え?」

  学校の食堂で、いつも通り友達と食事をしていた。
  だけのつもりだった。
  横でにやつく友達は、それはもう楽しそうで楽しそうで、私の気づかなかったいつも通りを指摘した。

「市原先輩」

 言われて初めて、意図せず彼を見つめていたことを知った。

「好きなんでしょ?」

 言葉に詰まっていると

「見つけるだけで嬉しそうなんだもん。それは気づくよ」

 彼女は口にできなかった疑問に答えてくれた。
 恥ずかしさと動揺で、私はしどろもどろに言葉にならない声をあげることしかできなかった。

「告白すれば良いじゃん」

 そんな私に笑いかけながら、友達は好物のオムライスを口に運ぶ。

「む、無理だよ! ちょっと話したことがあるくらいだよ?」 

 やっと口にできた言葉に、友達は私を見返した。

「でも、好きなんでしょ?」

 世の摂理だとでも言うように、彼女は口にする。

「カノジョになりたくない?」

 やっぱり当たり前のように口にして、彼女はじっと私を見つめた。
 私は黙ったまま、何も返せなかった。うんともすんとも、返す気にならなかった。
 カノジョになりたくないわけじゃない。だからといって、どうしてもカノジョになりたいというわけでもなかった。

「だから、玉砕の可能性の方が高いから」

 友達の言葉にそう言い訳をして、私はその場をごまかした。
 この恋は、まだ未熟だ。両思いになるにはもちろん彼の気持ちは必要だけど、両思いになりたいと願う私の気持ちも必要だ。
 私はまだこの恋に、切なさを見いだせない。
 このトキメキが今日もまた、日常を輝かせてくれるから、私はまだ好きだとは伝えない。

様々な恋愛を描いた短編集

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