ゆみ

神奈川県の海辺の町で、議員をしています。趣味で書いている小説を、皆さんに読んで頂けたら…

ゆみ

神奈川県の海辺の町で、議員をしています。趣味で書いている小説を、皆さんに読んで頂けたらと思います。 ブログは「山田由美in葉山」でhttps://hayama-nagae1b39.seesaa.net ホームページ は「山田由美in葉山」で検索を。

最近の記事

恋愛SF『星の降る島』1章

1章 レアナ  夜中、そっとマークの横から起き上がった。若い彼は、健康な深い眠りに落ちている。水割りに入れた薬のせいで、あと十二時間は、叩いても揺さぶっても起きないはず。  ――真実を知ったら、きっと怒り狂うでしょうね。全力でわたしを罵倒し、呪い、憎むようになるでしょう。  でも、次にあなたが目覚める時、わたしはもう、この世にいない。  だから、許して。  いいえ、どう言い訳しても、許してもらえるとは思っていないけど。  仕方がないの。これが、わたしの義務だから。

    • 恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』6章

      6章 アスマン  渚沙とは、数年間、ぽつぽつとメールのやりとりを続けた。中身は、映画や小説のことだけだ。それなら、子供を誘惑したと、渚沙がそしられることもないだろう。  二十歳を過ぎて、もう対等に付き合えるだろうと思ったので、はるばる彼女に会いに行った。あれこれ迷った挙句に、大きな花束を抱いて。  そうしたら、渚沙は既に結婚していた。そして、子供が生まれるのだと、にこにこして教えてくれた。  まあ、こんなものだ、初恋なんて。それが初恋だったと認めたのは、何年も後のこと

      • 恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』5章-2

        5章-2 シヴァ  俺はリナに胸を貸したまま、彼女が泣き止むのを辛抱強く待ち、肩をさすってなだめた。 「とにかく、子供たちの居場所はわかってるんだろう。俺の故郷にいるなら、心配することはない。〝リリス〟が保護してくれる」  リナは香水の匂いがするハンカチを握りしめ、しゃくり上げながら言う。 「だけど、ひどいわ。何の権利があって、人の子供を誘拐するの。あんまりよ」  奇妙な言い分だと思った。他人を食い物にしてきた違法組織の幹部が、自分の権利だけは主張するのか。  だ

        • 恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』5章-1

          5章-1 シヴァ 「シヴァ、悪いが、リナがそちらへ行く。話を聞いてやってほしい」  リザードから連絡があったことに、まず驚いた。俺がグリフィン役から降ろされて以来、交流は絶えていたからだ。だが、大学教授のような取り澄ました容貌には、何の変化もない。辺境の人間は、あらゆる方法で延命を図る。  そのリザードの説明には、心底驚愕し、揺さぶられた。俺に子供がいたというのだ。それも、二人も。 「まさか」  最初は理解できなかった。俺に何の覚えもないのに、なぜ、そんなことになる

        恋愛SF『星の降る島』1章

        • 恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』6章

        • 恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』5章-2

        • 恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』5章-1

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』4章

          4章 アスマン  番犬の暮らしには、すぐ慣れた。自分にこんな修行者みたいな生活ができるとは、これまで考えたこともなかったが。  朝、暗いうちに起き出し、一通り運動してからシャワーを浴び、身支度をする。目立たないスーツ姿でいることがほとんどだ。何種類かの武器を身に付け、食事を済ませる。  俺の部屋は、ライサが暮らす高級アパートメントの同じ階に用意されたが、ここは俺専用ではなく、警備要員の詰所という位置付けなので、常に他の人間が出入りする。ただし常駐するのは俺だけなので、寝

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』4章

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』3章-2

          3章-2 紅泉  そうやって離れ小島で三か月ほど過ごしてから、あたしたちは中央に戻った。  いや、本当は辺境が故郷なのだが、もう長いこと市民社会で過ごしているので、すっかり中央星域での暮らしに馴染んでしまっている。  あたしたちはジュニアを同行し、司法局のハンター管理課に頼んで、彼の市民登録をしてもらった。仮の名前で架空の経歴をでっち上げ、市民社会で自由に動けるようにしてもらったのだ。特例だが、〝リリス〟の見習いということにしたので、それが通った。 「だからあんたには

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』3章-2

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』2章-4 3章-1

          2章-4 アスマン  金色のドレスの美女が立ち去るのを、呆然として見送っていたら、リリーが俺に目で合図した。俺が彼女の横の席に移ったら、声を低めて言う。 「あんたを引き取ることに、ヴァイオレットは反対だったのよ。だから、態度が冷たいのは仕方ない。我慢しなさい。それも修行だと思って」  俺が不服な顔をしていると、リリーは更に声を低めて言う。 「問題は、あんたじゃなくて、あんたの父親なの。ちょうどあんたくらいの年齢の時に、シヴァがヴァイオレットに何かしたらしい……というこ

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』2章-4 3章-1

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』2章-3

          2章-3 アスマン  しかし、頭をさすりながら、何だかひどく懐かしい気分になった。おふくろにもリザードにも、こんな真似をされたことはないのに。  リザードは冷静な書斎派で、俺にはいつも、静かに話をするだけだった。辺境の現状について。組織の運営について。部下たちはみんな、その静けさを恐れていた。リザードが冷静なまま、冷徹な判断を下すのを知っていたからだ。  でも、この女は最初から、ずんずん俺に踏み込んでくる。まるで、そうすることが当然のように。誰に対しても、こうなんだろう

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』2章-3

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』2章-2

          2章-2 アスマン  機械の召使なんか、八つ当たりで壊しても意味がない。壊さないと約束すると、ナギと名乗った美形のアンドロイドは、俺を通路に連れ出した。  どうやら、どこかの地球型惑星にあるリゾートホテルらしい。大きな窓の外には、波を立てた冷たそうな青い海と、いじけた緑の生えた灰色の海岸線が見えた。意識のないうち、こんな所まで運ばれていたとは。  ここは大陸から離れた孤島で、島にある唯一のホテルは、俺たちが占有しているという。乗り物を奪って島から逃げたとしても、この星か

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』2章-2

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』2章-1

          2章-1 アスマン  おふくろは最近、ヒステリーだ。俺がおふくろと呼ぶと、青筋立てて怒りだす。 「リナと呼びなさいって、言ったでしょ!!」  気色悪い。  母親を名前で呼ばせるなんて、異常だ。  おふくろで、いいではないか。ババアと呼ばれるより、はるかにましだろう。それなのに、 「そんな呼び方したって、返事しないから!!」  まるで小娘みたいにわめく。護衛を引き連れて外へ出れば、いっぱしの女幹部みたいな顔をしているくせに。  俺も小さい頃は、素直にリナと呼んで

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』2章-1

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』1章

          1章 紅泉  最初は、ナギからの報告だった。 「ミス・リリー、これをご覧下さい。先ほど届いた情報です」  彼はあたしたちが秘書として使っている、美青年型の有機体アンドロイドの一体である。  任務と任務の間の待機時間だったので、あたしたちは中央の植民惑星の快適なホテルにいた。繁華街で買い物をしたり、レストラン巡りをしたりする間に、不定期にネットを通じて、辺境からの連絡を受け取っている。  リリーというのはあたしのコード名のようなものだが、それすらも有名になりすぎてしま

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』1章

          恋愛SF『ミッドナイト・ブルー グリフィン編』15章-2

          15章-2 探春  辺境での彼女の通り名は、ジョルファ。本名はリアンヌ・ルナン。元軍人で、辺境に脱出してからは、老舗組織《フェンリル》のナンバー2として知られてきた人物。  ナンバー1はリザードという通り名を持つ男で、最高幹部会からも重用されているという話だけれど、わたしたちは噂でしか知らない。居場所を秘匿していることが多いため、わたしたちの探査の網にもかからないのだ。  その点、ジョルファと側近たちは拠点を公表しているので、探りやすい。彼女たちは違法都市《ルクソール》

          恋愛SF『ミッドナイト・ブルー グリフィン編』15章-2

          恋愛SF『ミッドナイト・ブルー グリフィン編』13章 14章 15章-1

          13章 シヴァ 「通話だ、向こうと話す!!」  艦の管理システムにそう命じた。話せば、紅泉はわかってくれる。他でもない、従兄弟の俺が言うことなのだから。  あいつはまだ、子供の頃と変わっていない。一緒に野原を走り、木に登り、川で泳いだ。竹刀で打ち合い、柔道の技をかけ合い、取っ組み合いの喧嘩もした。ほとんど、男同士の付き合いだった。だから、わかっている。悪気のない、単純な奴だと。そうだから、報われない〝正義の味方〟なんか、やっていられるんだ。  だが、首筋でバチッと何か

          恋愛SF『ミッドナイト・ブルー グリフィン編』13章 14章 15章-1

          恋愛SF『ミッドナイト・ブルー グリフィン編』11章-2 12章

          11章-2 シヴァ 「小さいうちは、うんと甘やかしても平気よ。あなたも、子供と遊んであげて」  リアンヌは夢見るような、心を彼方に飛ばした顔つきだ。もう、歴戦のアマゾネスという印象は受けない。顔の輪郭も、丸みを帯びてきている。これが本来のリアンヌなのだ。くだらない男に誘われて、辺境などに出てこなかったら、とうに幸福な母親になっていただろう。 「ああ、キャッチボールをしよう。電子工作も教えてやる。バイク……いや、その前に自転車だな」 「じゃあ、わたしは娘に空手と、サバイ

          恋愛SF『ミッドナイト・ブルー グリフィン編』11章-2 12章

          恋愛SF『ミッドナイト・ブルー グリフィン編』11章-1

          11章-1 シヴァ 「グリフィンさま、そこにお掛け下さい」  ルワナに厳かな態度で言われた時、不吉な予感が走った。何か、極めてまずいことがあったらしい。 「お馬鹿な面もあるとは思っていましたが、ここまでの馬鹿とは知りませんでした」  えらい言われようだった。しかし、グリフィンとしての職務に遺漏はないはずだ。暗殺志願者はこちらで把握して、巧く操っている。従姉妹たちも無事だ。  俺の前に立ったルワナが、いきなり右手を振り上げた時は、ぶたれると頭でわかっても、躰が抵抗でき

          恋愛SF『ミッドナイト・ブルー グリフィン編』11章-1

          恋愛SF『ミッドナイト・ブルー グリフィン編』10章-4

          10章-4 リアンヌ  対外的には、何も変わらないようにと努めていた。他組織の男たちにとっては、わたしは男を憎む〝恐怖のアマゾネス〟なのだ。着るものは濃紺のビジネススーツで、飾りは耳に小さなピアスだけ。化粧にも香水にも用はない、という冷然たる態度。  ただ、拠点内の自室は変わった。クローゼットには、シヴァに会うための女らしいドレスが並んだ。化粧台を据え、化粧品や香水も買い集めた。わたしには選択眼がなかったので、セレネの部下の、美容に詳しい娘に指導してもらったけれど。 「

          恋愛SF『ミッドナイト・ブルー グリフィン編』10章-4