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川本真琴と私【音楽コラム】

1996年。
私は毎月、rockin'onとCROSSBEATを購入し、穴のあくほど読みまくるのだけが楽しみの、孤独な洋楽かぶれだった。

「日本の音楽? あんなもん全部、大人が操ってる鏡の中のマリオネットだろ。自分のために踊りな!」
と、世代でもないのにヒムロックを引用する私。

そこへ突如現れた、アコギとジーパン、ショートカットの女の子。
ファーストアルバムのタイトルは、アーティスト名と同じ。
ジャケットの表情はどこか不機嫌そうで、目線を外しており、アイドル的なこびからは程遠い感じだった。

私は、何の期待もせずにこのアルバムを買い、リビングのコンポでかけながら、ぐでんとソファに寝転がっていた。
ところが、だんだんと息を呑んで身動きができなくなってゆき、最終曲の「1/2」が終わった時には、ぼろぼろと涙を流しながら号泣していた。

彼女の歌は、いつでも「どこかちょっとおかしかった」。
だけどそれが、誰もが憧れるイノセンスの輝きとして結晶したのは、後にも先にもこのファーストアルバムだけだ。

岡村靖幸プロデュースのデビューシングル「愛の才能」では、そこまで注目を集めなかったものの、自身が作詞作曲した2nd「DNA」から、じわじわとその音楽的なクオリティの高さ、本人の資質の素晴らしさ、そしてちょっとした違和感が広がっていったように思う。

その違和感というのは、例えばラジオ出演した時に、
「だってなんか愛してる/だんだんなんだか愛してる/だいっキライなのに愛してる」
という、あいうえおならぬ「DNA作文」的な歌詞について、
「全然タイトル意識してなかったです! すっごい偶然」
と、歌詞カードにわざわざ(D)(N)(A)と振ってあるのにもかかわらず、ぬけぬけと言い放ってしまうような、
「天才シンガーソングライターがなんでアイドルみたいな嘘つくの?」
という奇妙な感覚だった。

その極めつけが、彼女の代表曲であり、恐らくは最高傑作であり、るろうに剣心の歌として有名な「1/2」だ。

あったかいリズム 2コの心臓がくっついてく
唇と唇 目と目と手と手 神様は何も禁止なんかしてない
愛してる 愛してる 愛してる

これをよくあるタイプのラブソングだと思ってしまうのは簡単だが、何だか「ん?」と引っかかるところがあったのも事実だ。
あまりにも無防備で、執拗すぎる。
しかしそれは、本当は誰もが心の奥底で求めていることに他ならなかった気がする。
今はよく知らない。が、90年代というのは、そんな時代だった。
【人類補完計画】って、聞いたことあるかな?
一番90年代的な言葉だと思うけど、あれもつまりは、そういうことだったんじゃないかと思う。

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