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占い師ケン 第1話

 オレは占い師。いろんな占いがあるけれど、それはまあ、たいていは統計学上の占いが多いと思う。遠い昔から占いはされてきたんで、それなりにかなり研究されて、当たる確率が高いものが多いと思う。でも、オレのは違う。多分そのどれにも当てはまらない。

 オレはいつものように、夜7時くらいに占いを始める。店は繁華街の路地に構えている。だけど、ものの2~3時間ほどで、店仕舞いだ。それでも、一応、毎日やることにしている。まともにサラリーマンをやってもよかったんだが、自由気ままにやれるこの仕事の方が、オレに向いていると思ったから、今日も路地の店で占う。

「ねえねえ、ケンちゃん、占ってよ。」

そうそうオレは、高山健(たかやまけん)という。ここの界隈では、スナックのママさんが多く、オレを頼ってくる。

「今日は1時までに帰ることだな。それ以上遅くなると、やっかい事に巻き込まれるぞ。」
「ほんと?わかった、ありがとう。助かるわ。」

そんだけだけど、1万円置いていってくれる。ありがてぇもんだ。たまに、オレの噂を聞いて、スナックのママさんたち以外の人も訪れる。

「あの、ケンさんですか?」
「そうですよ。」
「よかったぁ。やっと見つけた。」

オレは何も言われなくても、聞きたいことがわかる。

「じゃ、早速だけど、その男とは早く別れることだね。」
「やっぱり、そうですか?」
「あなたには合わないね。あまり長く付き合っていると、ロクなことないから、今日、明日にでも別れたほうがいい。」
「わかりました。」
「で、半年先に初めて出会う人は、あなたより2つ上で、ちゃんと守ってくれる人だから、大切にしたほうがいい。」
「半年先、2歳上、わかりました。」

まあ、オレの占いはよく当たると有名になってきている。

 だいたい、一晩で5~6件から、多いときで10件ほど占ってから、居酒屋で晩飯食って帰るのが日課だ。一晩の稼ぎは平均10万円くらい。やめれんなぁ。こんな楽な稼業は、オレにとっては最高だ。

 占いをやっているときは、素顔を見せていない。だって、まだ24歳だし、あまり若く見られると支障があると思うのだ。多分だが、誰も占い師のオレの正体を知らないと思うのだ。オレの城は2LDKのマンションで、当然、独り身だし、女はいない。どういうわけだか、自分のことは占えない。自分の将来はわからないのだ。まあ、まだ女なんかいなくていい。自分ひとりで、贅沢な暮らしを満喫するのだ。とは言うものの、ちゃんと、個人事業主として納税もしている。決して、やばいヤツじゃないことを付け加えておこう。

 オレは高校の時から、占いの能力があることに気が付いた。初めは誰も信じてはなかったが、そのうち、クラスの女の子が騒ぎ出した。オレの占いが当たるってね。オレも調子に乗って占ったけど、これは商売にしたらいいかもしれないと思い立ったのが、高校を卒業してからだ。はじめはおっかなびっくりで路地に座った。初めての客はスナックのママさんだったのだ。

「そんなとこで、何してんの?」
「あの、占いを・・・」
「ふ~ん、占い師ってわけ?」
「そうです。」
「どうみても、そうは見えないよ。」
「はぁ。」
「それらしい格好をしないとだめよ。」
「はぁ。」
「なんか、覇気もないわね。それじゃ、誰もこないわよ。」
「そんなもんですか?」
「そうそう、じゃ、私を占ってよ。いろいろ、どうしたらお客がくるかを指導してあげるから、ただでいいわよね。」
「わかりました。」

ということで、スナックのママ、ゆうこさんが、オレに初めて声をかけてきたお客さんだ。本当にいろいろ教えてもらった。繁華街のママさんたちは占いが大好きだし、割と簡単な内容がほとんどだったし、お金持ちだから結構弾んでくれた。オレは、恩人のゆうこママさんだけは、ずっとただで見てあげている。

「ほんと、ケンちゃんの占いって当たるよね。どういう流派なの?」
「自己流さ。」
「そんなわけないじゃん。教えてよ。」
「だから自己流だってば。」

まあ、恩人のゆうこママは、いつだって占いは無料にしているから、ゆうこママのスナックでは無料で飲ませてくれる。初めは未成年って知らなかったから、かなりびっくりしてた。

「えっ、こんなとこで占いしてるのに、未成年なの?」
「はい。」
「信じらんない。まあ、いいわ。20歳になったら、ただで飲ませてあげるから。」
「ありがとうございます。」

てなわけで、オレは20歳を過ぎてから、お酒の方のお世話になっている。多少、フライングしているけどね。

 とにかく、オレは夢中で占いをしまくった。なじみのお客さんも増えた。こういう商売は信用が大事で、当たらないとなったら、とたんに客はいなくなる。だけど、当たらないことは絶対にない。だから、口コミでどんどん広がっていく。毎日やっても、絶対に客は来る。コストパフォーマンスは最高だ。

 実家の両親に占い師をやっているというと、そんなヤクザな商売はやめて、まっとうに就職しろってうるさい。ちゃんと個人事業主だし、確定申告もしてる。何も問題ない。だが、両親は全然わかってくれない。まあ、別にそれでもいいけどね。妹の恵子は、オレを支持してくれている。

「だって、兄ちゃんの占い、本当に当たるのよ。すごいんだから。」

まあ、妹の頼みなら、夜の繁華街じゃないところでも、ちゃんとやってあげている。

 ある日、仕事を終えて居酒屋でひとり飲んでいると、満席でもないのに、なぜかオレのテーブルにひとりの女が座った。

「ここ、いいですか?」

なんだ、こいつ。

「別にいいですよ。」
「ご一緒ついでに、一緒に飲みませんか?」
「だいぶ前から飲んでいるから、そんなにご一緒できませんよ。」
「それでもいいです。」

突然、何なんだこの人は?オレはその女をみた。ふ~ん、遺産について悩んでいるのか。

「占いをなされていますよね。」

オレを知ってる?

「私をみてほしいんです。」
「遺産の件ですよね。」
「わかるんですか?」

そりゃわかるよ。

「でも、ここではやめておきましょう。ゆっくり飲ませて下さい。」
「わかりました。」

彼女も飲み物を注文し、食べ物も数品注文した。

「よければ、食べて下さいね。」
「自分の分で、十分ですよ。」

 オレは彼女の状況をいろいろとみていた。結構な遺産が転がり込んでくるみたいだ。

「お名前を聞いてなかったですね。」
「あ、すみません、中川孝子と言います。」
「私のことは・・・」
「占い師のケンさんですよね。」

知ってるんだ。

「じゃ、ここではその話はなしでお願いしますね。」
「わかりました。」

 この人はつい最近まで、遺産のことは知らなかったんだな。シングルだった母親はずっと黙っていたけど、有名資産家との間に、この子は生まれたということか。で、もって、その資産家には子供がいないし、配偶者もいない。お金の亡者の親族だけがいるってことか。この子の母親は亡くなっているから、相続はこの子だけってことだ。オレが占って、数百万ほどもらってもばちは当たらんだろうな。そんなことを考え、のんびり食事をしながら、飲んでいた。彼女もオレのペースに合わせて、食事をしていた。食事が終わって、オレたちは一緒に店をでた。

 さて、どこで話をしようか。

「誰かに聞かれたら嫌なんで、ケンさんのお家でお願いします。」

オレんちか、絶対いやだね。オレはいままで誰も入れたことがない。オレだけの城だからな。仕方ないから、別途借りている部屋へ、いくことにした。普通のワンルームだ。こういうときもあるので、借りっぱなしにしている。月に1回ほど掃除しにいくだけだ。

「どうぞ。」
「お邪魔します。」

ワンルームには、テーブルと椅子があるだけだ。小さな台所があるから、お茶くらいは飲める。

「コーヒーでも飲みますか?インスタントですが。」
「あ、はい、お願いします。」

コーヒーを入れて、テーブルについた。

「さてと、突然、降って沸いた遺産の話をどうしたらいいのか、悩んでいるというわけか。」
「はい。」
「資産家のあなたのお父様は、相続させる子供を探していて、あなたを見つけた。あなたは、まさか自分のお父様が、そんな資産家なんて思いもしなかった。」
「はい。」
「お母さまもそんな話をしてこなかったから、あなたは全然知らなかった。お母さまは亡くなってしまっているから、確認しようがない。」
「よくわかりますね。」
「占い師ですから。」
「あなたは、DNA検査待ちですね。でも、間違いなく、その資産家のお父様のお子様です。」
「そんなことまでわかるんですか?」
「ここから先は、あなたが悩まれていることについてです。」
「はい。」
「お父様は、もうじき亡くなります。」
「えっ、そうなんですか。」
「だから、あなたは、早めに会いにいった方がいいです。」
「わかりました。」
「で、遺産の相続はおやめになった方がいいです。」
「それはなぜですか?」
「必要以上のお金は人を狂わせます。もし、受け取るなら、全額、恵まれない人達とか新型ウィルスで、生活が困窮している人へ寄付してしまいなさい。」
「はい。」
「受け取らないなら、お父様の亡くなったあと、その家にはかかわらないほうがいいです。」
「そうなんですね。」
「必要以上のお金は、ろくなことになりませんよ。」
「わかりました。」

 でも、この人は、オレの忠告を無視した。まあ、仕方がない。それが人生なんだから。彼女の選択は、最悪な事態を迎えた。欲に目がくらんだ親族に殺されたのだ。これ以上、オレは何もしようがない。彼女の選択なんだから。

 繁華街の路地の店でやっている占いは、特に金額を決めていない。その人の払えるだけでいいと思っているのだが、ママさんたちは結構奮発してくれる。だから、1日に10万円ほども稼げてしまうんだろうな。有難く、頂きます。たまにやってくる一般の方々は、人によって金額は違う。このくらい払ってくれるとか、わかるので問題ない。

 面は割れていないはずだが、たまに、前の客のようにしっかり知っている人もいる。ゆうこママは初めてからの馴染みなので、オレの正体を知っている。まあ、あとはそんなに素のオレを知っている人は少ないと思うのだ。

「お兄ちゃん、お願い。」
「いいよ。」

妹の恵子の場合は、いかなる時も言うことを聞いてやろうと思っている。妹一人なら、オレの部屋に招くのだが、誰かを連れてくるときは、例のワンルームへお招きする。今回もそんなパターンだ。

「お兄ちゃん、ごめんね。いつも無理言って。」
「全然大丈夫だよ。」
「さ、入って。」
「今日は友だちの冴子をお願いね。」
「わかった。」
「あの・・・」

 オレは人差し指を唇に当て、シッていうポーズをとった。彼氏の浮気か。こいつは3股だ。本命は別にいる。どうしようか。

「彼氏の浮気の話だね。」
「えっ、まだ、何も言ってないのに。」
「ね、すごいでしょ。」
「あなたは疑惑を抱いている。今の彼氏が、浮気をしてるんじゃないかと思ってるよね。でも、それはその通りで、彼氏は浮気をしてる。」
「はっきり言っていい?」
「はい、お願いします。」
「彼氏は3股してるよ。」
「えっ・・・」

絶句している。そうだろうな。

「で、本命はあなたじゃない。だから、あなたは、さっさと、そんなヤツに見切りをつけて、別れてしまったらいい。しばらくは恵子と女子会などで気分転換してね。」
「わかりました。」
「で、1年後の秋に、180センチ以上の背の高い、あなたより1つ上の男性に出会うことになる。彼はサッカーをしているスポーツマンで、あなたと必ず気が合いますよ。」
「ほらほら、冴子、よかったね。」
「スポーツマン・・・」
「心配しなくても大丈夫だよ。彼からあなたへアプローチしてくるからね。待っていて、大丈夫。だから、今の彼から離れて下さい。」
「わかりました。」
「冴子、しばらくは女子会、やろう。」
「だよね。」
「気に病むことはないよ。彼は3股がばれて、地獄へ落ちていきますから、ほっておいて大丈夫だよ。」
「ありがとうございました。だいぶ、気が楽になりました。」
「仲のいい友達、4人いるでしょ?その4人でこの1年間、楽しんでね。」
「すごっ、そこまでわかるの?」
「占い師ですから。」

オレはあとで、恵子にこの1ヵ月だけ、彼女のサポートをお願いした。この1ヵ月を乗り切れれば、問題なくなるんでね。

 オレは久しぶりにゆうこママのお店に行ったときのことだ。

「ケンちゃん、また頼まれてくれる?」
「いいですよ。」

実は占い以外の仕事もたまにする。田舎からでてきたホステスのお世話だ。オレは例のワンルームへ彼女を案内した。しばらく、ここでかくまう。詳しい事情は知らないけれど、ものの1、2週間ほどでワンルームから出ていく。それまで、かくまってあげるだけだ。一応、食事の世話と必要なものの調達はオレがする。このワンルームはそんなことにも利用するのだ。今回の彼女は、日本海側の出身で、20歳になったばかり。あまり詳しいことは見ないようにしている。世話をするだけにしている。

「当面、ここで暮らしてもらいます。外へは絶対に出ないで下さい。責任もてませんから。オレは1日に1、2回ここにきます。鍵は絶対かけたままにしておいて下さい。オレなら勝手に鍵で開けますが、扉を叩いたり、呼び鈴を押したりされても、反応しないで下さい。」
「わかりました。」
「しばらくの我慢です。」
「はい。」

こういうふうに言っておいても、勝手に外にでたりすることもあって、気が気じゃない。まあ、そうなりゃ自己責任なので、オレは対応しようがない。誰かにつかまって、もとのところに連れていかれたこともあった。だけど、オレのいうことを聞いて、守っていた子は、無事に予定通りになったと聞いている。そんなことも、ゆうこママのお願いなんで、対応しているのだ。今まで、危険な目に合ったことはない。

(つづく)

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