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『論語』豆知識。元号「令」「和」に関する言葉3つ

巧言令色鮮し仁

現在の元号は「令和」。
万葉集から2文字とってつけれられました。
日本の古典にちなんで元号がつけられたのは初めてのこと。
「大化」の時代から、漢籍、中国古典の言葉からとってきた、とされています。

「明治」は『易経(えききょう)』
「大正」も『易経(えききょう)』
「昭和」は『書経(しょきょう)』
「平成」は『史記(しき)』と『書経(しょきょう)』。
*それぞれの元号、言葉については最後に紹介していますので、後でご覧ください。

そういうことで、元号「令和」には縁がなかった中国古典ですが、『論語』には「令和」の「令」と「和」に関するに名言がいくつかあるので、「令」と「和」に紐づけて覚えておくのもいいかもしれません。
うんちく、雑学のつもりで、おつきあいください。

まず、「令」が入った有名な章句から。

巧言令色(こうげんれいしょく)鮮(すくな)し仁(じん)

口先がうまいだけの人の言葉には、徳がない(中身が薄い)。

「令」は使役、命令などの意味でつかわれることが多いですが、「美しい」、「立派」といった意味もあり、ここでは、美しいと意味で使われています。
「令」は『論語』にもう1つ出てきますが、それは命令の意味のものなので、省きます。

君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず

次に「和」について語った孔子の名言です。座右の銘としている人も少なくありません。

君子は和して同ぜず、
小人は同じて和せず

人の上に立つ人物は、誰とでも調和するが、道理や信念を忘れてまで人に合わせるようなことは決してしない。
才能はあるが徳の少ない人物は、付和雷同はするけど、周囲と本質を共有しようとしない。
*神田の意訳です。

人や組織と関わるときに、どういう立ち位置で臨むのか。
調和を目指すのか、付和雷同に徹するのか。
両者のスタンスの違いですが、時と場合によっても違ってくるので、いちがいに、人の上に立つ人物は「調和の人」、才能はあるが徳の少ない人物は「付和雷同の人」を決めつけられないところがあるように思います。

ともあれ、日本人のコミュニケーション、意思決定の特長は、「空気を読む」あるいは「忖度」の文化と言われ、個人の考えや価値観よりも、権力者や周囲の考えや思惑を慮って主張しない、発言しないことが、よしとされがちです。

組織でマイナス評価を受けないためには、そういう身の処し方に徹したほうがいいのかもしれません。

できれば、孔子のいうように、新規の提案をする、改善策を述べるなど……自分の考えることを伝えたうえで、上司や部下、取引先などの相手や周囲の言うことも聞いて、意見の違いを調整しながら、前に進める人になりたいですね。

礼の用は、和をもって貴しとなす

「和」が入った有名章句がもう1つあります。
孔子の弟子・有若(ゆうじゃく)が語った言葉です。

「の用は、和をもって貴(たっと)しとなす。

礼には、和の心が通っていなければならない、という意味です。

参考までに、日本では聖徳太子、十七条憲法の第1条に「和」が出てきます。

和をもって貴(たっと)しとなし 忤(さから)うことなきを宗(むね)となす。

やわらぎ(和)を大事にして、人といさかいをしないように心がけること、という意味。大和言葉にした、やわらぎ(和)のほうがしっくりにくるところがあります。

ともあれ、聖徳太子が十七条憲法の第1条、冒頭で「和」を説いているのは、当時も意見を1つにまとめることが大変だったことを思わせます。
ビジネス社会でも、知識、価値観、経験が違うスタッフや関係者と合意を形成していくことは、なかなか容易ではありません。

組織やチームが「和」の状態となってベクトルを合わせていく。
これは、古来の課題のようです。

こうしてみてきた「令」と「和」に関する孔子の言葉ですが、実践哲学の人らしく、人としてのありかたや言動について、本質的、実際的に語っていて、参考になります。

最後にあらためて、「令」「和」に関する『論語』の言葉を掲出しておきます。

巧言令色鮮し仁。

礼の用は、和をもって貴しとなす。

君子は和して同ぜず、
小人は同じて和せず。

参考 明治~平成までの元号について
明治 
出典『易経』
「聖人南面而聴天下、嚮明而治」から「明」と「治」の二文字が選ばれた。
聖人が北極星のように顔を南に向けてとどまることを知れば、天下は明るい方向に向かって治まる、という意味が込められています。

大正
出典『易経』
「大亨以正、天之道也」から、「大」と「正」の二文字が選ばれました。
その徳は剛直で、賢人を尊び、また篤実なものが過度に健やかなものを抑止して、大いに正す、という意味が込められています。。天が民の言葉を嘉納し、政が正しく行われる、ということです。

昭和 
出典『書経』
「百姓昭明、協和萬邦」から、「昭」と「和」の二文字が選ばれました。
国民の平和および世界各国の共存繁栄を願う。という意味が込められています。

平成
出典『史記』「内平外成(内平かに外成る)」から、「平」と「成」の二文字が選ばれました。
『書経』「地平天成(地平かに天成る)」から、「平」と「成」の二文字が選ばれました。
内外、天地とも平和が達成される、という意味が込められています。

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