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徒然日記|お墓と笑顔

 お墓っていいなあ、と思った。帰り道、お墓の横を通ったときのことだ。おばあさんとおじいさんが三人、お墓から出てくるところで、自転車のわたしが頭をさげるとにこにこと道を開けてくれた。そこから香ってくるお線香の匂いと、おばあさんの優しい笑顔で、お墓っていいなあ、と思った。
 わたしはキリスト教の家で育ったので、もちろん仏壇というものは家になく、墓参りという習慣もない。しかし、なんとなく憧れはあった。
 お墓参りというのは仏教の文化だろうか? よくわからないし、仏教を信じているわけでも、お彼岸に霊が戻ってくるとも思っているわけでもないのだが、死者を想うときに火を灯し、煙を風になびかせ、独特の香りを嗅いで花を添えるという習慣がわたしにはとても美しいものに思えるのだ。
 死者に心の中で語り掛けるというのは、身も蓋もない言い方をすれば、いつでもどこでも出来る行為だと思う。それでも、嗅覚にも視覚にも訴えかける形式をとって死者へ手を合わせる。そのときは、どれだけ心を飛ばしてもいい、とまわりにも自分にも許可を出す。そうして、しばらくしたら墓地から出て、日常生活に帰っていく。
なんだかこの形を、とっても、いいなあ、と思うのである。
 あのおばあさんの笑顔もよかった。お墓参りが面倒なものでも、辛い思いをするものでもなく、大切な人をぞんぶんに思い出して、帰り道にはにこにこできるようなものなんだ、とわたしに思わせてくれた。
 いつか、わたしは親を亡くすだろう。兄弟も先に逝く可能性も非常に高い。
 そうなったとき、彼らのお墓からわたしは笑顔で帰れるだろうか。

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