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知っているようで知らない北インド料理の実際

 こんにちは!Layered Little PressのSNS、広報担当の活乃鰤子です!いろいろ長続きせん性格ですが、noteは頑張りますので応援よろしくお願いいたします!
 今回の記事では、知っとるようでカオス過ぎて全貌が良く分からない北インド料理のことを分かりやすく整理してみました!

このノートは以下のような方々を対象にしています。

○北インド料理を理解してネイティブ北インド人並に作れるようになりたい。
○スパイスをネイティブ北インド人並に扱えるようになりたい。
○北インドの料理をとにかく効率良く習得したい。

このnoteのスタンス

 本noteはインドの料理や文化を扱う上で下記のルールに従って書いています。

○料理や調理法は現地の名称をカタカナに転写して表記します。カタカナ転写のルールとしては「私が現地で聞こえたように書く」という方法を採ります。例えば北インドを中心に話されているヒンディー語は、有気音と無気音の対立や長母音と短母音の区別があったり、反舌音のように日本語にはない音が数多く存在しているため、言ってしまえばカタカナに転写した時点でいろいろな間違いが含まれてしまうことになります。ですので、私はカタカナでこれが正しい発音ですとは言わず、純粋に現地で聞いた音をカタカナで表記します。

○必要に応じてヒンディー語などの現地語をアルファベットに転写したものも随所に記載します。しかしながら現地後からのアルファベットへの転写には完璧に統一されたルールが存在しません。そのため全ての表記において、同じものを指している場合でも綴が人によって微妙に異なるゆらぎが存在しています。また私の表記が多数派であるかどうかも分かりません。追求のしようもないためこのnoteにおいては私が慣れ親しんでいる表記を勝手に採用します。明らかな覚え間違いや書き間違いには直ぐに修正の対応をしますが、本来はこっちの方が正しいといったような議論には筆者は参加いたしません。ご了承下さい!

○インドにこういったものは存在しないということは言い切れないという言説がありますが、私はこのnoteにおいて歴史的、地理的観点からこの地域に〇〇は存在しないと言い切って妥当と思われ、かつ私のフィールドワークがそれを否定出来ない場合、言い切りの文体で論を展開します。またその場合、インドでそれは言い切れないといった反論していただいてもそれに対しては対応いたしません。これを認めてしまうとインドに関する全ての論説が意味を成さないこととなってしまい、ひいてはインド現地の文化の輪郭を私達が歪めてしまうことに繋がり兼ねないからです。「それはない」こういった物の言い方はインドでも現地でいろいろ質問すると普通に返ってくる返事です。

○私は追加の研究や取材を常に行っているため、以前の説をいきなりひっくり返したり、自分で以前の自分の説を否定し始めたりすることがあることも予め断っておきます。矛盾したことを書いているようですが、時代の流れでインドも常に移り変わっていきます。今まではなかったことでも時代の変化で変わることがインドにおいても、いつでもどこでも起こりえます。

北インド料理とは(もっと詳しく!)

 ナン(パン)を主食にリッチなカレー(バターチキンなど)を食し、それはしばしば窯で焼いたバーベキュー(タンドリーチキンなど)を伴う。

 それらの料理は食べごたえがあり、もちろん美味しく、ごちそう感があるものです。油、バター、クリーム、ナッツにスパイスをふんだんに使用するため、毎日は食べられません。これらの料理を指して脂っこい、胃もたれをするという人もいます。

 インド料理を理解する上では東西南北だけでなく、ホームスタイルかレストランスタイルか、また作っている人の宗教は何なのかを考える必要があるということを先のnoteで説明いたしました。

 上の料理の説明にはそのどちらもが欠けていますが、一体上の料理はどこの誰の料理なのでしょう?

北インドの宗教勢力図(概説)

 まず最初に、そもそも北インドって具体的にどこの州のことを指すのかを見てみましょう。インターネットから拝借してきましたが、下記のリンクが良さそうです。

https://www.mapsofindia.com/maps/north-india.html

 各地域の料理の説明もされていますね。読んでみると面白いと思います。
さて地図を見ていただきながら説明を致しますと、北インドの週の中で広いのは南端のウッタル・プラデーシュですが、右上半分がネパールに接していますね。ネパールってヒマラヤの国ですが、そうなんです。北インドってヒマラヤに近いんです。
 しかしながら水平距離で近いとは言っても北インド全体で標高が高いわけではありません。ウッタラカンド、ヒマーチャル・プラデーシュ、ラダックは標高が高いエリアを多く有しています。といいますか、ラダックなんかは軒並み標高が高い場所に位置していますので、行くのも帰るのも一苦労です。
 そして宗教の話ですが、ラダックは宗教がヒンドゥー教ではなくチベット仏教が多数派なんです。ヒマーチャル・プラデーシュの中でもマナリーなんかはラダックに近いので、ヒンドゥー教の街の中にチベット仏教のお寺があったりして、混じり合っているんですね。ラダックは今所属している国がインドっていうだけで、そもそももともとが違う国です。

マナリーのチベット仏教の施設-文字もチベット系
ラダックのチベット感

 ちなみにラダック、ヒマーチャル・プラデーシュ、ウッタラカンド、ネパールは中国のチベット自治区と国境を接しています。
 所変わってハリヤナは首都のデリーがある州です。首都があるっていうことはだいたいそのエリアはいろいろな人種が集ってカオスになっているということです。ハリヤナの上はすぐパンジャブで(すぐって言っても陸路で移動するととても遠いですが…)この州はパキスタンと国境を接しており、パキスタン側のパンジャブ州と二分された歴史があります。その北側にあるジャンムー・カシミールは政治的にもややこしいところで、どこの国の地図を見るかによってこのエリアは色が変わるとか…。パキスタンもカシミールもイスラム教徒が多数派のエリアなのに加え、パンジャブ州には黄金寺院と呼ばれるシク教の総本山があるアムリトサルという街もあります。またデリーとウッタル・プラデーシュはジャイナ教徒の7番目と6番目に大きなコミュニティーが存在しています。
 本当にカオスですね!これからインド料理を本当に勉強できるのか不安になってきました!

歴史

 料理を勉強するのには歴史の勉強が必要になることもあります。全ての料理が純インド産というわけでもなく、ペルシャやチベットから持ち込まれてインドに定着した料理もあります。が、歴史まで本当に掘り起こし始めるといつまで経っても料理の習得にすすめませんので、ここではほんの一つだけ、ムガル帝国というかつて北インドを支配したイスラム系の帝国の存在だけ覚えておいてください。名前だけで結構です!

北インドの主だった料理体系

 ここで一度北インドの主だった料理体系をまとめておきます。宗教や地域で括ることができますが、陸続きで隣り合った地域は似た料理も多く存在しています。なので、意外にスッキリとまとめることができます。

①北インド料理-ベジ・ヒンドゥーホームスタイル
②北インド料理-ノンベジ・ヒンドゥーホームスタイル
③ムガル料理-レストランスタイル
④ウルドゥー語圏のイスラム教徒の料理
⑤パンジャブ料理←シク教徒の食文化の影響下にある
⑥カシミール料理
⑦カシミール料理-ベジ・ヒンドゥー
⑧ラダック料理
⑨ヒマラヤエリア(標高が高い地域)の料理
⑩北インドレストラン料理

 もっと細かく言うと各州の料理がありますし、それぞれの州でそれぞれの宗教ごとの料理があり、さらにそれぞれにレストランスタイルとホームスタイルの区別がある…と理屈の上では分類できます。さらに細かく見ると、言語と宗教を超えて、民族ごとの料理も考えることができます。インドには500以上の民族がいるといわれていますので、そこまで含めると、どこの地域に一体いくつの料理体系が存在しているのかという話になりますね。
 ただ、このnoteの目的はインド料理を学問的に分類することではなく、インド料理を効率的に習得することです。習得に役立つ程度の分類は行いますが、それ以上は行いません。例えばパンジャブ州の料理一つとっても、パンジャブ州のイスラム教徒の料理は④に大方含めることができますし、パンジャブ州のヒンドゥー教徒の料理は①と②に含めることができます。そして①と②と④は全く別物かというと、実際のところ似たような料理もたくさんあります。⑤と①、⑤と②、⑤と④もそうです。どれか一つを習得すると、隣り合った料理体系の料理も必然的に少しずつ習得していることになるんですね!
 ①から⑨の中で比較的人口が多い料理は①~⑤番です。⑥、⑦もなかなか面白いのですが、料理としては特殊なのと食材が手に入りづらいという問題もあります。⑧、⑨はかなりマニアックなのと、いわゆるカレー料理っぽくないものも出てきます。⑩に関しては家庭用のキッチンではいろいろ設備的に難しいので、とりあえず身近にあるものから初められて、インド料理の基礎を学べて、食材やキッチンの制約も受けづらいとなると、①と②となります。①と②の料理の基礎は北インド全体の料理群及び東インドの料理群と基礎を大いに共有していますので、まずこの2つを習得すると、他の料理の習得への近道にもなると思います。

 ちなみに私は、いろいろあって東インドのベンガル料理からスタートしたのですが、ベンガル料理と①、②はやはり基礎を共有している部分が多いですし、意外に思われるかも知れませんが南インドの料理群ともいくらか基礎を共有しています。なのでどちらの料理も習得が楽でした。さらに私は別ルートで③ムガル料理を習得し、そうするとムガル料理はイスラム色が強いので↓
・④は知らないけど④の専門の人の話を聞いて理解ができる→色々すぐに覚えられる
・タミル料理が分かる+④や③のイスラム料理が分かる→チェティナード料理が理解できる
・ベンガル料理が分かる+④や③のイスラム料理が分かる→バングラ料理が分かる
・①と②と③が分かる→⑩が分かる
・③と⑩とタミル料理が分かる→ハイデラバード料理が分かる
・タミル料理が分かる→ケララ料理は親戚
 みたいな感じでどんどん料理を習得していけました。芋づる式というやつです。なのでここからインド料理を本気で習得したいという方は、どれでも良いので自分の軸になる料理体系を一つしっかりと習得することをおすすめします。
 このnoteでも様々な料理体系についてコンテンツを展開していきますが、ひとまず最も汎用性が高い①と②について優先的に記事を作成していきたいと思います。

ベジ・ノンベジの区別

 インド料理を習得する上でまず最初に考える必要があるのが、この料理は”ベジかノンベジか”です。この違いは北インドだけでなく、インド全体で適用される料理の属性のようなものです。ベジはインドのベジタリアンの人たちの料理で、ノンベジはベジタリアンじゃない人たちの料理です。インドのベジタリアンは乳製品はOKの人が多いので、ギーやヨーグルトは大丈夫です。卵は人によりますが、避ける人が多くノンベジ扱いされることが多いです。
 インドでベジ人口が多い宗教は2つあり、それがヒンドゥー教とジャイナ教です。ジャイナ教徒の料理は上で挙げたどの料理体系とも別系統なので、北インド料理の中でベジ料理といえばとりあえずベジ・ヒンドゥー料理と思っていただけるとよいです。つまり①の料理体系ですね。
 日本の食習慣ではベジとノンベジの区別が無いに等しいのでピンと来ないかと思いますが、①と②は料理に肉や魚介類を使うか使わないかという単純な違いだけでなく、料理の作り方や食べ方など細かいところが色々違います。どっちが料理として洗練されているかということではありませんが、①は野菜と豆が中心の食事なので料理を作る上でも色々気にすることが多いです。加えて肉や魚から出る出汁や旨味もベジ料理にはありませんので、一つ一つの食材を本当に丁寧に扱わないと美味しく作れません。なので、少し難しく感じられるとは思いますが、インド料理の基礎を勉強するのにはベジの料理体系から始めるのが良いかも知れませんね!

マトンのドライカレー、マトンなんでお肉、ノンベジです。
川エビのカレー、エビも魚もノンベジです。
オクラのカレーとヨーグルトのカレー、
ヨーグルトはインドのベジタリアンはOKなので、
これは2つともベジです。
お肉のカレーっぽい見た目ですが、
具はじゃがいものおだんごなのでベジです。
このようにインドには工夫をこらしたベジ料理がたくさんあります。
北インドのベジターリです。じゃがいも、ダル、豆と野菜のカレーにチャパティ。
このようにベジターリの場合は全品ベジ料理である必要があります。

北は小麦食?

 北インドは小麦から作られるパンを食べる人口は多いかも知れません。しかし炊いた米もよく食べますし、地域によってはとうもろこしやヒエの粉を使ったパンも食べられています。また小麦粉と言っても精製したものではなく全粒粉をよく使っています。南インドは米食、北インドは小麦食という対比をインターネット上の記事でも見かけることがありますが、正直あまり正確な表現ではないと言えるでしょう。南インドは確かに炊いた米や米の加工品が食の中心にありますが、それと同じ比率で北インド全体が小麦粉を消費しているというのは、たしかにそういう地域やそういう人もいますが、そうでない食事のスタイルを取っている地域や人も多くいますね!
 ただ南インドでは1日2回以上米を食べないと落ち着かない人が多いのに対して、北インドを始めインドの一定の地域で食べられている定食ターリは炊いた米は必須ではなくチャパティやロティなどのパンだけで主食を済ませることができるというように、米に対する執着には差があります。ただターリも北インドのものと言われがちですが、ゴアやハイデラバード、東インドの一部地域なども定食をターリと呼んでいる地域があり、それにはやはり米が必須ではないことには注意が必要です。またイスラム教徒はインドのどこにいても米も食べますがチャパティやロティなどのパンを良く食べます。北インドというよりも、イスラム教の影響が強い地域で小麦食の比率が上がっている可能性もあります。

まとめ

 ナン(パン)を主食にリッチなカレー(バターチキンなど)を食し、それはしばしば窯で焼いたバーベキュー(タンドリーチキンなど)を伴う。

 それらの料理は食べごたえがあり、もちろん美味しく、ごちそう感があるものです。油、バター、クリーム、ナッツにスパイスをふんだんに使用するため、毎日は食べられません。これらの料理を指して脂っこい、胃もたれをするという人もいます。 

 どこかで見た説明かと思ったら、私がこの記事の最初で紹介した文章です。日本では北インド料理として語られる上の料理ですが、このnoteで解説した通り、北インドには少なくとも10の料理体系が存在しています。そして上の料理はその中の③と⑩に属する料理です。北インドは油っこくて南インドはあっさりで食べやすいという比較もよく見ますが、それは「北インドの宮廷料理やレストラン料理と南インドの家庭料理」という全く異なる次元の料理群を比べていることで現れる違いです。北インドと南インドの家庭料理同士の違いではありませんね。実際北インド料理の特徴としてよく言われるクリームやナッツの類もレストランスタイルではよく使いますが、ホームスタイルでは特定の料理に用いる程度です。北インドのノンベジ料理の中にも肉々しくて油多めの料理が多い料理体系がありますが、おなじように南インド料理の中でも肉々しくて油多めの料理が多く存在する料理体系がありますし、上で紹介したようなクリームやナッツ類の使用に積極的でパンを主食としてよく食べる料理体系もあります。同じ次元のもの同士の比較は、相互に理解が深まるので料理の学習や習得には大いにプラスですが、違う次元のもの同士をうっかり比べてしまうと、話がよくわからない方向に行ってしまいますのでご注意ください。

 さて、このnoteでは北インド料理の全体像を整理しました。前置きが少し長くなってしまいましたが、次のnoteでは北インド料理でのスパイスを扱うための理論を徹底解説致します!インドカレーやスパイスカレーを作るときに、スパイスの配合をどうしたらいいのかいつも迷ってしまう方にはおすすめの記事です!


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