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北インドカレーのスパイスの配合は誰がどうやって決めているのか?-ターメリック&チリパウダー編

 こんにちは!鰤子です!

 この記事では北インド料理を作るにあたって、現地の人たちがどのようにスパイス(粉)の配合を決めているのかに迫ります!スパイス(粒)に関しては一度にたくさん勉強するとこんがらがるので、今後のレシピで登場するごとに一つずつ紹介していきます。ちなみにスパイス(粉)のことはパウダースパイス、スパイス(粒)のことはホールスパイスと呼んで、異なる2つの形態のスパイスを使い分けます。これは北インド料理に限らずインド料理全般でそうです。
 またタイトルでは皆さんの目を引こうと思って(!)北インドカレーと書いていますが、この記事と次の記事で紹介する理論はカレー以外の料理にも適用できます。というかそもそも北インドカレーの定義とか、カレーじゃない北インド料理とは何かとか、話をし始めるとかなりややこしい話になってくるので、とりあえず北インドカレー=北インド料理とお考えください!

北インド料理で使うパウダースパイス

  北インド料理で使うパウダースパイスは以下のとおりです!この記事では各スパイスの北インド料理においての働きのみを説明します。スパイスにはそれぞれ整腸作用などの薬効が期待できますが、”インド料理を作れるようになる上で特別必要になる知識ではない”ため、特に必要のない場合には触れないこととします。(*ただし、ターリやミールス(←インドの定食)を組むための献立を考える上では各スパイスの薬効の知識も必要になってきます。)

ターメリック:

 黄色い色素を持つスパイスです。インドが原産ということもあり、インド料理では非常によく使われます。乾燥したものを粉末にしたターメリックのパウダーをインド料理全般でよく使いますが、南インドの一部の料理では生のターメリックを使用するものがあります。
 着色のために使われるとよく説明されます、それでは説明が不十分ですね。インドではターメリックによってもたらされる黄色は美味しそうと食欲をそそるだけでなく、宗教的にも大事な色とされています。そしてターメリックの働きは着色だけではありません。料理に少量使うことによって料理全体の土台となる独特な味と香りが料理にもたらされます。インド料理関連の本や資料でも着色以外の働きを説明していないものがありますが、ターメリックが持つ味と香りはかなり強く重たいので、使いすぎないように、必ず丁寧に扱うようにしましょう。
 余談ですが、温めた牛乳に少量のターメリックを溶かして飲むターメリックミルク(Haldi Doodh-ハルディ・ドゥードゥ)は体調が悪いときに飲む簡単な風邪薬のようなものです。少しターメリックの苦味を感じるホット牛乳ですが、「こどものとき風邪をひくと親にあれを飲まされた。苦くて嫌いだった。」という思い出を持つ人も多いようです。スパイスは健康に良いと言われますが、インド人の健康維持にはターメリックも一役買っているようですね!

チリパウダー:

 乾燥させた赤唐辛子を砕いて作られたパウダー上のスパイスです。辛みの強さは、唐辛子の品種によって異なります。インド料理においては、料理の辛さを調整するために重要な役割を果たします。インドには様々な唐辛子の品種があり、それぞれの品種で味、香り、料理に加えたときの発色が異なり、特定の料理に決まった唐辛子品種が求められる場合があります。
 辛いのが苦手な場合はパプリカパウダーを用意し、チリパウダーと混ぜながら使うことで辛味を抑えることができます。
 
チリパウダー100%→辛い
チリパウダー50%+パプリカパウダー50%→ちょっと辛い
パプリカパウダー100%→辛くない

と言った具合です。

コリアンダーパウダー:

 コリアンダーの種子を乾燥させて粉砕したものです。コリアンダーというとあまり馴染みがないかもしれませんが、パクチーの種です!パクチーの種をすり潰した粉をカレーに使うというのも意外に思われるかも知れませんが、北インド料理に限らずインド中でよく使われるスパイスの一つです。爽やかな香りと味があります。

クミンパウダー:

 カレーの香りがすることで有名なクミンシードを粉に挽いたものです。クミンシードをそのまま粉に挽いた普通のクミンパウダーと、焦げ茶色にローストしてから粉に挽いたローストクミンパウダーがあります。どちらを好むかは人による部分や後は料理によって使い分けることもありますが、私が見てきた中では東インドやネパールの人たちは特にローストクミンパウダーを好む人達が多かったです。

ブラックペッパーパウダー:

 他のパウダースパイスに比べ、北インド料理ではあまり存在感がありません。使う人は使いますが、使わない人は使いません。使うときも少量使う程度にし、胡椒としての辛味より風味を期待して使います。しかし北インドの一部の料理では必須スパイスとされることがあります。

ガラムマサラ:

 複数種類のホールスパイスから作られるミックススパイスです。ヒンディー語でガラム=温かい・熱い、マサラ=(粉状の)スパイスという意味で、ガラムマサラという名称は元々、体を温める効果を期待して調合し、料理に加えていたことに由来すると言われています。ガラム=Hotと英訳されますが、辛いという意味のHotではありません。そのためガラムマサラ自体はほとんど辛味は持ちません。
 ガラムマサラにはカルダモン、シナモン、クローブ、コリアンダー、クミン、ブラックペッパー、ナツメグ、メース、ベイリーフ、ブラックペッパーなどが使用されますが、どのスパイスをどの程度使用するかは人によるのと用途によります。ガラムマサラに関してはまた別の記事で相当詳しくまとめる予定です!

カスリメティ(フェヌグリークリーフ):

 パウダースパイスというよりも乾燥ハーブの類ですが、北インド料理では好きな人はとてもよく使います。何でもかんでもちょっとずつ使う人もいれば、使い所を厳しく見る人もいますし、嫌いなのか習慣なのか全く使わない人もいます。香りがよく、味も出るので香り付け&調味料のような感覚で使う人が多いです。
 完全に乾いたものを使いますが、箱入りのものを開けたときには少し柔らかく、現地ではこれをさらに乾燥させて、カレーに使うときには手で揉んで細かく崩してから使います。最初から粉末に加工されたカスリメティパウダーもありますが、カスリメティと比べて少量で劇的に効いてしまい加減が難しいかったり、なんとなくその都度手でほぐして使いたい(←そっちのほうが安心するし)というインド人が多かったりするので、飲食店のキッチンなんかでもよく見るのは乾燥リーフの方です。
 トマトをたくさん使った料理やほうれん草や青菜をたくさん使った料理など、相性の良いインド料理の系統がいくつか存在しており、それらには積極的に使用される傾向があります。これについてはその都度のレシピで触れていきます。

パウダースパイスの使い所

 北インド料理ではパウダースパイスは以下のタイミングで使用します。

1.マサラ作り
 油で玉ねぎやニンニク生姜などの香味野菜を炒めた後にパウダースパイスを加えて炒め、マサラを作ります。マサラはインドカレーにおけるルーカレーのルーのような存在です。

2.肉のマリネ
 チキンやマトンなどの肉を炒めて煮込む前に少しの塩とターメリックとチリパウダーと一緒にマリネすることがあります。お好みでカスリメティやガラムマサラ、ブラックペッパーも使われることがあります。

3.野菜の下ごしらえ
 カットした野菜や豆を下茹でする際に、鍋に少しのターメリックを入れます。アク抜き、香り付け、美味しそうな色に着色するという効果があります。またカットした野菜を素揚げする前にターメリックとチリパウダー、塩を少しまぶすこともあります。好みでカスリメティをまぶす人もいます。

4.仕上げ
 料理が出来上がったときに仕上げに加えるスパイスです。仕上げに使えるスパイスはローストクミンパウダー、ブラックペッパーパウダー、ガラムマサラ、カスリメティのみです。いずれかのスパイスを必要や好みに応じて仕上げに少し加えたり加えなかったりします。加えたり、加えなかったりなので加える必要性を感じないときには加えなくて大丈夫です。また、スパイスではありませんが刻んだ生のパクチーやギーも北インドではよく仕上げに使われます。ただこれもスパイスと同じで必要や好みに応じてです。ホームスタイルやダバスタイルの料理よりも、レストランスタイルの料理では仕上げのスパイスやパクチーはかなり頻繁に用いられる、ほぼ仕上げに何かしら使用されると思ってもいいくらい使用されると言えます。またホームスタイルでは頻度はかなり低めですが、レストランスタイルではクリームも特定の料理の仕上げには使用されます。

 上記のうち2と3は少しずつスパイスを使うだけなので、何をどれくらい使うのかはそれぞれのレシピを見てもらえばいいのですが、問題は間違いなく1ですよね。色々なパウダースパイスが登場するのに、その配合を料理ごとにどうしたらいいのか悩んでらっしゃる方も多いと思います。実は北インド料理では、その配合を考える上ための考え方を2つに集約することができます。細かく言うともっと色々ありますが、あくまで理解しやすく、習得しやすくするためにこのnoteでは2つの考え方からスタートします。

北インド料理のパウダースパイスを扱うための2つの考え方

A.ターメリックとチリパウダーを必須スパイスとする考え方
B.クミンパウダーとコリアンダーパウダーを必須スパイスとする考え方

 北インド料理において、パウダースパイスの扱い方はこの2つの考え方に集約されます。つまりどちらにしても2種類のスパイスを軸に料理全体のスパイスの配合を考えるということですね。ただ、ヒンドゥー教とかイスラム教みたいな宗教のようにそれぞれがどちらに所属するか決めるといったものではなく、「色んな人が色んなことを言うてますけど、色々考えてまとめると結局この2つに集約された」という私の研究による分類であることには注意してください。これも細かく言うともっといろいろ考え方があるのですが、このまとめ方が一番簡単だと思います。ではそれぞれの考え方に触れてみましょう。このnoteではAについて徹底的に解説し、Bについては次のnoteで徹底的に解説します。
 具体的に見ていく前に、もう一度北インドの⑩の料理体系を見てみましょう。

①北インド料理-ベジ・ヒンドゥーホームスタイル
②北インド料理-ノンベジ・ヒンドゥーホームスタイル
③ムガル料理-レストランスタイル
④ウルドゥー語圏のイスラム教徒の料理
⑤パンジャブ料理←シク教徒の食文化の影響下にある
⑥カシミール料理
⑦カシミール料理-ベジ・ヒンドゥー
⑧ラダック料理
⑨ヒマラヤエリア(標高が高い地域)の料理
⑩北インドレストラン料理

 これから紹介する2つの考え方が適用できるのは主に①と②の料理体系です。ただ北インド全体で共有されている料理もたくさんあるので、この2つの考え方を扱えるように慣れば④、⑤、⑥、⑦、⑨の料理の中でも理解できる料理が勝手に増えてきます。⑧はスパイスの扱い方がインドの感覚と違うのと、③と⑩は一見パウダースパイスの扱いが2つの考え方のうちのどちらかに準拠しているように見えても、合わせて使うホールスパイスや仕上げスパイスを加味したレシピになっていたりします(この2つの考え方では、ホールスパイスが不要というわけではありません)。仕上げスパイスに関してはこの記事でも触れましたが、料理を作る人の好みの話にもなってきますが、ホールスパイスの扱いに関してはまた別の理論が必要になってくるんですね。人によってはレストラン料理はパウダースパイスはバランス良くちょっとずつ色んな種類を使っておけばそれで良くて、むしろ大事なのはホールスパイスという人もいるくらいです。というわけで、ホールスパイスはまた別の記事で扱います。それでは本題に入りましょう!

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