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【短編小説】復讐

2人目の赤ちゃんが産まれ、これからという時期に夫はスマホゲームにのめり込んでいた。家庭の責任から目を背け、妻の苦労を見ようともしなかった。
彼の世界は、スクリーンの向こうの仮想現実に限定されていた。妻はこの状況に何度も声を上げ、改善を求めたが、夫はイライラし、物にあたるだけで依存は深まる一方だった。
彼女の訴えは空しく響いた。


離婚理由にもできず、改善も見られない日々に妻のストレスは頂点に達した。
体調不良が続き、病院に行く間赤ちゃんを見て欲しいと夫に言うと、「こっちはやることが溜まって忙しいんだ!ただでさえ邪魔してくる癖に、新クエの1番大事な時期になんの嫌がらせだ!」と激昂し始めた。

スマホゲームのスケジュールのことだった。
妻は全身から血の気が引いた後、今までに感じたことがないほどの憎悪を感じた。
そのまま引き下がり、以前冗談でネットで探した呪いを実行することにした。
静かな和室で、妻はろうそくとウェブで印刷したお札を並べ、深い集中のもと夫に向けた呪いの儀式を始める。その眼差しは、絶望を通り越し清々しさすら感じた。


翌朝、夫が目覚めると、自分がスマホ画面の中、ゲームの世界に閉じ込められていることに気づいた。
彼は玉弾きのゲームの一部となっており、他のプレイヤーによって容赦なく打ち出される球と化していた。空を見上げると、驚愕することに、妻がそのゲームをプレイしており、冷ややかに言葉を投げかけた。
「こんなゲームに子供をほったらかしにするほどの魅力があったのかしら。アカウント、いい値段で売れるみたいだし、フリマサイトで売って子供たちと美味しいものでも食べようかしら。」
巨大な妻の顔は微笑みを浮かべながら言った。

しかし、夫には反論する機会も、現実世界に戻る手段もなかった。彼は永遠にそのゲームの中に閉じ込められてしまった。外の世界では、妻は夫のアカウントを売却し、そのお金で赤ちゃんを預け、普段手をかけてやれないお兄ちゃんとファミレスへと出かけた。美容院にも行き生まれ変わった様に気分がいい。
彼女は夫に思う存分スマのゲームをさせてやり、子供たちにより良い生活を提供することができた。

もう私たちの心配は要らない。
思う存分楽しみなさい。

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