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[V系SF] 伏見瞬賞:Mantra Digital「luv garden」

ロカスト編集部の河野咲子が、猿場つかさとともにパーソナリティを務める第6期ダールグレンラジオ。「ゲンロンSF創作講座」の提出作を批評するラジオ番組であるにもかかわらず、SF作家・樋口恭介およびロカスト編集長・伏見瞬をゲストに迎えたトークから派生して講座とは無関係に独自の「V系SF」企画がスタートしてしまい、応募作のなかから受賞作が選出された。

ロカストプラスでは、本企画と関連して受賞作のうち2作品および河野咲子の書き下ろし作品を配信する。

本ページにて配信するMantra Digital「luv garden」は、Tohjiの楽曲を題材としてJ.G.バラードの『クラッシュ』を思わせる破滅的な欲望を描き、伏見瞬賞を受賞した。
銀河のハイウェイを駆けめぐる少年たちの幻想は狂おしい。そして特筆すべきは、その光景がイオンモール・ヨーカドー・コジマといった土着的な、しかし固有性のないショッピングセンターから出立している点ではないか。ショッピングモールしかレペゼンするHoodがない少年たち=Mall Boyzの一員、Tohjiの曲からの連想として、あまりに正しい選択。あらゆるポピュラー音楽は、どこでもない場所に生まれてしまった子どもたちに束の間の、しかし強烈ななぐさめを与える。その強烈さが、V系から近い場所にいるとは思われていないTohjiのV性の中心を貫いている。
以下、選考コメントとともに本文をお楽しみいただきたい。

V系とは、透明なイマージュへの憧れである。恐怖にもとづいた現実逃避ではなく、現実を能う限りの透過性の中で受け止めたいという欲望。透明になるために、「今、ここ」を切り離した別の世界の構築が要求される。以上の素描は、SFにもそのまま当てはまる。
一般的には決してV系に分類されないTohjiの音楽を題材に置きながら、本作は透過性の希求としてのV系/SFを体現している。J.G.バラードとイオンモールが出会う場所で、青い鋼鉄への恐怖と欲望を記号に託す。V系SFと呼ぶにふさわしい、色のない世界の素描。

伏見瞬 選考コメント

「機銃掃射をも圧倒するかのように咆哮する自動車は、《サモトラケのニケ》よりも美しい」(未来派創立宣言、1909年)。速度の美へと向かう古典的な前衛性は、本作においてふたたび受肉し鉄の身体を得ます。「わがために塔を、天を突く塔を、白き光の降る廃園を」(黒瀬珂瀾/塔の街、その他)——塔、あるいはプラズマのファルスを持つ少年たちが修辞をきらめかせて宇宙との合一を果たすとき、それは側から見ればともすれば若さと裏腹の幼稚な性愛の白昼夢にすぎないのかもしれませんが(事実、語り手はどうやら「何度寝ても目が覚める」身体の持ち主らしく——)それゆえにこそ純化されうる唯一絶対の快楽と痙攣が存分に描き切られたテクストです。

河野咲子 選考コメント

luv garden

Mantra Digital

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