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コミュ障が2年ぶりに社会人サークルに参加してきた話

 自分の殻にこもるのが好きなコミュ障だってたまには人とのかかわりを求めてしまう時がある。ほんのふとした時、例えば残業で疲れ果てた深夜の帰り道とかで、不意に「誰かと話したい」という気持ちが芽生えてくることがあるのだ。

 現実逃避のために1人で酒を飲んで気持ちよくなったところで、根本的にはそれは解決しない。「1人でいるのが好き、気楽」とか「他人は怖い」とか、そんな気持ちで僕の脳内の99%は占められているが、何かのきっかけで残りの1%が疼いて訴えかけてくることがたまにあるのだ。今回はそれにあえて従ってみた記録である。


コミュ障、社会人サークルの門を叩く

 ――というわけで、少々(いや、かなり)大袈裟な出だしになってしまったが、先日、社会人サークルに参加してきたという話をしたい。社会人サークルといっても色々あるが、今回参加したのは、旅行やら酒やらドライブといった平凡なものを除いて僕の唯一の趣味だと誇りを持って言える「山登り」のサークルである。

 「●●県 登山 サークル」とかでググってみると、サークル募集のサイトがいくつかヒットする。その中で、サークルの説明文とか活動内容をチェックし、活動履歴が割と頻繁で、人数もそんなに多くなさそうで、あまり陽キャっぽいことをしなさそうなところにエントリーした(バーベキュー✨とかキャンプ✨とかダイビング✨とかテンション高めに書いてあるところは自分には絶対合わないので、避けるようにした)。

 なお、実は2年前にも、今回とは別のサークルだが、山登りのサークルに1度だけ体験参加したことがある。しかし、サークルの代表が完全なる陽キャだったのだ。僕の大嫌いな黒のアルファードで颯爽と集合場所に乗り付けてきたうえ、スキンヘッドでサングラスかけて言葉遣いはチャラチャラ、態度もオラオラしてたので一瞬で嫌いになり、参加後すぐに自分からやりとりを断った(参加していた女性陣からは好かれているようだった。まあそうだよね)。

 さて、今回の登山だが、サークルの代表曰く、珍しいことに結構参加者が多く、10人以上が来るとのこと。いきなりそんな大人数に混じることができるのか不安になったが、もしかすると、誰か1人ぐらいは自分と波長の合う人を見つけられるかもしれないとポジティブに考えてもみた。

 前日となる土曜夜は、珍しく一応お酒も控え目にしておいた。翌日酒が残った状態だと、登山なんて行く気にもならないからである。自分から申し込んだのにも関わらず、やっぱり面倒くさいなぁ、なんで申し込んでしまったんだろうというモヤモヤした感情とともに寝床に入った。

憂鬱な日曜日の始まり

 翌朝、7時半に起床し、準備を整える。天気は快晴とはいかないが、まあ悪くはない。やはり少々憂鬱であるが、体調も悪くないので決行することに決めた。集合場所は、自分の住んでいるところからはそこそこ離れているJRの駅だったが、電車で行くと色々と別れ際が面倒なことがあるので、自転車で行こうかと思い、9時前に出発した。

 途中でコンビニに寄り、頂上で食べる用の弁当と飲み物を購入のうえ、一応、サークルの人に配ることがあるかもしれないと思ってハッピーターンも買っておいた。

 しかし、いつものように道もろくに確認せずに出発したため、途中で方向がわからなくなりだんだん不安になってきた。あと30分で集合時間の10時になってしまう。初回で遅刻はものすごく印象が悪いのでどうしても避けたい。背に腹は代えられないと思った僕は、自転車で行くのを諦め、とりあえず目に付いた駅から電車に乗ることにした。なんとか10分前には到着できそうだ。

 駅のホームでストレッチをしていたら5分ほどで電車がガタゴト、ノロノロとやってきた。プライベートで知らない人と話したりするのは久々なので少しずつ心拍数が上がってくるのが分かる。

このレールの先にあるのは楽しい時間なのか、それとも・・・

 乗車すると、向かい側の席に、いかにも登山の恰好をした人当たりのキツそうな女性が座っていた。僕の方をチラッと見て、なぜかキッと睨まれた気がした。サークルの人だろうか、そうだったらちょっと嫌だなぁと思ってしまった。

 待ち合わせの駅に到着した。駅前の道路にそれっぽい人たちが5~6人輪を成して固まっていたので合流。さっきの人当たりのキツそうな女性もやはりサークルの一員だった。やっぱりかぁ。

 代表の人と少し話をした。白髪交じりの50代前半くらいの人だ。もの静かで落ち着いていて、先ほど言及した2年前のサークルのパリピとはまさに正反対な感じだ。

 僕と同じ体験参加の人が1人いるとのことで、紹介してもらった。40代くらいの何の変哲もないおっさんである。少し話してみると、会社の人に勧められて登山を始めてみたらハマってしまったとのことだった。

 全然悪い人ではなさそうだが、話しているとふとおっさんの吐く息が臭いことに気づく。そういえば自分はどうだろうか、マスク無しで人と話すなんて久し振りだし、口臭ケアのことはあんまり考えてなかった、もっとちゃんと歯磨きしてくればよかったか・・・などと自分の世界に入ってああでもないこうでもないと考えているうちに、そろそろ参加者が集まったようだった。

 なんと、予想以上に女性の参加者が多い。男女比でいうと3:7ぐらいだろうか。滅多にお目にかかれない山ガールがいるぞ!!うおおおお!!と俄然アガってきた・・・と言いたいところだが、実際はかなり緊張していた。

山行スタート

 簡単に自己紹介をしたのち、山行がスタートした。なんとなくの流れで例のおっさんと2列になり、話しながら道幅の広い上り坂を上がっていく。最近行った山の話などをどちらからともなくポツポツとしながら先に進んだ。

 おっさんと僕は隊列の真ん中から少し後方の位置にいて、代表は一番後ろで全員の様子を確認しながら登っていく。このまま夜逃げでもするつもりなのか、大荷物を背負った30代ぐらいのクセの強そうな常連っぽい男が先導役を務めている。なぜか片手にGoProを携えていた。一瞬で僕の苦手なタイプであることを察したが、先入観は良くないと自分に言い聞かせる。

 しばらく歩くと寺院に到着し、ここで一服する。各自、顔見知りと話をしたり、写真を撮ったりして過ごす。オッサンともひとしきり話してそろそろ話すこともなくなってしまったので、境内をウロウロしたり、寺院の由来やら何やらが書いてある掲示板の文字をゆっくりと読んだりしながら時間をつぶす。

コミュニケーションが取れない

 休憩を終え出発。少し隊列が変わり、僕はオッサンと離れ、同い年か少し下ぐらいのピチピチの山ガールの後ろについて登った。まあもちろん、少しぐらい話せるタイミングがあるかと期待しなかったわけではない。

 山ガールはこのサークルの常連らしく、前にいた男連中とずっと何やらベラベラと喋っていた。どうやらこちらから話しかけるチャンスはなかなかなさそうだ。

 しかし、チャンスがあったとて、いったい何を話せばいいのだろう。「あの、このサークルはよく来られてるんですか?」――そんなの話聞いてれば常連だってことは分かる。「山はよく登られるんですか?最近どこの山に行ったんですか?」――聞いたところで何になろうか。

 というか、登ってる途中に後ろから急に話しかけてしまうのもさすがに唐突すぎるし、相手のペースを乱してしまうことになるかもしれない。さらに言えば、「うわっ、なんか日本語不自由なチー牛に話しかけられた・・・こいつ絶対下心あるやろ・・・」と相手の気分を害してしまうかもしれない。もっと言えば、「アイツが来るからサークル行くのやめよ・・・」と思わせてしまうかもしれない。みだりにこちらから話しかけるのはまずい。

 やっぱり何かきっかけがないと話しかけるのは難しい。運命のいたずらで2人きりになるシチュエーションがあればきっと話しかけられるのに。前の山ガールに話しかけようとするのは諦めて、ふと後ろを振り向くと、それは確かに女性だったが、ヒジャブみたいにフードと黒いマスクで顔一面を覆っていたので、話しかける気力も失った。

イメージとしてはこんな感じである

 周りの人はそれぞれ顔見知りの人と楽しげに雑談したり、和気あいあいとした雰囲気だ。体験参加だからと言って何か話しかけてくれたりとか、特に配慮はしてくれない。

 それぞれ構築済の人間関係があって、喋りたい、仲良くなりたいのであれば、新参者はそこに自分から割って入っていかないといけない。それが当たり前だ。例えば僕の容姿が端麗でスタイルも良かったならそうとは限らないかもしれない。でも結局、大抵のことは自己責任なのだ。僕は前を歩く山ガールのお尻を見つめながら、ただ黙々と歩を進めることだけに集中した。

集団行動の難しさ

 標高の低い山だったので、駅から出発して1時間ほどで頂上に到着した。景色はあまり良くないうえに、先日から列島を覆っているとか何とかいう低気圧のせいで気温が低く、風も強い。

 ここで、頂上で野外調理するグループと、ここから30分ぐらい歩いた先にある別のピークまで縦走するグループに分かれるとのこと。例のクセの強いリーダーを中心に、パスタか何かを作るという。山ガール2名も奴にとられてしまった。僕は体験参加で野外調理の話なんて聞いていなかったので、オッサンと一緒に自動的に縦走グループの方に組み込まれた。

 僕とオッサンは隊列の一番後ろに置かれた。のっけから急な下りだったので、結構なハイペースで進んでいく。僕は1年ぐらい前から膝を壊してしまっているので、必死でついていっていると、僕の後ろについてきていたオッサンの様子がおかしい。どうやら体調があまり良くないようだ。

 ひとまず先に行ってくれと言われ、置いていくわけにもいかないので「いや、それはまずいですよ」と言ったが、「いや、ほんとに大丈夫なんで」とあくまで謙虚である。すでに前の人は先に先に進んでしまっていて、既に視界から消えていた。ここでオッサンと問答していても埒が明かないので、とりあえず分かりましたと言って足早に進んだ。

 前の人というのは電車の中で出会った例の人当たりの強そうな女性であった。やっと背中が見えて追いついたが、「あの、すいません、後ろの人が体調不良で」と後ろから声をかけるのに20秒ぐらいかかった。一呼吸整えるのと、適切なタイミングを探っていたからである。

 オッサンのことを伝えたら、「えっ、そうなの!?そういう時は置いていっちゃダメなんだよ!」とその女性に叱られてしまった。いや、アンタらがどんどん先に行くからでしょ・・・と言いたくもなったが、グッとこらえた。

 急いでみんなでオッサンがいたところに戻ると、オッサンはもういなかった。一体どこに行ってしまったのか・・・。少なくとも僕はオッサンのそばにいるべきだったのかもしれない。周りの人たちに冷たい目で見られているのを感じながら、しばらくオッサンを探してキョロキョロしていた。

 数分経ったところでオッサンが茂みから姿を現した。とりあえずはホッとした。(僕のせいで?)遭難とか大ごとになってしまったら一体どう責任を取ればいいのかと思っていたが、見つかってよかった。なんかお腹の調子が悪かったのだが、今は落ち着いているらしい。

 若干心配ながら、オッサンが大丈夫と言い張るので先へ進んだ。オッサンはまた体調が悪くなってはいけないので、隊列の前の方に配置された。そして僕は一番後ろになった。

 僕の前には例の人当たりのキツいオバサン(あ、オバサンって言っちゃった)ともう1人の女性がいたが、この2人も常連らしく、過去にサークルで登った山のこととか、思い出話をずっとしている。僕が割って入れる隙間などない。割って入るにしても、縦1列で歩きながらだしタイミングがうまく掴めない。改めて、山に登りながら会話をするということの難しさを思い知る。

そして、孤立

 元いた頂上に戻って昼ごはんの時間になった。例のクセ強リーダーは何人もの女性を周りにはべらせながら、作った料理をつつきつつ何やら話している。僕はあえてそこからは離れた場所にレジャーシートを敷き、とりあえず一息ついたのち、おもむろにリュックから弁当を取り出して食べ始めた。

 しばらくみんなが思い思いの時間を過ごす。代表は自分で持ってきたチェアに座ってコーヒーを飲みながらのんびりしている。オッサンは誰かと話している。どうやら同じような年頃の子どもがいるらしく、話が合うようだ。

 僕の斜め向かいのベンチには例のヒジャブ女が腰かけて黙々と食事をとっていた。マスクを外しているところを今日初めて見たが、なんと田中みな実似の爆美女だったので思わず目を疑ってしまった。

 (美女だからというわけではないが)ヒジャブ改めみな実に何か話しかけてみようとチラチラ視線をやりながら話の種を探すが、何も見つからないし、相手はこちらに全く興味を示してくれない。当たり前か。そうなると、こちらもうつむいて黙々とコンビニ弁当を頬張るしかない。

結局周りと二言三言しか喋れなかった。あぁ酒が飲みたい

 ものの5分で食べ終えた僕は、周りの会話を聞いたり、ぼんやりと景色を見つめたりして過ごしていたが、やがて寒くなってきたのでたまらずレジャーシートを片付けた。ブルブル身震いして体温の低下を防ぐ。早く下山したい、帰りたいのに周りはまだ談笑している人もいるので帰れない。しばらく虚無の時間を過ごした。

 下山はあっけなく終了した。みんな疲れていたのか言葉少なだったので、なんとなく自分も合わせた。今朝集合した駅まで戻ってきて、お疲れ様でしたと言い合って解散した。配るタイミングの無かったハッピーターンは、結局その日の酒の肴になった。

総括

 2年ぶりに山登りの社会人サークルに参加してみたが、うーん・・・実際に入会して2回目、3回目、4回目と参加していたら誰か気の合う人や喋れる人も見つかるかもしれないが、そこまで努力をしてまで人間関係を構築したいのかどうか自問してみると、どうしても、「人間関係は向いていない。一人のほうがいい。気楽だ」という結論に落ち着いてしまう。冒頭でも言及したように、脳の99%がそういう考え方なので仕方がない。

 あと、やはり普段の生活で女性との出会いがない僕は、どうしてもサークルで女性と出会うと何かを期待してしまう。下心を持っていると思われたくはないが実際そうなので、申し訳ないがどうしようもない。

 でもある意味、サークルも職場と似ているのかもしれない。ある一定のルールをもって節度ある社会人が参加している空間を乱すわけにはいかない(大学生のサークル活動とは違う)。職場は仕事をするための場所であるのと同様に、このサークルは山に登るための場所なのだ、という捉え方もできよう。そんな風に馬鹿真面目に考えている人なんて一握りだろうが。

 あとはどうでもいいが、登山とかキャンプ系にはピンからキリまで色んなギアがあって、周りの会話を聞いていても半ばマウントの取り合いになっているような気がする。野外調理をするとかしないとか、キャンプをするとかしないとかもそうだ。本人たちはそんなつもりがないのかもしれないが、なんとな~く嫌な気分になる。

 今回お世話になったサークルの代表には、入会するかはまた考えて連絡しますとは伝えてあるが、今のところ何もアクションをしていないし、多分こちらから今後連絡をすることもないような気がする。熊に遭遇したって、遭難したって、それは全部自己責任だ、それが本来あるべき姿なのだとまた強がってしまうのだろう。そしてまた2年もしたら「人と関わりたくなった」などとほざいて新しいサークルを探している姿が目に見えるようだ。まったく、滑稽そのものである。

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