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【随想】小説『死神の精度』伊坂幸太郎

死神の精度を今更ながらに読んだ。
随分昔に中途挫折して、うっちゃってしまっていた。
どうも短編小説というのは、最後まで読み切るのが難しい。
最初の方を読んだら、それで満足してしまうのだ。
今回も読み切るのに、結構な時間がかかった。
ちびちびと飲む晩酌のように読み進めた。
して、どうだったかというと、思ったよりも楽しめた。
昔読んだ時は、「死神」というファンタジー要素(ストーリーがご都合主義になってしまうのではないかという懸念)に抵抗があって読めなかったような気がするが、
ここのところ伊坂幸太郎作品を「ゴールデンスランバー」「チルドレン」「あるキング」と読んできて
運命という第三者視点から、当事者たちの非喜劇を俯瞰的に見る彼の話法というか、語り口に慣れ親しんだというのもあるかもしれない、
超越的な「死神」の存在についてあまり意識的にならずに、純粋にストーリーの面白さを追うことができた。
死神の精度には、6つの短編が入っている。
「死神の精度」
「死神と藤田」
「吹雪に死神」
「恋愛で死神」
「旅路を死神」
「死神対老女」
だいたい一つの話が50ページくらいだが、「旅路を死神」だけちょっと長めである。
どれも小気味よくまとまっていて面白いのだが、
強いて一つ選ぶとしたらやはり「旅路を死神」だろうか。
この物語だけ、なんだか運命的(予定調和)でない行き当たりばったりな展開(短編において脱線する暇も余裕もないはずなのだが)をみせるのが、妙に印象に残った。
物語の登場人物が、ストーリーの呪縛から逃れようとしているように感じた。
まあ、結局最後は華麗にストーリーの網に絡めとられてしまうわけだが、
どこにたどり着くか分からないワクワク感のようなものは、伊坂幸太郎作品にしては珍しい読み心地であった。


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