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成れの果て

 きっとあなたも知っているであろう日本有数の大ベストセラーの作者であり、しかしその後は特に世間の話題になることもなく、本人のTwitterのフォロワー数は千人程度しかおらず、呟いてることも退屈な政治・社会批評ばかりというとある小説家がいる。流石に名前は出さないけれど、私にとって衝撃的だったのは、名前を気にせずにその退屈な政治・社会批評をだらっと眺めてみたとき、ああ、こんな呟きばかりしてる下らない連中なんてごまんといるわと軽蔑気味に思ってしまったことだった。

 そうだ、ごまんといるのだ。日本有数のベストセラー作家は文字通り有数だが、これといって論理的な主張が出来てるわけでもなく、かといって専門的な知識や学識があるわけでもなく、扇情的な政治・社会批評をたらたら垂れ流してるだけの退屈なおっさんはこの世にごまんといる。ちょっと話題になってる時事問題をTwitterで検索すれば文字通り無数に現れてくる呟きと何ら変わらない。こんなおっさん達の説教に付き合ってるぐらいならば、もっと楽しくて意義のある「物語」を観賞してたほうかずっとマシだ。

 きっと彼自身はこのような形で世界にコミットメントを試みようと思っているのだろう。でも傍から見れば、最早自前の「眼に見えている物語」では世間の流行に乗れなくなって、みんなと同じような「眼に見えない物語」の一部に溶けることでしか存在感をアピール出来なくなった可哀想なおじさんでしかないのだ。名前以外には、いやちゃんと名前を名乗ってるのにもう「眼に見えない物語」の一部に溶け込んでしまった元日本有数のベストセラー作家の成れの果てだ。こんなのに比べたら、人気ゲームの新情報に一喜一憂したり、旅先の写真をガンガン挙げたり、美味しいもの食べてわいわいしたりしてる健全な一般人アカウントのほうがよっぽど個性的である。何よりもそういう呟きのほうが面白くて「読み甲斐」があるし。

 私達は、プロとかアマチュアとかに関係なく、小説という「眼に見えている物語」を通じて世界に関わろうとしている/していたはずだった。私達が恐れるべきは売れないとか読まれないとかではなく、己の外側にある「眼に見えない物語」の一部でしかなくなってしまうこと、とても「物語」の作者とは名乗れないような存在になってしまうことではないのか。そうだ、これは自戒を籠めて。私達はただ面白い物語を作りたかっただけだったはずなのだ。


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