【創作小説】カメラが紡ぐ物語

夢だった劇場メンバーになれたけど、人見知りのせいでなかなか話しかけられない。


芸歴2年目。
周りは先輩だらけ。同期はいるけど既になじんでいて、入る隙間がない。
せっかく今月から劇場メンバーになれたのに。

相棒は趣味でいつも持ち歩いてるミラーレスカメラ。
カメラ片手に今日も舞台の合間に、難波の街を歩いて写真撮影。
タピオカ屋さんで撮影。
いつかは劇場メンバーの写真も撮ってみたい。


ある日の劇場。
今日は公演の前説を任されている。
公演前の舞台の写真を撮ってみんながいる楽屋に戻った時だった。
「ねえねえ!石井ちゃん!!カメラやってるん??僕もカメラ好きやねんー!」
キラキラした笑顔で話しかけてきたのは先輩芸人さん。
「小笠原さん!!小笠原さんってカメラやられるんですか…?」
ピン芸人の小笠原さん。あたしもピン芸人だから、仲間だと思っている。
「最近一眼レフにはまってさ。インスタにもあげてるねん!!高倉さんもフィルムカメラやってるし、今から撮影会しよか!!」
気付いたら、小笠原さんに手を引かれていた。


小笠原さんに手を引かれて高倉さんの元へ。
高倉さんって、確かもうすぐ上京するんだよなぁ…。
「高倉さん!この子、最近劇場メンバーになった40期の石井ちゃん!!ミラーレスカメラ持ち歩いてるんですって。まだ少し時間あるし、3人で撮影会しません?」
この一言で高倉さんもノリノリになった。

劇場の外の階段で3人で撮影会。
お互いに撮影するのが楽しい。
「石井ちゃん!!笑って笑ってー!」
小笠原さんに振り向けば
「かわいいやん」
そう呟く高倉さん。
「小笠原さん!!すみません!!!!目線ください!!」
ようやく声を出せた。
3人での撮影会はギリギリまで行われた。


「石井ちゃんって笑うとかわいいし、話すと楽しいのに人見知りなん?」
高倉さんが覗き込む。
「そうなんです…。せっかく今月から夢だった劇場メンバーになれたのに、人見知りのせいで話せなくて。元々カメラが好きで、ミラーレスカメラいつも持ち歩いてるのでミラーレスカメラしか友達今はいなくて。本当はもっと同期と話したい。先輩たちとも話したいんです…」
涙が出てきそうだった。

「大丈夫!僕がいるし、高倉さんもいる!!戻ったら話しかけてみよっか!!!怖くない怖くないでー!」
この小笠原さんの一言で軽くなった。


楽屋に戻ると高倉さんがあたしの手を引っ張って先輩の元へ。
「今ちゃん今ちゃん。見てみて。今な、小笠原と石井ちゃんと撮影会してきたんよ。石井ちゃんって最近劇場メンバーになったんやけど、人見知り過ぎて誰とも話せへんねんって。仲良くしてあげてほしいねん」
今野さんって、高倉さんと同期だよな…。
漫才で賞取ってるし春からは冠番組はじまるし、すごいコンビだよな…

「なーんや!人見知りやったんかー!!いっつもすみっこにおるし、この前タピオカ屋さんで写真撮ってるの見たで。よろしくなー!」

高倉さんがこの劇場からいなくなっても、やっていけそうな予感がします。