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【創作小説】転生したら5年後の自分は性別変わってた件について

死ぬときって本当に突然だと思う。
居眠り運転の車が子供に突っ込んできた所を、あたしが助けたらどうやらひかれたらしい、
その瞬間の事は覚えていない。
「湊!!」
誰かが叫んでる事しか覚えていない。


それから5年。
あたしはどうやら転生したらしい。
「!?!?!?おとこ!?」
性別が変わっていた。待って待って。
目が覚めたら5年後だし、劇場らしき所。
そもそも病院で寝てるかと思ってた。
「大和ー!ネタ合わせするでー!!」
…ネタ合わせ。そう。5年後のあたしは男性に転生して、芸人になった。

Honey Bitter。
これが転生したあたしのコンビ名。
川口大和が今の名前。相方は片岡優也。
ハニビと呼ばれてて、芸歴2ヶ月で劇場メンバー入り。
快挙と言われてたらしい。
(後に結成3週間の先輩コンビが劇場メンバーになったから、歴代2番目に最速らしい)

出囃子と共に舞台にあがる。
緊張するけどお客さんが笑ってくれるから辞められないし、楽しい。
ありがたいことにファンの方もいる。

ライブ終わりにロビーに出ると
「川口さん!!」
確かいつも来てくれる女の子だ。
「雅ちゃん!今日も来てくれたんやね。ありがとうー!」
転生する前は女性だったから(転生前の記憶は女性だったって事しか覚えてない)、不思議とファンの子達の気持ちはわかる。

転生前の記憶が断片的とはいえあるなんて、誰にも言ってない。
そもそも5年後に転生して性別が変わったなんか、アニメやラノベの世界でしか聞いたことがない。


「大和ー。帰るでー」
振り替えると先輩の上村さん。
上村さんのコンビはグリーンティー。
「板ちゃんが家で待ってるで!今日はカレーやって」
板ちゃん?そうだ。同じく先輩コンビのふわふわの板橋さんと3人でルームシェアしてるんだ。

着替えは慣れない。
男性比率は多いけど、裸を見るのが慣れない。
「!?!?」
こんな感じだからみんなにピュアすぎるって言われてる。
毎回目を隠すから、
「かわぐっちゃんってまさかおネエ?」
なんて丸山さんに言われたこともあった。

おしゃれな家。
ここが転生したあたしの家。
「ただいまー」
扉を開けるといい匂い。
「上村、大和おかえりー。今日も大和はピュアやった?(笑)」
出迎えてくれた板橋さん。

元々上村さんと板橋さんはルームシェアしていて、根室さんって先輩と3人で暮らしていた。
けれど根室さんが彼女さんと結婚することになって、ルームシェアしていた家を出ることになった。
転生後のあたしは板橋さんとよくライブが被っていて、引っ越しを考えてるって話をしたらこの家に誘われた。

「いただきます!!」
こんな何気ない日常が幸せ。
ごはん食べてだらだらしたりはしゃいだり。
転生しなかったら、こんな日常は手に入らなかったのかもしれない。
だけど。転生したって事をも信じてもらえるかわからない。


部屋に入ると転生前の事が遠い日のように思えてくる。
「実は転生して5年前の世界から来た」
なんて言ったら、誰が信じるのだろうか?
誰にも言えない。

「なぁ大和。転生したら何したい?」
実はもうすぐ初めての単独ライブを控えていて、今日は相方とネタ合わせ。
会場が劇場だから気合いも入ってる。
たまたま部屋にあった漫画が転生ものだったから、そんなことを聞いてきたのだろう。
「とりあえずモテたいかな(笑)」
実は自分が転生したなんて言えなかった。

優也が帰った後、
「転生がどうのこうのって言ってなかった?」
背後に板橋さん。
板橋さんは上村さんと同期だけど板橋さんの方が年上だから、お父さんみたい。
「転生したら何したいって話してたんです(笑)」
うまくごまかしたはずだった。
「なぁ大和。実は大和自身が転生してるんちゃうん?」
鋭い。
急に涙が出てきた。

「上村さん、板橋さん。実は僕、転生してるんです。転生前は女の子で湊って名前だったってことしか覚えてないですが…」
ごはん終わりに話してみた。
「マジ!?!?転生ってホンマにあるんや!?やから大和、恥ずかしがってたのか!」
納得する上村さん。
「やっと話してくれたなぁ。しんどかったやろ」
頭をなでてくれる板橋さん。
この二人と出会えてよかった。

「優也には言わんでええの?」
それだ。板橋さんはいつも気がつくのが早い。
「優也には言わんでおきます。転生して性別変わったって事は、神様がくれたチャンスやと思うんでこのままHoney Bitterとして頑張ります。それにマスコミにもばれかねないんで…。やから、この事はこの三人だけの秘密にしてください」
二人は笑顔で頷いてくれた。


単独ライブの日。
ロビーにはお花がたくさん。
開演前のチケ売りはまさかの板橋さん。
板橋さんもチケ売り終わったら上村さんと見てくれる。
「お前らすごない!?1年目でこんなにお花もらってファンも来てくれてるなんて、将来有望やなー。俺らの単独の今までのお花の数より超えてるわ(笑)」
ブルーローズの大島さんが話しかけてくれる。
「大島さん!あれ?大島さん、チケット持ってる…」
「さっき、板橋から買ったんよ。Honey Bitterの初めての晴れ舞台やし、大和も来てくれてたって聞いたから。ファンとして楽しませてもらうな!」

「川口さーん!!」
雅ちゃんだ。隣には知らない女の子。
「単独おめでとうございます!!友達連れてきちゃいました(笑)」
そうだ。今のあたしにはたくさんの人達がいる。
無敵だ。

舞台袖でネタ合わせもしてあとは開演のみ。
「大和!片岡!売れた!!完売や!!」
走ってきた板橋さん。
「ほんまっすか!!板橋さんありがとうございます。ホンマにありがとうございます。僕らは幸せです…」
優也の目には涙が浮かんでいた。
「初単独楽しんできぃや。これはすべて転生した今の大和が掴んだ事や」
小声で言ってくれた。

「どうもー!!Honey Bitterでーーす!!」
出てくると立ち見のお客さんもいて、たくさんの拍手。その中には板橋さん、上村さん、大島さん。
たくさんの人を笑わすために舞台に今日も立つんだ。

*Special Thanks*
ムード様。