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老害な5歳児クラスの発表会

 「これが年長?年中のほうが上よ。親はどう思うかしら」

 ももこ先生は、今日も、園長先生に指摘された。
 
 はしもと保育園の園長先生は、公立保育園の園長OG。自分の保育観にも、園長としての業績にも、絶対的な自信を持っている。

 ももこ先生は、5年目の保育士。今年度は初めての5歳児クラスだ。
 昨年度の5歳児クラスの担任が、毎日のように悩んでいたのを思い出す。

 園長先生のアツが強くて・・・。

 話が聞けないのはひきつけが足りないから。みんなで参加できないのは我慢が足りないから。我慢させて、集めて、惹きつけなきゃ。年長なんだから。まず、毎日集会をしましょう。私がピアノを弾いてあげるから。

 昨年度の担任はそう言われて、気乗りしない子どもをなんとか集会にかきたてていた。そして、虚しい、とつぶやいていた。

 ももこ先生は、子どもの主体性を重んじること、子どもが自分からやりたいと思えるように整えること、それが今の保育観であると大学で学んできた。昨年度の担任も同じ考えだった。

 園長先生の「集会」の提案や、自らピアノを弾いて子どもを惹きつける「お手本」の提示は、子どもたちを一見楽しそうにさせた。
 しかし担任には、そしてももこ先生にも、主体性や、考えて行動するという姿からはほど遠い姿に見えてた。集会では、子どもたちはその子らしさがなかった。そもそも、必要な我慢はとっくにできるようになっていた。クラスのみんなのために自分勝手なことはしない、自ら考えて行動するときの我慢だ。

 
 ももこ先生は、園長先生の指摘に返答した。
 「あの園長先生、発表会は、一人一人の得意なことを披露するということにしたいです。今練習している劇はやめようと思います。うちのクラス、できなくて。私の指導力にも課題があります」

 園長はあっさりOKした。


 子どもを悪者にしちゃった。
 言いたかったことは違うのに。言おうと決めていたのに言えなかった。ももこ先生は自分に嫌悪した。

 昔は今よりも配置も悪くてたくさんの子どもを見なくてはならなかったこともあって、一律や一斉の保育をしていたと思います。でも、今は、一斉の保育に子どもが従うことは求められていないと思います。
 それに、いつも、いつまでも、ご自分の考えが適切だと強くご主張なさるのはどうかと思います。

 
 自分が管理職になったら職員にこんな思いさせない。老害にもならない。
 ももこ先生はそう決めた。

 

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