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塩素だらけの人生

食品衛生法改正に伴い、令和3年6月から漬物つけものを製造して販売する場合「営業許可」が必要になった。令和6年6月に経過措置の期間が終了し、以降に漬物を製造販売する者は、製造所を所管する保健所に申請し、許可を取得する必要がある。
営業許可を取得するには、工場など「衛生的な施設」を備えていることが要件となり、新規開設であれば、数千万円規模の投資が必要になる。

平たく言えば、これまで「道の駅」などで売られていた農家のお母さん手作りの梅干しや白菜の漬物、最近はやりのいぶりがっこなどが、容易には手に入らなくなるというわけだ。個人規模のあきないに工場の建設や運営を求めるなど、お門違いもいいところである。
では過去に、問題視されるほどの健康被害が、どれだけあったというのか。

たとえば、2012年8月に札幌市等で発生した、浅漬(「白菜きりづけ」)による腸管出血性大腸菌O157による食中毒事件。
患者数169名、死者8名を数え、患者発生場所の多くは高齢者施設であったが、当該食品はスーパーやホテル、飲食店においても流通していた。
原因は漬物製造施設E社製造によるもので、厚労省いうところの「衛生的な施設」に該当している。

たとえば2014年、静岡市花火大会の露店で売られた浅漬けの冷やしキュウリによって、腸管出血性大腸菌O157の集団食中毒が発生している。
厚生労働省が原材料を塩素消毒するよう衛生規範を全面改正していたが、露天商には徹底されていなかったのが理由とされる。

前者は結果として工場による大量生産が、そのまま大量の被害に繋がった事例であり、他にも複数の似た事件が起きている。
後者は、その時点で冷やしキュウリが漬物と定義されておらず、水をかけただけで販売し発生したもので、行政による後付け感はいなめない。

手作りの漬物を食べ、食中毒になった事例も皆無とは言えないだろうが、社会問題化したとの記憶はない。もしかして厚生労働省は、衛生管理の徹底した工場でさえ食中毒が発生するのだから、個人に任せていたら大変なことになる、くらいに発想したのだろうか。

結局は役所側の責任逃れの気がするし、一度でも事故が起これば職務怠慢たいまんと叩くマスコミや声高な少数派ノイジー・マイノリティもいるから、世間が方向性を作っていると言えるかもしれない。
身に覚えのない他所よその不始末から、販売中止に等しい規制をかけられるのだとしたらたまったもんじゃない。もっと深刻なのはこれでまた、日本の善き食文化のひとつが消えていくことだ。

くさいものにはふたをしろ」って森高千里の歌じゃあるまいし、むしろ乳酸菌にゅうさんきんを利用した発酵はっこう食品のにおう場所とは、腸にとって理想的環境である。
目に見えない菌は物そのものだけじゃなく、空間の中に漂い息づいている。添加物や化学調味料を含まない漬物を毎日扱うお母さんの台所は、人間の健康にとって、理想的といえるのだ。

温泉好きなら、塩素臭い浴場なんて行きたくないだろう。これも保健所の指導から残留塩素の基準を厳守せねばならず、注入せざるを得ない。
いくら安全のためと言われても、塩素まみれの風呂なんて御免被ごめんこうむりたい。ところが一部コンビニの弁当は、1か月放置しても腐らないと言われている。食材を塩素のプールの中に、じっくり浸け込んでいるためとのことだ。ここまでくると、安全のためだけと言えるのか?

短期的に食中毒は発生しないかもしれないが、長い目で見たとき、どんなものだろう。いつまで経っても腐らない、ある意味エコなお弁当。でも分かった上で食べようという人、どれくらいいるんだろう。

身体にいい菌だらけのお母さん(とお父さん)の手のひら。外で買えなくなったら、今後は自宅のぬか漬けで自衛するしかない。それならアリか。


イラスト hanami AI魔術師の弟子

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