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【大怪作】映画「哀れなるものたち」ネタバレあり感想&考察

どうもTJです
今回は第96回アカデミー賞で計11部門にノミネートされた大怪作「哀れなるものたち」をネタバレありでレビューしていく

世界中で評価されているだけあって、非常に
切り口が難しいのだが、今回は「動物から人間へ」、そして「抑圧から解放へ」の2軸で語っていきたいと思う
最後までお付き合い願いたい

あらすじ&キャスト

天才外科医によって蘇った若き女性ベラは、未知なる世界を知るため、大陸横断の冒険に出る。時代の偏見から解き放たれ、平等と解放を知ったベラは驚くべき成長を遂げる。

https://www.searchlightpictures.jp/movies/poorthings

監督は「女王陛下のお気に入り」のヨルゴス・ランティモス
主演は「ラ・ラ・ランド」のエマ・ストーン(今作ではプロデューサーも務める)
その他、マーク・ラファロ、ウォレム・デフォーなど豪華キャストが出演した

動物から人間へ

胎児の脳を移植され蘇生した主人公ベラは、身体は大人、精神は胎児という逆コナン状態で物語は始まる
ここで映し出されるベルの様子は実に動物的
泣きたい時には泣くし、その場の衝動で物を簡単に壊す
その場の生理的欲求にのみ従って行動する様子は人間も動物の一種なのだと言うことを強く認識させられる
しかも設定のギミックとして、ベラは既に身体自体は完全な女性であるため性欲も最初から備えているというのも大きい
通常、人間は成長するにつれて性欲というのが徐々に芽生えてくるものだ
しかしベラは既にスタートから身体が完全に大人なために、通常の人間とは違う成長曲線を辿るというのも今作が特異な点のひとつだ

またベラは中盤までジョークというものが通じない
例えば「このニュースは耳が痛い」と言えば、ベラは物理的に耳が痛いと読み取ってしまう
言葉には物理的な意味合いと精神的な(比喩的な)意味合いの2種類があるが、動物はおそらく物理的な世界でしか生きていないため、このようなジョークが通じない
ここも人間と動物を分けるポイントであり、冒頭のベラ(人間の赤ちゃん)は実に動物的だと言えるだろう*1

それでも人間は動物と違って、年が経つにつれて生理的欲求を抑え、社会的な常識を身につけていく
ベラも外の世界を知り、急ピッチで成長していくのだが、今作ではこの成長過程を早回しで見せてくれるためベラの成長にクドさを感じないのも素晴らしい点だ

映画.comより引用

抑圧から解放へ

中盤から物語は「動物から人間へ」から「抑圧から解放」へと移っていく
最初は外科医のゴットの家に軟禁されていたベラだが、弁護士のダンカンに誘われて大陸横断の旅に出る
ここで映像がモノクロからデフォルメされたカラーへと色づいていくのだが、ここでベラと共に観客自身も抑圧された雰囲気から一気に開放的な気分にさせてくれる
ベラの心情と観客の感情を映像でリンクさせる、このヨルゴス・ランティモスの手腕は凄まじい

そして前述の通り、ベラは社会的慣習を身につけていく
しかしこれはある種、動物的な本能を抑圧する行為でもある
だからこそ、それに抗うかのようにベラは性行為をし続けるのだ

映画.comより引用

さらにベラは女性は男性から支配されるものという慣習に足を踏み入れていく
舞台は19世紀、男性が女性を支配するという聖書から派生したとされるこの慣習は当時の社会に完全に組み込まれており、普通に生きていれば誰も疑問を感じることさえない
しかし胎児から脳を移植され宗教的なバックグラウンドを持たないベラはこの抑圧に対して、容赦なく疑問を投げかけていく
売春宿で、ベラが「なんで女側が選んではいけないの?」と問いかけるシーンは印象的だ
これに対して、的確な答えをできるものはいないはずだ
このように中盤からベラの行動は「抑圧からの解放」に強く関係している
そして終盤、ベラの行動は解放から反逆へと舵を切る

ラスト-所有欲からの反逆

ベラは娼婦として働いた後、ゴッドの元へと戻り、マックスと結婚を再度誓う
しかしそこに、アルフィー将軍が現れてベラのアイデンティティに強く揺さぶりをかける

私は何者なのか
ベラはその考えを確かめるべく、アルフィー将軍へと着いていくのだが、そこでもベラは将軍による監禁、抑圧に遭う
思い返してみてほしい
ゴッド、マックス、ダンカン、アルフィー、ベラに対して今作で登場するほぼ全ての男性が形は違えどベラを支配しようと、所有しようとする
しかしベラはこの支配の網から脱し、ラストには見事アルフィー将軍を所有し返すという着地を迎える
実に映画的でスカッとするラストではあるのだが、個人的には少しの違和感を覚えてしまった

「哀れなるものたち」
今作のタイトルが指す者はおそらくベラを所有しようとした男性たちであり、それを容認してきた社会の慣習だろう
しかし結局はベラも哀れなるものたちと同様、男性を所有してしまう
いわばベラも哀れなる者たちへと同レベルまで成り下がってしまうのだ、というのは少し言い過ぎだろうか
もちろんベラを所有しようとした罰として、アルフィーを所有し返すというのは行動原理として十分に共感できる
しかしこの映画を女性のリベンジムービーとしての文脈で見るならば、そこからベラには、更に一次元上の、女性を抑圧から解放という点に終始した方が良い気もした
どちらにせよこのラストのインパクトは大きく、哀れなる者たちは結局誰だったのかを再度考えさせられることになった

https://x.gd/9ZuaHより引用

総評

2024年が始まってまだ1ヶ月ばかりだが、早くも年間ベスト級の凄まじい傑作だった
ということでTJ的評価は⭐︎4.6/5
言うまでもないが、何よりも今作で特筆すべきは主演エマ・ストーンの怪演だろう
142分間、常時観客を圧倒し続ける

歩き方一つとっても、序盤はぎこちない歩き方を見せるも、気づいたら違和感なくスムーズな歩きを見せている
このシームレスな演技の切り替えを見てもエマ・ストーンの演技力には脱帽だ

ということでいかがだっただろうか
今回はこの辺で終わらさせていただく
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これからも新作、旧作問わずレビューしていく予定なのでスキ、フォロー、コメント等も是非

では!


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*1参考-「具体と抽象」p27 著:細谷功より

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