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何の因縁があるのか【モーツァルトはおことわり】

「モーツァルトに何の因縁があるのか」
このタイトルを見て、真っ先に思いました。

読み進めるにつれて、
想像以上に悲しい現実を突きつけられました。

メロディアスライブラリー2012.1.22放送。

・新聞社のデスクから言われたこと

新人の新聞記者であるレスリーが
世界的有名なバイオリニストであるパオロ・レヴィにインタビューすることから、この話が始まります。

芸術欄のデスクであるメリル・モンクトンから
「怪我をしたから代わりに行ってきて」と頼まれ、
更にこんなことを言いつけられました。

「モーツァルトとプライベートについては聞いたらダメ」

それなのにレスリーは、
「モーツァルトについてはよくわからない」
「バイオリンを始めたきっかけは何か」と
聞いてしまいます。

パオロは、決心して話し始めました。

・バイオリンを始めたきっかけ

外からバイオリンの音が聞こえてきたのをきっかけに聞くようになりました。
バイオリニストはバンジャマン・ホロヴィッツ。

父親はかつてバイオリニストでしたが、
あることをきっかけに聞くのも嫌になってしまいます。理由はわかりません。

しばらくの間、レヴィは内緒で
バンジャマンのレッスンを受けました。

・バイオリンと悲しき記憶

ある日、バンジャマンを連れてレヴィは帰宅しました。両親はバンジャマンを見て驚きました。
バンジャマンは両親にもバイオリンを教えていたのです。

父はレヴィにこう話しました。

おまえは自分の秘密を話してくれた。どうやらこっちの秘密をあきらかにするときもやってきたようだな。真実には真実を返さないとな。

モーツァルトはおことわり p44

それから、強制収容所のことを話し始めました。
バンジャマンはパリから、母親はワルシャワから、
父親はヴェニスから来ました。
3人ともユダヤ人で音楽家です。

「オーケストラで楽器を演奏することはできるか?」
この質問で3人の命は助かりました。
しかし、他の家族や仲間はガス室へ行きました。

当時両親は20才になったばかり、
バンジャマンは20才上でした。

親衛隊の前や強制収容所の入り口で演奏。
曲はモーツァルトでした。
オーケストラ隊は他の人たちより待遇がよかったため、罪悪感を持っていました。

両親は生きのびました。
しばらく演奏をしながら稼いでいました。

父の故郷であるヴェニスに帰ってきてから
バイオリンをこわして燃やし、
「二度と音楽はやらない」と誓いました。
母は、バイオリンを持ち続けました。

しかし、父が聞くのも耐えられなくなったため、
母も弾くことがなくなりました。

レヴィがバイオリンを弾くのを認めたものの、
父はある条件をつけました。

「自分が生きてる間は、人前、私の聞こえるところで絶対にモーツァルトを弾かないでほしい」

・感想

大好きな音楽で生きのびたものの、
楽曲と強制収容所の記憶が結びついているため
「残りの人生にどれだけの影を落としたか」と
想像すると辛いです。

特にレヴィの父親は、
バイオリンを弾くことさえやめてしまいました。

オーケストラ隊は2つの罪悪感がありました。
一つは、他の人より食料を得やすかったこと、
もう一つは、強制収容所に来たばかりの何も知らない人たちを、落ち着かせるために演奏していたことです。

ホロコースト文学を読むと、何かしらの特技があって生きのびた人たちが少なからずいます。

以前読んだ『アウシュビッツのお針子』も
あてはまるでしょう。

こちらの人たちは、
裁縫ができたため、生きのびました。

どちらも「自分たちは恵まれている」と
罪悪感があったことが伺えました。
そんな彼らに対して、
責めるなんて到底できません。
「そもそも生きのびたいと思うのは本能だし、使えるものは使ったらいい」とすら思いました。

絵本に近い本でしたので、イラストが多いです。
青空や海が描かれているので、
青を基調としています。
一方、収容所のシーンは白黒で描かれています。
色調からも、伝わってきました。

以上、ちえでした。
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