見出し画像

ベルーガが死んだ

数年前のある日、社員食堂で一人ランチをしながら清野とおる氏の不条理漫画をスマホで読んでいた時、社食に備え付けられているテレビから「ベルーガが死亡しました」というニュースキャスターの声が聞こえてきて、ふと顔を上げると「ベルーガが死んだ」というテロップが目に飛び込んできた。どうやらどこかの水族館でベルーガという生物が死んでしまったようだった。私はその「ベルーガ」についてあまりよく知らず、なんとなく可愛らしいジュゴン系の動物かな、と思っていたんだけど、でもそれ自体よりも、なんだかこの「ベルーガが死んだ」って言葉が妙にひっかかり、スマホのメモに残した。別に深読みしてるわけでもなく、意味は文字通り受け取っているし、人気者だったベルーガが死んでしまったという事実は残念な事ではあるんだけれど、それとは別として、一つの言葉として「あ、なんか小説のタイトルみたいだな」と思ったのだった。

かなり昔、川上未映子氏が情熱大陸に出た回がとても好きで、今でも時々見るんだけど、そこで彼女が「特別な意味を持たないけれど語感がいい文章やワード(本人曰くナンセンス語)」をたくさん紙に書いていて「こういうの、何時間でもやってられるの」と語っていた。例えばその時彼女が書いていたものを例にあげると「正しい入力電圧であなたの正しい記事を書く」「愛のニュース、パーティを最適に放棄します」等、「模様として面白い言葉」をずらっと書き連ねていたのだった。彼女と並べて言うのは大変おこがましいが、結構私も昔から、こういう特に意味のない「なんかいい感じ」みたいな語感の良いフレーズを書き連ねるのは割と好きだった。「あ、なんかいい感じ」「なんかのタイトルに使えそう」みたいな感じだ。それと同じく、今回の「ベルーガが死んだ」のような時々日常生活において「ピン」ときた言葉との出会いも大事にしたい…とは思いつつ、なぜかいつもメモをとるのを忘れ、そのままそのワードも忘れてしまう。てゆうかなぜかいつもタイミング悪くメモが取れない状況の時に出会ったり、思いついたりする事が多いはなんでなん。(いやマジで)
別に私は執筆業を生業としてるわけでもなんでもないけれど、趣味としてこういった場で文章を書く際に、こういった「なんか頭に残るなあ」というワードを残す事が出来たら、多少は、多少は魅力的な文章を書けるのではないか。これからはネタ集め、本腰いれてみようかしら。


ちなみに余談中の余談だが、川上未映子氏の情熱大陸、ちょうど「ヘヴン」を執筆してる時の密着なのだが、非常に面白い。芥川賞をとったばかりの彼女がいきなり長編にチャレンジする事になり生みの苦しみを存分にテレビの前でさらけ出しており、今のメディアで見せる凛とした美しい姿とは違う「素顔のまんま」な大阪弁全開の親しみやすい彼女の魅力がありありと写し出されていて、かつ小説を生みだすというのは本当にものすごい事なんだなというのが伝わってきてとても興味深いものとなっている。見る機会あればぜひ見てほしい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?