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【心理学アレルギーに効く❓#6】        最終章 アジールとアサイラム    居るのはつらいよ

前回は人と構造 二人の辞め方について考えた。

これまでのケア居場所心と体「こらだ」恋に弱い男というテーマには楽しさも含まれていたが前回の人と構造 二人の辞め方あたりから暗雲が立ち込めてきた。そして今回の最終章では悪しき力が主役でもあるかのように登場してきて遂に語り手の臨床心理士は「これ以上ここにはいられない」と辞表を出してしまう。彼は辞めることを3か月前にみんなに告げたことで発言権を失い幽霊となってアジール(避難所)に逃げこむ。ここではアサイラムという言葉も登場してくる。驚いたことにアサイラムアジールは、もともと同一の言葉なのだという。

アジール:いるを支える(避難所、隠れ家)
アサイラム:いるを強制する(収容所、刑務所等)

アジールがアサイラムに変貌していく原因としてほのめかされるのが悪しき力、ブラックなものだ。

「いる」を支えるはずのデイケアにおいて、「いる」が軽視されてしまうことがある。[…]ありとあらゆる「いる」を支える仕事や施設に、その闇は潜んでいる。ケアする仕事には、ブラックなものを引き寄せる何かがある。[…]まず、小林エリ子氏のエッセイ『この地獄を生きるのだ』に描かれているブラックデイケアを取り上げたい。出版社のホームページには以下のように内容が紹介されている。
エロ漫画雑誌の編集者として[…]ブラック企業で働いた結果、心を病んで自殺未遂。仕事を失い、うつ病と診断され、やがて生活保護を受給することに。社会復帰を目指すも、やる気のない生活保護ケースワーカーに消耗し、患者を食い物にするクリニックの巧妙なビジネスに巻き込まれる。

(東畑開人『居るのはつらいよ』p298~299)

悪しき力としてよく知られているブラック企業は高い給料で大量募集し過酷なノルマや残業を課して使い倒す。大量離職すれば再び大量募集する。ほかにもブラックバイト、ブラック部活等々、世界にはブラックなものがあふれかえっているのだという。というと他人事みたいだが、実はわたしたちを支配しているものが明らかにされる。それが会計の声だ。

[…]会計の声はセラピーに味方する。セラピーは変化を引き起こし、何かを手に入れようとするプロジェクトだからだ。たとえば、復職する。学校に登校し始める。そういうことによって生産性が上がる。税収が増える。会計の声からすると、セラピーは何かを手に入れるための投資と捉えられる。これに対して、会計の声はケアに冷たい。ケアは維持し、保護し、消費する。「ただ、いる、だけ」は生産に結び付いていかない。だから、それは投資というよりも、経費として位置づけられやすい。ケアとセラピーは人間関係の二類型であり、本来そこには価値の高低はないはずなのだけど、でも、実際のところ、会計の声は圧倒的にセラピーに好意的だ。

(東畑開人『居るのはつらいよ』p319~320)

会計の声とはコスパのことだ。わたしたちは常に費用対効果で物事を判断している。わたしたち自身があたりまえのように効率性とか生産性を求めて暮らしているのだ。問題はそれが「ただ、いる、だけ」と両立できるのかということ。会計の声はケアに冷たいらしいが、それでも「居る」を支えようと懸命に働く人たちがいるのを知っている。だから絶望はしていないが今後も居場所を提供し必要なケアを続けるためには最低限のコスパは必要で会計の声とうまく付き合うことが求められていると思う。経営がうまくいかなければケアが必要な人たちの居場所をいっきに奪ってしまうことになるからだ。ぼーっとしているうちに居るのはつらいよということになってはならない。同時に、コスパという物差しをだれもが使っている今だからこそ、それだけではない視点を持つ必要性を強く感じた。生産性と効率性は重要だが、それだけで人は生きているのではないからだ。

東畑開人『居るのはつらいよ』を読むことが心理学アレルギーに効いたのかどうか? 正直なところ有るとも無いとも言えない。ただ、noteに投稿しながら読み進めたことで様々な気づきと発見があったのは大きな収穫だった。


最終章まで読んでいただき、ありがとうございました。


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