マガジンのカバー画像

ドイツ詩を訳してみる

41
運営しているクリエイター

2019年12月の記事一覧

シュトルム「街」(ドイツ詩を訳してみる 25)

Theodor Storm, Die Stadt (1852)

灰色の浜辺 灰色の海辺
そのはずれにその街はある。
霧が屋根に重くのしかかり
静けさの向こうから
単調な海鳴りが聞こえる。

ささやく森もなく 五月に
鳴きしきる鳥もいない。
ただ秋の夜に 渡りの雁が
鋭い声を上げて通り過ぎ
浜辺の草がなびくのみ。

それでもお前が心から愛おしい、
灰色の海辺の街よ。
若き日の魔力がずっとお前に

もっとみる

ハイネ「アスラ」(ドイツ詩を訳してみる 24)

Heinrich Heine, Der Asra (1851)

日ごと 麗しいスルタンの娘は
夕方になると 噴水の
白い水がさざめくそばに来て
行きつ戻りつしていた。

日ごと とある年若い奴隷が
夕方になると 噴水の
白い水がさざめくそばに来て
日増しに青ざめていった。

ある日の夕方 王女はかれに
歩み寄り 早口で尋ねた。
「あなたの名前を教えて。
出身はどちら? 種族はどちら?」

奴隷は

もっとみる