アイヒェンドルフ「壊れた指輪」(ドイツ詩を訳してみる 30)

Joseph von Eichendorff(1788-1857), Das zerbrochene Ringlein (c.1810)

すずしい谷間で
水車がまわる、
水車小屋に住んでいた
愛しいひとはもういない。

一生の愛を誓って
ぼくに指輪をくれたのに、
愛の誓いは破られて
ぼくの指輪は裂けた。

ぼくは歌びとになって
広い世界を旅したい、
家から家へ巡って
ぼくの歌を歌いたい。

ぼくは騎兵になって
熾烈な戦場に飛び込みたい、
静かなかがり火を囲んで
真っ暗な大地に横たわりたい。

水車の音が聞こえてくると
何がしたいかも分からなくなる――
いっそ死んでしまいたい
もう何も聞こえないように。

(喜多尾道冬、石丸静雄の訳を参考にした。)

In einem kühlen Grunde
Da geht ein Mühlenrad
Mein’ Liebste ist verschwunden,
Die dort gewohnet hat.

Sie hat mir Treu versprochen,
Gab mir ein’n Ring dabei,
Sie hat die Treu’ gebrochen,
Mein Ringlein sprang entzwei.

Ich möcht’ als Spielmann reisen
Weit in die Welt hinaus,
Und singen meine Weisen,
Und geh’n von Haus zu Haus.

Ich möcht’ als Reiter fliegen
Wohl in die blut’ge Schlacht,
Um stille Feuer liegen
Im Feld bei dunkler Nacht.

Hör’ ich das Mühlrad gehen:
Ich weiß nicht, was ich will —
Ich möcht’ am liebsten sterben,
Da wär’s auf einmal still!

 *

1813年の発表からまもなく、1814年にフリードリヒ・グリュック(Friedrich Glück, 1793-1840)が曲をつけています。この歌は、「ローレライ」などで知られるフリードリヒ・ジルヒャー(Friedrich Silcher, 1789-1860)の男声合唱版「不実」(Untreue, 1826年)[楽譜]により、とりわけ有名になりました。

さらに、フリードリヒ・ニーチェ(Friedrich Nietzsche, 1844-1900)もメロドラマ(ピアノ伴奏つき朗読)「壊れた指輪」(1863年)を作曲しています。哲学者として有名なニーチェが、10代の頃に作曲した作品です。


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