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真珠の首飾り A STRING OF PEARLS

母の形見の中に、バロックパールのネックレスがある。
歪な形であるがゆえに暖かみや優しさを持つような気がして、歳を重ねるほどに使用する回数が増えた。
真珠の白い柔らかさで、顔まわりが明るくなるような気がする。
もしくは、グレーのバロックパールを白いシャツの襟を大きめに開けてするのも素敵だ。
そんなお洒落は、若いうちは似合わない。
大人の特権だ。

私は、服も持ち物も、できるだけシンプルなものを選んでしまう性分だが、
「あたたかさ」を手にしたい陶芸品や装飾品は、歪みがあるものが好きだ。
きっと、人間も同じ。
きちんと揃わず、整わず、その一品にしか出せない魅力を大事に思う。
画一的に完成しないものに、安心感を覚える。
それらをシンプルなものに合わせた時のコントラストが好きだ。


真珠のネックレスは、いつの時代もお洒落を一段格上げしてくれる。


『こんなsceneで贈り物』という本がある。
映画のシーンに出てくる贈り物を紹介している。
映画はみたはずなのに、すでに忘れているものもある。

「ティファニーで朝食を」のおまけの指輪は、クラッカー・ジャックのもの。
「スプラッシュ」のオルゴールと噴水。
「ワーキングガール」のランチボックスなど、50本の映画の中に出てくるプレゼントと登場シーン。
プレゼントそのものも大切だが、渡された時のシーンはいつまでも覚えているものだ。


その中の「グレン・ミラー物語」の『真珠の首飾り』。


「誕生日のプレゼントだよ」
「私の誕生日は11月よ」
「去年の分さ。
 偽物だけど、いずれ本物をあげるよ」


なんて、プレゼントを手渡されたら。
本当に「映画をみているかのよう」な素敵な気持ちで、舞い上がりそうだ。


グレン・ミラーは困難を経て成功する。
そして、ある日、自分の楽団が演奏するダンスホール付きの大きなレストランに妻を呼び、本物の真珠のネックレスを贈るのだ。

黒いシックな箱から出てきたのは、美しい真珠の首飾り。
「ただの本物さ」

「いずれ本物をあげる」と言われて、それが「ただの本物」だなんて。
恰好良すぎる。

そして、演奏に戻ったミラーは、演奏中の曲目を観客に伝える。
『真珠の首飾り A STRING OF PEARLS』



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