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「私の美の世界」 菫の砂糖づけ

森茉莉「私の美の世界」を久しぶりに読み返した。

薔薇、菫、なぞは見ても綺麗、
香り(におい)も素晴らしいし、
色も綺麗で、
漢字で書いても素敵である。
それに薔薇も菫も食べても美味しいのである。 

という文章が、昔から好きだった。
薔薇と菫の砂糖漬け・・・なんともロマンチックだ。
森茉莉の世界は、いつもヨーロッパの香りがする。

以前、2月にスミレ祭りがあるというフランス南西部トゥールーズのお土産に、菫の砂糖づけをいただいたことがあった。

この文章の通り、しっかりと菫の香りが口に広がる。

菫の花の砂糖づけを楽しむ。
美しい菫色は、ホットミルクにひと粒入れると、ふんわりと青紫に色づく。
ロゼのシャンパンに沈めると、泡に包まれながら少しずつ色を加えていく。
ほの青いグラデーションは美しい佇まいに。そして、菫のほのかな香り。

この香りは、知っているような気がする。
子供の頃、祖母のアクセサリーケースをいたずらに開けると、この菫の香りがしたものだった。
白いベルベットの巾着袋に包まれている小瓶が、ネックレスやイヤリングと共に入っていた。

あれは、何という香水だったのだろう・・・。
懐かしい香り。
祖母の仕立てた洋服も、その香りがしていた。
正統派のお洒落を、小さな私に見せてくれた祖母が蘇る。

「こういうときは、こうするものよ。」
と私の手を取って、一緒におさらいしてくれた。
私の前髪を、すぅっと横に流してくれる時も、この香りがした。
画廊巡りをして疲れてお茶をするときも、小さなブローチを買ってくれるときも、
斜め上から私の顔を覗き込んで笑っていた。
天国でも、菫の香りをさせているのかしら。

薔薇も菫も、漢字になると想像する世界観が変わる。
古いアパルトマンでアンティークの家具に囲まれて、美しいお皿から摘むお花のお菓子・・・そんな妄想をしながら、また花びらをひと粒口に含んでみる。

森茉莉の世界は、美しくて濃い。
心の中の深い森に誘われていくようだ。



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