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【小説】日本の仔:第18話

【三ケ島 成人】(宇宙エレベータ軌道打ち上げ責任者)
 ついに宇宙エレベータ軌道ケーブルを静止軌道に乗せる最終フェーズまでたどり着いた。
「展開機のブースターを点火。22秒で燃焼終了…静止軌道速度確認。無事に静止軌道に乗りました。成功です!」
 管制室中で拍手が沸き起こる。
 よかった。無事に到達できて本当によかった。これで安心して家に帰れる。

 と思ったら大間違い。実際にはこれからが本当の試練だ。
「展開機の動作チェック。完了したら宇宙エレベータの軌道端に接続」
 この後、宇宙エレベータの軌道となるカーボンナノチューブの一方の端を地球へ、もう一方の端をその逆側に運ぶことになる。
 この際、静止軌道からずれないように両端のバランスを取りながら運んで行かなければならないのだ。
 とは言え36,000kmも離れているから、のんびりやってたら何年も掛かってしまうところだ。

「宇宙煙突の軌道展開、うちの時子にやらせてみない?多分かなり時間を短縮してくれると思うよ」
 急に徳永氏が話し掛けて来た。
「時子って、そのスマホを介してやり取りしているAIのことですか?」
「そう。量子コンピュータベースの試作AIなんだけど、計算っていうより、第六感みたいな方向に進化しちゃって。なんか最近予想的中率がスゴくてさ」
「設計はあなたが?」
「そう。色んな素子を詰め込めるだけ詰め込んだら、人間に近づけるんじゃないかと思って。ある意味部分的には超えちゃったかも。でも、まだ自発的意識は芽生えて来ないんだよねー」
 やっぱ徳永氏スゴすぎるー...

「予定では展開機も学習しながら速度を上げていくので、半年もあれば地球に到達するはずですが」
「時子ならその半分の半分の半分くらいで行けるんじゃないかな」
 3週間?!
「私の一存では決められません」
「じゃあ上の方の人に許可お願い!ちょっと急いでるんでさ」
「わ、分かりました。要請してみます」

 上の方の人って、誰に話せばいいのかな。とりあえず科学技術庁の長官とかかな。
 科学技術庁に連絡をして徳永氏の名前を出すと、あっさり許可が出た。
 今の日本の強さの源である徳永氏には誰も逆らえないみたいだ。

「科学技術庁から許可が出ました」
「サンキュー!じゃ早速。時子、展開機の管制コントロールを引き継ぎ、最短時間で展開を済ませろ」
「展開機の管制コントロールを掌握。バランス制御しながらブースター出力最大で帰還します。地球側大気圏まで約78時間で到達予定」
「3日ちょいだって」
 えー?!
 半年掛かる予定が3日で?!
 早すぎる。
「そんなに早くて大丈夫なんですか?失敗するわけにはいかないんですよ?」
「うん。時子、絶対失敗しないから」
 どこかで聞いたようなセリフ...
「ま、上の許可は得ていますし、お任せします」

 そして、徳永氏のAI(時子)は本当に3日強で軌道端を地球の高度80kmまで運ぶことに成功した。
 確保用のUS-2飛行挺は機首のフック取り付けは完了していたものの、赤道付近の諸外国での飛行許可がまだ下りておらず、結局3日ほど足止めをされたものの、無事に派遣できることになり、インドネシア領ハルマヘラ海上空で軌道端の確保に成功、そのまま鹿児島沖まで軌道端を輸送し、着水した。
 護衛としてF-35 4機とKC-767空中給油機が随伴していたが、他国から特に攻撃は受けなかった。

 あまりに帰還が早くて作戦が間に合わなかったのか、それとも前回の攻撃失敗で懲りているのかは分からないが、無事に輸送が完了して何よりだ。
 我々の仕事は軌道端の展開までであったから、これでほぼ終わってしまうことになる。
 本当なら半年は食い繋げるはずだったのに、徳永氏のおかげで商売上がったりだ!
 けど、徳永氏に会えて嬉しかったので、帳消しにしよう。そうしよう。

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