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【小説】日本の仔:第1話

【清水坂 孝】(量子科学技術研究開発機構) 「さあ、行こうか」  遂にこの時が来た。  数十年に亘る日本とEU諸国との国際研究と革新的な素材、機器開発により、実用核融合炉「JT-100」が試験運転の日を迎えたのだ。  この核融合炉が稼働すれば、従来のウランやプルトニウムによる核分裂炉発電所と同レベルの電力が、核燃料や核廃棄物の問題をほぼ起こさずに得られることになる。  燃料となるのは海水から取り出される重水素と、リチウムから炉内で作り出すトリチウム(三重水素)であり、放射レ

    • 【小説】日本の仔:第23話

       ある日、僕は仕事終わりにその上司に誘われて飲みに行った。  専門学校を卒業してすぐに就職した僕は少し前に20歳になったばかりで、お酒もあまり飲んだことがなかった。  その上司は仕事の面では部下のことをよく気に掛け、しっかりとコミュニケーションを取れる人だった。  とは言え、実際にはAIコンシェルジュが間に入ったコミュニケーションだから、本当の気持ちなんか分からず、模範的な対応が行われていたに過ぎないのかもしれない。  だから、なぜ自分が今日飲みに誘われたのか、全く理由は分

      • 【小説】日本の仔:第22話

        【藤堂 瑞希】(徳永フォースチルドレン)  僕は今までに3人、人を殺してしまったことがある。  1人目は小学生の時の先生、2人目は高校生の時の同級生、そして3人目は就職した会社の上司だった。  でも、警察に捕まるようなことはなかった。  なぜなら、何も証拠が見つからなかったから。  自分でも殺そうと思ったわけではなく、ただ反射的に「死ね」と強く思っただけなのだ。  最初はもちろん偶然だと思った。  でも、さすがに3人目の上司が死んだとき、間違いなく自分のせいだと確信した。

        • 【小説】日本の仔:intermission(第21話)

          【清水坂 孝】(環境省 地球温暖化対策室 室長)  宇宙エレベータの建設が終わった頃、徳永は常温核融合炉の日本国外での生産、利用を解禁した。  融合炉の設計図や特許も全て海外のデベロッパーに公開し、自由に使えるようにしたのだ。  ただし、常温核融合炉の中核を成す原子核融合部分と発電部分は、徳永が開発した装置でしか製造できなかったため、日本国内で製造され海外へ輸出された。  この部品の価格を吊り上げれば、日本に更なる貿易黒字をもたらしただろうが、徳永はほとんど利益が出ない価格

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        【小説】日本の仔:第1話

          メガネ女子314

          メガネ女子314

          【小説】日本の仔:第20話

           結局、二人とも政府へ精子を提供することになったが、徳永の精液の採取にはかなり手間が掛かったらしい。それもそのはず、実は徳永はマスターベーションをしたことがないというのだ。二十歳にもなって、そういうことに興味がなかったとは変人にも程があると思ったものの、実際に今そういう子どもが増えているらしい。これでは既婚率が下がる訳だ…  全国から集められた優秀な遺伝子を持つとされる精子は冷凍保存され、「日本の子」政策に応募し、厳正な審査を通った女性に提供され、体外受精を経て母親となる女

          【小説】日本の仔:第20話

          【小説】日本の仔:第19話

          【清水坂 孝】(量子科学技術研究開発機構)  その後、種子島への中国軍の核兵器を含む攻撃について、日本国政府は国連内に特別調停委員会を設立して解決するよう要請したが、中国を含む全ての常任理事国が調停委員会の設立を認めなかった。  第二次世界大戦後初の他国への核攻撃という地球全体に関わる問題が発生したにも関わらず、核爆発が起きた事実はなく、中国も核兵器による攻撃を否定した。  残念ながら、種子島宇宙センター上空で通常炸薬により爆発した弾頭が核兵器だったという証拠はどこにもなかっ

          【小説】日本の仔:第19話

          【小説】日本の仔:第18話

          【三ケ島 成人】(宇宙エレベータ軌道打ち上げ責任者)  ついに宇宙エレベータ軌道ケーブルを静止軌道に乗せる最終フェーズまでたどり着いた。 「展開機のブースターを点火。22秒で燃焼終了…静止軌道速度確認。無事に静止軌道に乗りました。成功です!」  管制室中で拍手が沸き起こる。  よかった。無事に到達できて本当によかった。これで安心して家に帰れる。  と思ったら大間違い。実際にはこれからが本当の試練だ。 「展開機の動作チェック。完了したら宇宙エレベータの軌道端に接続」  この後

          【小説】日本の仔:第18話

          【小説】日本の仔:第17話

           ロケットはそのまま雲を突き抜けて蒼空へと上がって行った。 「固体燃料ブースター燃焼終了、切り離し正常に終了。一号機と四号機の衛星フェアリングの分離を確認。第一段主エンジン、6基同時に点火を確認。間もなく高度100kmに達します」  管制室の大きなモニターに2×6の12機の固体燃料ブースターが切り離され地球に向かって落ちていく映像が映る。  よし、山は越えた。  そのまま高度200kmの静止トランスファ軌道まで上がってくれ。 「第一段エンジン燃焼を終了。第二段エンジン第一回

          【小説】日本の仔:第17話

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          夜の江の島

          夜の江の島

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          【小説】日本の仔:第16話

           何だ?徳徳トキシンて?トキシンて毒のことだよな。ウイルスじゃなかったのかな... 「異常箇所にセキュリティホールを発見。衛星通信モジュールからのハッキングを検出。量子コンピュータによるパスワード及び暗号解析、25のゲートを0.83秒で突破完了。最終ゲートを特定し徳徳トキシンを投入します」  スマホが何か難しい報告をしている。 「さて、どこの国の仕業かな?」  一瞬間を置いてスマホが冷静な声で報告する。 「敵ウイルス検出。反撃されました。ロケットの自律制御システムが書き換

          【小説】日本の仔:第16話

          【小説】日本の仔:第15話

          【三ケ島 成人】(宇宙エレベータ軌道打ち上げ責任者)  その頃種子島宇宙センターでは、全てのH3ロケットへの燃料導入が済み、打ち上げへの最終確認が行われていた。  H3ロケット6基からなる宇宙エレベータ軌道の打ち上げは、当然世界初の試みであり、6基のロケットを制御して静止衛星軌道まで上げるのには、予想以上に難しい制御が必要だった。  1基でも推力バランスを崩せばたちまち墜落、カーボンナノチューブの塊がどのように動いてもバランスを保つようにAIによるフィードフォワード、フィー

          【小説】日本の仔:第15話

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          夜桜2024

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          メガネ女子313

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          【小説】日本の仔:第14話

          【兵頭 新】(陸上自衛隊西部方面隊司令官) 「空自司令部より入電!迎撃に上がったF-2が全機撃墜されたとのことです」 「全滅だと?!敵は?!」 「撃墜確認はありません。全機こちらに向かっています」  中国の新型ステルス無人機、通常兵器では墜とせないのか。  護衛艦とF-35、地上からの対空ミサイルで太刀打ちできるか? 「あと何分で到達する?」 「10分ほどかと...」  時間がない、どうすれば...  F-2で迎撃できないとなると、護衛艦、F-35でも迎撃できないと考えるべ

          【小説】日本の仔:第14話

          【小説】日本の仔:第13話

          【楠 征四郎】(航空自衛隊南西航空方面隊F-2A編隊長) 「初の実戦が対無人機とは...」  那覇基地からスクランブル発進したF-2の編隊10機は北西から来る中国のステルス無人機を迎撃するため、高度を合わせて一直線に会敵予定空域へ向かっていた。  F-2は航空自衛隊に配備されている一世代前の日本製の戦闘機である。  設計はアメリカのゼネラル・ダイナミクス社のF-16を基にしているためよく似ているが、垂直尾翼以外はすべて日本企業が再設計した。  元々F-1の退役に合わせて配

          【小説】日本の仔:第13話