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わかって欲しいから

『自閉症の僕が跳びはねる理由』東田直樹 著 角川文庫

本の存在は知っていて、手にとらないあいだに16年経っていた。執筆時に13歳だった著者は、30歳になっている。
文庫版のあとがきに、「純粋でひたむきだったあの頃の僕にしか書けない文章だったと思います。」とある。
全篇を通して「わかって欲しい」というまっすぐなエネルギーが溢れている。

ひとりでいるからといってひとりでいたいわけではない。
手をふりほどくからといって、手をつなぐことがいやなわけではない。
言葉にならない気持ちがたくさんある。
気持ちとは反対のことを口にすることがある。

それは、私だ。
13歳の著者と違って、わかって欲しさのあまり、わかってもらえなさに耐えられず、口にも文字にもしないでいる自分が、怠けているような気がしてきた。

「自分の気持ちを相手に伝えられるということは、自分が人としてこの世界に存在していると自覚できることなのです。」(p.31)

自分の伝えたいことが、思うように言葉にならない時。口を開いても発するはずだった言葉が消えてしまう時。言葉を尽くしてもまったく相手に届いている気がしない時。書いたものを翌日読み返すと全然これじゃない感に包まれて途方に暮れる時。

それでもまた、気を取り直して、伝えようとしてみよう。

この本をもとに、撮られたドキュメンタリー映画『ぼくが跳びはねる理由』のレビューを以前書いた。

これを読んだ友人が、公開時には観ていなかったけど、最近配信で観た、と連絡をくれた。それで、感想を語る会を開くことにした。

せっかくなので、本も読んでみよう、と入手したので読んだ。

著者が本を書いて、それを英訳した人がいて、それを映画にした人がいて、それを観て私はレビューを書いて、それを読んで友人が映画を観て、そして連絡をくれた。私は語る会を開くことにして、あらためて本を読んで、今これを書いている。

伝えようとすることで、きっと何かは伝わる。


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