【俳句】花便り

手紙をもらったら、返事を書かなくてはいけません。
なんだか、とても、おっくうです。
なんだか、と、とても。両立しない副詞です。

返事を書く以前に読まなくてはいけなくて、
人の話をさいごまで聞けないお調子者なのに
ましてや文字など追えますか。
手紙恐怖症になれというのでしょうか。
大丈夫。
返事を書かなくてもいい
手紙があるのです。

ちょっと歩いた先の幼稚園で
桜が、もう、こんなに早く、
咲いていました。
「かわづざくら」と
ひらがなで書いた名ふだが誇らしげです。

もうちょっと行った小学校でも
さくらが、ほろほろ、ほころんで
そういえば毎年
ソメイヨシノより先に
咲くこのひとは
朝日のようにまっしろです。

なんの準備もしていないのに。
南の方から「咲きましたよ」のお知らせも
届いていないのに。
どうやって受け止めたらいいのでしょう、と
よろこんでみました。

なにを取っておいたらいいものなのか
ずっと取っておくものはなんなのか
こんな大人になって
ようやくわかりました。
たぶん、
   あれ。
      これ。
         それから、
(移り気なじぶんをいまいち信用していません)

なんだか、手紙みたいになってしまいましたね。
お返事はくれなくていいですよ。


    薄れゆく傷の肉いろ花便り    梨鱗



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