アンニュイと安寧

部屋中にKenYokoyamaのギターが鳴り響き、ムクっと起き上がって停止ボタンを押す。

そしてまた倒れ込むようにして枕に顔をうずめる。
朝か。


今日は燃えるゴミの日。面倒だなと思いつつ、重たい体をゆっくりと起こして洗面所に向かう。


顔を洗い終わりカーテンを開けると、特に晴れているわけではなく、どんよりとした灰色の雲が広がっていた。


朝食の支度をするため台所に行くと、シンクの上に昨晩飲んだチューハイの缶とブラックニッカの瓶が無造作に転がっていた。燃えないゴミの日はいつだっけなと考えながら鍋を火にかける。


味噌汁を作っている間、スマホで「長濱ねる今日のテーマソング」というプレイリストを指でスクロールしながら気分にあった曲を探す。Michael BubleのHaven't Met You Yetを選択し、引き続き朝食の支度をする。


朝食を終えて、動画やテレビを見る気分ではなかったので椅子に座って小説の続きを読み始める。小説を読んでいると、その時だけは自分が現世と乖離しているような不思議な感覚に陥るからたまらない。


ぱたんと小説を閉じ、時計を見ると時刻は11:45だった。いつの間にこんな時間に。お昼だ。


そして台所で以前録音しておいた長濱ねるのオールナイトニッポンを聴きながら料理を始める。




平和。平穏。静かな暮らし。実に素晴らしい。




だがこの部屋の外では、世界はとんでもない危機にさらされている。数えきれないほどの人間が亡くなり、街中から人の姿は消えた。


ウイルスは世界中で猛威を振るい、常に環境に適応できるよう変異し続けている。


いつかまた街に人が溢れ、平和な一日が来ることを願って、今日も六畳一間の狭い世界での穏やかな暮らしを堪能しておこう。


そう考えてふと洗濯機の脇を見やると、パンパンに膨れ上がった燃えるゴミの袋が置いてあった。



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