見出し画像

学食で出会った金髪のお兄さんが人生を変えた。

初めて髪を染めたのは、大学二年の秋。
きっかけは学食で話しかけてきた金髪のお兄さんだった。

「すみません」

友達と恋バナに花を咲かせていたとき、金髪のお兄さんは突然話しかけてきた。

「ずっと、声を掛けようと思ってたんですけど」

名刺を渡された。お兄さんは美容師だった。

「モデルをしませんか?」

これが、私の人生を変えるきっかけになる。

人生初のコンテストモデル

モデルは、ある美容師のコンテストの中四国大会のためだった。
普通の髪型というより奇抜でアート感が強いような印象を受けた。
お兄さんは「クリエイティブ」と言っていた。

当時、自分の容姿に自信を持てなかった私を認めてくれた気がして、純粋に嬉しかった。

髪は短く切るらしく、色は青みのあるグリーン。初めてのブリーチは3回。
恐る恐る承諾を得るお兄さんとは裏腹に私は即快諾しまくった。

別日に、衣装の打ち合わせでヨーロッパ古着を取り扱うお店へ行った。みんな真剣な表情の中、心臓はずっとうるさかった。

「彼女は首が長い」
「首の詰まったものよりV字が似合う」
「胸元はボリュームがない」
「だからこそ、衣装を邪魔しない」

知らなかった自分の体の強みを知っていく。
コンプレックスが武器になっていく。

ただ、身長は補いきれなくて、選ばれた靴は12cmのヒール。
とにかく、姿勢を意識した。
首がすらりと長く見えるように肩の落とし方を気にかけた。
12cmでも堂々と歩けるように、学内でも胸を張って闊歩した。

大学の講義終わり、夜、家からクロスバイクを走らせて、コンテストのためにお兄さんとの二人三脚。日付の変わる頃に家までまたクロスバイクを走らせる日々。

この期間、疲れなんて気にしたことがなかった。
全身がゾワワッと粟立って興奮している心地がたまらなく嬉しかった。

大会当日の強張り

大会は広島県。早朝、高知からの車移動。
会場には、可愛い人がいっぱいいた。
少し、自信がなくなっていく。

私は、自分の顔が好きじゃなかったから。

少しの不安と顔以外の容姿の自信がぐちゃぐちゃに混ざり合いながら、40分の制限時間の中コンテストは始まった。

ものの10分で顎のラインまで伸ばしていた髪の毛はなくなった。
今でも、真剣なお兄さんの表情が忘れられない。
40分が終わったら、今度はお兄さんが表現したものを私が魅せる番。

雑誌を見て練習した眠そうな・・・・表情づくり。

そうだ。可愛い顔じゃなくて、雰囲気のある顔をつくるのだ。
素人なりの精一杯の表情と共に、12cmヒールでランウェイを歩いた。

胸元があいたトップス。肩にローブをかけて。

このときだけは「私が一番」と思いながら。

結果は、振るわなかった。
お兄さんは「ごめんね」と「大事な髪をありがとう」と言ってくれた。

大会の翌日は、お直しの前に撮影をした。
カメラの前で表情に戸惑う中、お兄さんは「ここに目線を」「顔の向きはこっちで」と優しく指示しながら「いいよいいよ」と褒めてくれた。

その時の写真がこれ。

初めての撮影

腫れぼったい目。
低い鼻。
Eラインじゃない口許。

私の嫌いな顔。

でも、データをもらったとき、好きじゃなかった自分の顔を少し好きになれた。

私の容姿でも表現できることがあるかもしれない。

そう思えた。

大会後、カメラの前で

大会後は、それまで自分の切っていた髪の毛をお兄さんにお願いするようになった。月一のお兄さんとの時間が楽しかった。

今までよりもメイクが楽しくなって、服を着るのが楽しくなって。
堂々と前を向いて歩けるようにもなった。

心なしか交友関係も広がったように思う。
容姿を褒められるたび、以前までは謙遜を通り過ぎて周りが困るほど自分の卑下してしまっていたのに、少しずつ素直に「ありがとう」が口から出るようになった。

それから、大学を卒業するまでに2回、お兄さんと撮影をした。

そのたびコンプレックスと向き合って、ちょっぴりずつ自信がついた。

二回目の撮影

最後の撮影は、大学四年の引っ越し前。
四年間の思い出が詰まった高知とお別れする数日前だった。

お兄さんが撮影をしようと言ってくれた。
少しパーマをして。前髪にブルーを入れて。

隣には、同じくお兄さんと一緒にコンテストを二人三脚していたモデルさんもいた。
目鼻立ちのはっきりした魅力的な人だった。

勉強に来ていた美容学生さんたちの目がその子にいっているのが嫌なほどわかった。
私で撮影せずに、あの子だけでもよかったんじゃないかと少し俯く。

「よし、撮影だ」と外へ出る。
少し自信を無くしながら、カメラに顔を向ける。

そんなときに一緒にいたお兄さんの奥さんが「韓国のアイドルみたいやね」と言ってくれた。

コンプレックスに耐えられなくて後ろに引きそうだった足を止めてくれる、私にとっては大切な一言だった。

大学最後の撮影

お兄さんと出会って

コンプレックスが凶器になりかけたり武器になったり。
お兄さんとの出会いはその繰り返しで。

でも、全然だめだと思っていたものを「ひょっとして」と思わせてくれることが多くなって。

今では、今の自分の容姿を認められるようになって好きになれた。

未だに腫れぼったい目も。
取ってつけたような低い鼻も。
綺麗なEラインじゃない口許も。

お兄さんと出会う前よりも随分と愛せるようになった。

そして、今はまた新しい出会いをして、また誰かが表現したものを一緒に魅せることを楽しめている。

社会人一年目
社会人二年目秋
社会人二年目冬

私が私自身の体で、顔で、表現する。
その楽しさを知れたこと。

自分の容姿を愛せるようになったこと。

「私はブスだから」
「私は可愛くないから」
「私は女性らしい体じゃないから」

そんな言葉が口にも胸の中でも出なくなったこと。

これは、自分に自信を持てなかった、自分自身を愛せなかった私にとって大きな変化だ。

髪を染めること。
それは今でも私の中では、撮影と離せない行為で、私が私をもっと認められるような瞬間だと思う。

来月には北海道に身を移す関係で、お兄さんとも新しく出会った美容師のお姉さんともなかなか会えなくなるけど、これからもこのご縁は大切にしたいし、北海道でも新たなご縁があることを楽しみにしている。

今度、髪を染めるときはきっと、北海道での素敵な出会いがあったとき。



#髪を染めた日  より

この記事が参加している募集

やってみた

最後まで読んでいただき、ありがとうございました! 自分の記録やこんなことがあったかもしれない物語をこれからもどんどん紡いでいきます。 サポートも嬉しいですが、アナタの「スキ」が励みになります:)