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【常識を疑う③】〜アイシング・冷水浴〜

「投球後はアイシング」という常識

もう10年以上前になりますが、高校球児だった頃の私はサイドスローの投手でした。

先発で長いイニングを投げれば、リカバリーのために試合後に“アイシング”をする。

そんなことは“常識”でした。

そろそろ定年を迎える先生方からは

「昔は『冷やさないように肘を毛布とかでくるんで温めろ』が常識だった」

と聞きました。

「温める」という昔の“常識”が今や“非常識”となり、「アイシング」をするのが“当たり前”。

これが今の“常識”であり、疑う方はいないかと思いますが、最近ではこの「アイシング」にネガティブな報告もされており、必ずしも良いものではないとのことです。

それを知ったのは、ホントに最近のことです。

私が毎月定期購読している雑誌『ベースボールクリニック』の連載記事である「Bridge the Gap エビデンスに基づく野球の実践 〜研究者からの提案〜」にて、今月号(2022年12月号)の「アスレティックレーナーの野球現場の研究と支援(後編)」で、東京農業大学の勝亦陽一教授が国際武道大学の笠原政志教授に話を伺う形で紹介されていました。

睡眠について(話の脱線)

話は脱線しますが、2・3日前の投稿で「睡眠負債」に関する、米ペンシルべニア大学医学部などの研究チームが行った研究を紹介し、「毎日6時間睡眠の選手は、2週間練習して技術が上達したとしても、2日間徹夜した人と同じ程度の反応速度(=パフォーマンス⁈)しか出せていないかもしれない」のではないか、と書きました。

https://note.com/m_kondoh/n/nd1f951cd2cd0
▲ 3日前の投稿(【常識を疑う①】〜睡眠の重要性・その1〜)

https://note.com/m_kondoh/n/nae51deef9e79
▲ 2日前の投稿(【常識を疑う①】〜睡眠の重要性・その2〜)

この記事の中でも、睡眠時間に関する調査が紹介されていました。

(たぶん小中学生に対する)アンケートの結果によると、野球肘と睡眠時間に関連があることがわかり、10時間以上睡眠している選手では検出率が0%8時間未満の睡眠時間の選手は検出率が高くなっていたとのことです。

要因として、睡眠時間が少ないことによるメラトニンの分泌不足、成長ホルモン分泌の不足、タンパク質合成の低下が挙げられていました。

やはり睡眠時間は8時間以上確保すべきなのかな、と感じました。

アイシングは炎症時

さて、本題の“アイシング”についてです。

先ほども記したように、最近ではアイシングのネガティブな効果も報告されているそうです。


笠原氏は記事内で

「以前に比べて肩や肘に負担の少ない投げ方を身に付けている選手も多くいます。ですから、投球後にアイシングによって炎症を鎮静化させる必要は、以前よりはなくなったと思います。これからは、「投球後にアイシングをする」というルーティンを見直す必要があると考えたほうがよいでしょう」

と述べています。

つまり、アイシング(冷やして血流を抑える)をする目的を考えると、アイシングが必要なのは炎症所見がある場合にそれを沈静化させたい時ということです。

要は、“痛くなければ必要ない”ということですよね。

そうすると、痛みや張りがなく筋疲労や老廃物の蓄積があるという状態であれば、それを除去するために血流を促進することが必要ということであり、ただアイシングをして血流を抑えるだけではなく、温めて冷やして温めて冷やしてを繰り返して血流を良くするのが良いということになります。

選手としては、自身の身体の“セルフチェック”を行い、アイシングをするかどうかを自身で選択をできるようになることが大切です。

笠原氏も

「他人任せにせず、自分の身体は自分でチェックしてリカバリー方法を選択できるようになることで、ケガせずに、良いコンディションを維持できる選手になれると思います」

と述べています。

冷水・温水を用いたリカバリー

では、アイシングではなく、筋疲労や老廃物を除去するために血流を促進するには、どのような方法があるでしょうか?

記事内では「冷水・温水を用いたリカバリー」が紹介されています。

よく一般の方々が温泉や公衆浴場でやっている“サウナ”と“水風呂”を交互に入るやつですね。

笠原氏は、

「例えば、学校にプールがある場合は、夏場の練習後に浸かるだけでも疲労回復につながるため、活用することができます。また、子ども用プールを使ってもよいと思います」

と述べています。


公立高校では、学校のプールを使うことは難しいと思います(管理上と衛生上)が、合宿所のお風呂を活用すれば可能かなと思います。

選手個人からすると、“日々自宅での入浴の中で行う”ことが、毎日実施することを考えると現実的かなと感じます。

記事内でも、

「グラウンドや学校での実施が難しい場合は、家のお風呂でシャワーと浴槽を活用する方法もあります」

とあります。

オーストラリア国立スポーツ研究所の研究が紹介されており、シャワーと浴槽を使った回復効果の研究の結果、シャワーは温水、浴槽は冷水が推奨されているとのことです。

深部体温を下げるには、冷水シャワーでは限界があり、浴槽で水圧をかけることで浴槽から出た後に体温が上がるリバウンド効果があり、血流が促進されるそうです。

また、栄養士の方が行った研究が紹介されていて、運動後に冷水浴で体温を低下させてから食事をすると、運動後に何もしない場合に比べて摂取カロリーが高かったそうです。

夏場はなど高温や疲労などにより身体が熱い時は、消化吸収機能が低下して食事が十分に取れずに体重が減少する選手は多くいます。

体温が高くなると全身の血液循環が悪くなり、さらには脳疲労にもつながるそうです。

夏場など暑いなかでの運動後は、いったん身体を冷やしてから食事をすると体重の減少を抑制できるのではないかということでした。

ただ自宅での入浴では球児1人だけが浸かるわけではありませんから、浴槽を冷水にすると家族全員が冷水に浸かることになるので、家族の協力を得るのはなかなか難しそうですね笑

効果は半減以下かもしれませんが、“浴槽は温水、シャワーは冷水”が現実的なのかもしれません。

冷水浴の水温と時間

さて、最後に冷水浴の温度と時間についてですが、記事では以下のように書かれていました。

○ 日本における銭湯の水風呂が17〜18°C

○ 水道水は20~23℃

○ 冷水浴のエビデンスを取りまとめた国際誌では水温10~15℃を推奨
 (推奨水温はかなり冷たい)

笠原氏によると、

「いろいろな報告を調べてみたところ、20°C程度でも体温低下の効果があり、長く入っていても我慢できる水温です。科学的知見と実施可能な折衷案として、私は約20°Cがよいと考えています」

とのことです。

時間は、冷水浴だけであれば10分間、温水も含めた交代浴であれば2分ごとに繰り返して最低3セット実施すると効果があるそうです。

まとめると、水道水を浴槽に入れて「2分冷水浴→3分温水シャワー」の6分を3セットで計18分行うということです。

夏になら、家族の協力を得られるかもしれませんね。
(冬に家族の方々に冷水浴をさせるのは酷かと。家族の中で最初か最後に入浴すれば。水道代は高くつきそう。。。)

これを読んでくれている高校球児!
もし家庭の協力を得られるのであれば、ぜひやってみてください。

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