見出し画像

【読書④】〜『最高の戦略教科書 孫子』を読んで・その3〜

昨年夏から朝や昼休みにちょっとずつちょっとずつ読み進めてきて、やっと読み終わった『最高の戦略教科書 孫子』

前回までの続きで今回も、本書で紹介されていた「孫子の兵法」の一節から、“野球に置き換えて考えると?”という観点で、私自身感じたことを書いてみようと思います。

前々回は「不敗の態勢」について、前回は「正」と「奇」について書きました。

そして今回は、「勢」について書こうと思います。

まずはじめに、

「善く戦う者は、これを勢に求めて人に責めず」

(戦上手は、何よりもまず勢いに乗ることを重視し、一人一人の働きに過度の期待をかけない)

という言葉です。

戦争においても、野球においても、“勢いに乗ること”が大事です。

勢いに乗って1イニングで大量得点をとり、ビッグイニングを一度作れば、かなり有利な試合展開になりますし、二度作れば勝利の確率が非常に高まると思っています。

この一節の中にある「人に責めず」(一人一人の働きに過度の期待をかけない)という言葉から、チーム内の個人(主将やエース、4番などチームの柱となる選手)に頼るのではなく、“勢いに乗る”にはチーム全体一丸となって戦うことが重要だということを感じます。

次に、この2つです。

「激水のはやくして石を漂わすに至るは、勢なり」

(せきとめられた水が激しい流れとなって岩を押し流すのは、流れに勢いがあるからである)

「鷙鳥の撃ちて毀折に至るは、節なり」

(猛禽が獲物を一撃のもとにうち砕くのは、「勢い」を凝縮して放つからである)

「激水のはやくして石を漂わす」という表現が、チーム全体一丸となって戦うことを例えているように感じます。

また、「激水のはやくして」という表現からは“水が堰き止められて溜まっている”のを連想し、前々回の投稿の“不敗の態勢を守っている”ことを表しているように感じ、「鷙鳥の撃ちて毀折に至る」という表現からは、“相手の隙を逃さずに突く”「奇」(奇襲作戦)を表しているように感じました。

そして、次にこの言葉。

「勢とは利に因りて権を制するものなり」

(「勢」とは、その時々の情況にしたがって、臨機応変に対処することをいう)

『孫子』では敗北や失敗が致命傷になりやすい状況での戦略を考えられています。

この“失敗や敗北をなるべく避けたい”“致命傷をいかに避けるか”という『孫子』の考えから、筆者は結果を出すための対応力として「臨機応変」という訳語を用いています。

“致命傷をいかに避けるか”という「臨機応変」とは、“不敗の態勢を守って”“相手の隙を逃さずに突く”「奇」と繋がってくると思います。

勝つための“勢い”とは、自分のチームにとって流れの良い場面にのみただただ盛り上がってノリノリでプレーすることではなく、“試合の展開や流れを読んで、相手の裏をかき、その時にチーム全体でかき回していく”ことだということです。

「勢」とはどういうことか、を『孫子』の中の一節で表すと、有名なこの言葉になると思います。

「その疾きこと風のごとく、その徐かなること林のごとく、侵掠すること火のごとく、動かざること山のごとく、知りがたきこと陰のごとく、動くこと雷霆のごとし」

(疾風のように行動するかと思えば、林のように静まりかえる。燃えさかる火のように襲撃するかと思えば、山のごとく微動だにしない。暗闇に身をひそめたかと思えば、万雷のようにとどろきわたる)

「風林火山」です。

筆者は本書の中で、

騙し討ちにしろ、奇襲をかけるにしろ、そこで必須になるのは「ある動作から動作への、突然の変わり身」に他ならない。

速さから静かさへ、動から静への急激な変わり身が「風林火山」の意味であり、この動きを数千、数万の人数で可能にする統制こそ『孫子』の目指したものだった。

と述べています。

“動”から“静”へ、“静”から“動”へ。

「激水のはやくして」「鷙鳥の撃ちて毀折に至る」ように行う、その「奇」への“切り替えの速さ”こそが“勢”(勢い)であり、

「人に責めず」チーム全体一丸となって、「その徐かなること林のごとく」、「山のごとく微動だに」せず、「暗闇に身をひそめたか」のように、“不敗の態勢”を守りながら、臨機応変に戦う

前々回の投稿から読んでいただいた方なら、このような戦い方を、野球においての戦い方にあてはめるとどのような戦い方になるか、なんとなく想像できたのではないでしょうか。

ただ、このような戦い方ができるチームを創造していくまでが大変なのですが。笑

「風林火山」という言葉。

このように考えると非常に奥が深い言葉です。

今回の「勢」の話はこれで終わりにします。

次回は「将軍の心構え」について書こうと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?