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銀行員時代 法人営業部編①

支店研修を終えると、いよいよ法人営業部への配属となる。僕は支店の時と同様、頭取を輩出したことがある都内の大型店に配属となった(以下、"あおぞら法人営業部"とする)。配属同期は僕を含めて三人。一人は理系採用の男性、そしてもう一人は国際採用の女性だった。この並びを見て僕は「この三人の中で一番長くここに残るのは自分だな。」とすぐに悟った。

配属初日の話をしよう。僕らは支店配属の時と同様一つ上の先輩と連絡を取り合い、遅くとも七時半には部店の前にいるようにと言われていた。駅直結の高層ビル10Fのエレベーターフロア。初日ということもあり僕らは少し早めの七時過ぎにはそこで待機していた。八時前に部店の鍵が開くとのことで、さすがに先輩らはまだ誰も来ていなかった。ガラス張りの受付窓口も外から見えないように扉が閉められていて、どこか薄暗い空間で互いに自己紹介をしながら「どんな部店なんだろうね。」などと三人で会話をしたことを覚えている。

七時半を過ぎたあたりになると続々と先輩たちがエレベーターから現れた。「おはようございます!」支店研修を終えてすっかり一兵卒になっていた僕は、研修で教わったように新人らしく大きな声で挨拶した。新人配属の初日ということもあり、その時はどこか賑やかな雰囲気ではあったが、後々これが非日常であったことに気づく。先に言ってしまうが、普段部店が開く八時前までは、エレベーターホールの壁際にまるでお見合いをするかのように皆が向き合って横一列に並び、疲れ切った表情で無言の時間を過ごすのである。新聞を読む者、携帯を触る者、朝ごはんを食べる者等その時間の過ごし方は様々だが、飲み会後の「昨日はありがとうございました。」を除いてそこにコミュニケーションは一切存在しない。

八時前になりようやく部店の鍵が開いた。部店の扉に繋がる細い通路にぞろぞろと皆が列を作って入っていく。「前に行って。」と一つ上の先輩に言われ理由も分からぬまま先輩たちを抜かして行くと、どうやら新人は先輩たちが全員入るまで扉を抑えなければならないらしい。誰かが指示した訳ではないが「新人たるものそれくらいの気遣いはしろ。」ということだろう。過去の"できた"新人が先輩への気遣いから始め、気づけばそれが慣例化して今に引き継がれているといった印象を受けた。一般に言う"できた"新人は会社的には気に入られるかもしれないが、総じて未来の新人に弊害を残しがちである。

※少し話が逸れるが、ここでその弊害リストを一部紹介しよう。

・キャビネの解錠と施錠

自分が必要な時に開け閉めすればいい。施錠の時間が早いと「閉めるのが早い。」と怒られることすらあった。彼らの仕事が終わるまで僕らは待たなければならないのか?

・コピー用紙の補充

気づいた人がやれ。彼らは30秒もかからないことが自分でできないのだろうか。

・床の掃除

一人一人が身の回りを綺麗にしていればオフィスは汚れない。

・先輩のゴミ箱のシュレッダー掛け

自分でやれ。

・取引先に関する新聞記事の切り抜きと回覧

確かに部店の取引先を新人が学ぶ為には多少効果はあるかもしれない。しかし、ほとんどの先輩は切り抜いて渡したものを読まないか既に自分で読んでいて、作業的に部内回覧を行なっていた。無駄。

中に入るとそこには背丈を超えるほどのキャビネが迷路のように何列にも並び、そこを抜けるとグループごとに机が区切られた、いかにもオフィスらしい空間が広がっていた。とりあえず僕ら三人は空いている席に荷物を置き、一つ上の先輩から開業準備の流れを教わった。上にあげたようなキャビネの解錠やゴミ出し、床掃除等々「新人が行う雑用と言えば?」と聞かれて思い浮かぶことは一通り網羅されていた。この日以降、三人で手分けして毎日これらを行うことになるのである。

八時四十分になると朝会が始まる。スケジュールの確認、相場の確認、副部長・部長挨拶と全体朝礼の一通りを終えると、次は一般職を除く営業マンが揃って会議室に向かい、帰店報告と呼ばれる全体報告会を行う。これは部店ごとによってスタイルは異なるのだが、あおぞら法人営業部では毎朝前日の活動報告を一人一人が全体に報告するという流れであった。ここで部長やグループ長から各々数字を詰められるという、営業の現場らしい会議である。僕ら三人は先輩らの後で最後簡単な自己紹介をしてこの日の会議を終えた。

会議を終えると先輩らは急ぎ足で外に出ていった。その時の部長は面談件数にこだわっており、営業マンは一日六件のアポイントが義務付けられていたからである。実際後になってこれも気づくのだが、ほとんどの人がこのノルマを守っていない。お客さんからして大した用もないのに毎週銀行員に時間をとられるのは迷惑であり、そもそもが難しい話だ。彼らは会ってもいないお客さんに会ったと面談管理表に◯を付け、上司もそれをどこか理解しながら見過ごす。なぜなら上司もまた同じようなトリックでこれまでの苦難を乗り越えて来たからだ。そんな忖度が上司と部下の間では無意識のうちに行われているのである。当然、結果は厳しく求められるが。

その日は庶務関係の手続きでほとんどが終わり定時には三人揃って帰ることができたが、先輩らの仕事ぶりや上司とのやり取りを目の当たりにして「何だかやばい所に来てしまったなぁ。」と初日にして感じた。支店の頃とはまた違う何かが僕の頭の中で崩れ始めるのがわかった。

#銀行 #法人営業部 #エッセイ

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