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promise

 フィレンツェの通りの番地を示す標識の赤と黒は、ミケーレにはぴったりの組み合わせのように思える。
 強靭の黒と、情熱の赤。
 イタリアの街の、そこここで見かける方尖塔(オベリスク)。
 まっすぐに刃を突き立てるような碑は、ミケーレが提げる剣に似ている。
 もの言わず、ただその身で刻まれる想いを語る…。
 剣士は剣で語るのだ。
 シニョーリア広場には野外美術館さながらに彫刻が立ち並ぶ。ダヴィデやヘラクレス、ペルセウス、騎乗したコジモ一世、ネプチューン…。
 神話や史実の英雄がそれぞれの勇姿を見せる広場で、あなたはランプレドットにかじりつく。
 イタリア晴れの空の下、私のとなりで。
 できるならずっとこうして、同じものを食べていたいな。
 違うところで同じものを食べたり、同じところで違うものを食べたり、どこかであなたと一致(クロス)していたい。
 噴水がはねる水飛沫が光のかけらみたいに弾けるさまや、空の遠くを飛行機雲が突っ切って行くさまや。
 ミケーレの剣にも似た、この街のあちこちに暗号のように散らばるフィレンツェの百合のエンブレム、街を護るかのようなオベリスクのシルエット。
 そういうものをあなたと、共有していたい。
 ふたつの心に同じ景色を映していたい。同じ場所に、ふたりで在りたい。
「楽しそうだね、ミケーレ」
「それはまあ、あなたがいますから。ご存じないかもしれませんが、都、あなたへの好意はセールができるほどわいて出てくるのですよ」
 私への想いを語るミケーレは、いつも少し得意げだ。
「…むしみたいに言わないでほしい」
 深い蒼に道標をえがきながら、飛行機雲が白く細くのびていく。空に約束を書きつけるように。
 私の約束は、あなたの体のなかに預けられている。
 あなたのいない未来など要らない。
 叶えられ、重ねていくごと数珠飾りのように連なっていく約束の証。
 あなたとの約束を、いつでも持っていたい。叶えることが、おわることがないように。未来の記憶のように。

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