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2023年9月 読書

22,りすん/諏訪哲史

芥川賞受賞後第一作、待望の長篇小説刊行 小説とは、言葉とは、小説を書くという行為とは。様々な創作の問いを、リズミカルな兄妹の会話に、そしてささやかで切ない物語として描く、芥川賞受賞後第一作。

『実験小説』はご存知だろうか。少しずつ使用できる文字が減っていく筒井康隆の「残像に口紅を」や紙に写した適当なテキストを切り刻み、無作為に文章を作る『カットアップ』という技法を用いたウィリアム・バロウズの「裸のランチ」などを指す。

りすん」も実験小説であり、その全てが登場人物の掛け合いで構成されている。作品の半分を超えたところでやっと種明かしの流れに入る。小説の枠を超えた小説を作るために、会話文のみで構成している文章を読んでいるのではなく、聞いているという"風"を作り出した。小説の中で起きている"現実"との境界を出来る限り取り払い、無作為に近いものを作り出そうとした。

はっきり言って小説としての面白さは一切ない。形式を破壊している(ように見える)のを楽しむ作品だ。安っぽく感じるからあんまり他作品に例えたくないが、映画なら「ファニーゲーム」、ゲームなら「ドキドキ文芸部」。これらを純粋に映画、ゲームとして消費してる人間はいないだろう。

第4の壁を破った作品はそのジャンル内で評価できなくなるのであまり手放しで褒めるようなことはしたくない。逆張りの究極形みたいな感じで、ドヤ感あるし。

直接の繋がりはないけど、前作の芥川賞受賞作の「アサッテの人」を読んでからの方が良かったみたい。ミスった。


23,90年代サブカルの呪い/ロマン優光

問題作『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』の続きが登場!!

90年代サブカルという特殊な過去の遺産を今の価値観で振り返り、怒り狂っているヤバい単細胞が昨今目立ちます。

彼らによる考察ならびに反省は、一見まともでも的を射てないものが実に多く、世間に間違った解釈を広めてしまう害悪でしかないのです。

この負の連鎖を食い止めるべく、誰よりも正しいミュージシャン、そう、ロマン優光が(ぼんやりと)立ち上がった次第であります!

面白かったと言うべきか、そもそもの間違った90年代の認識がなかった為に淡々と著者の視点からの事実を見ただけだった。一貫して悪趣味を題材にしているものは受け手が良識を備えた人間が前提であり、額面通り受け取る人間と軽々しく乗っかる人間が出てしまったことに発信者は考えが行き着いていなかったと語られていた。

悪趣味や鬼畜系の定義付けについても長々言及されていたけど、このnote内では単に他人に大っぴらに言えない趣味とする。温度感が分かっていた中で盛り上がっていた悪趣味系がただ乗りした人の間違った解釈により、行き着いた先がクイックジャパンと小山田圭吾の件であるワケですね。

露悪系というかタダ不快だったんだけど、ポットのお湯に糞尿を混ぜてカップラーメンを作って小学生に食わせるとか。キムギニョンが露悪として評されてたのもまあかわいいもんだなと思う。底を見て大したことないと言いたい訳じゃなく、単に悪趣味としてではなくて好き嫌いはともかくブラックジョークとして楽しめる段階にあったと思うのだけど。

大坂なおみは漂白剤使え(意訳)なんて特定個人を漫才で言ったAマッソは正当に怒られるべきだし、人種に言及した金属バットは別にブラックジョークで済むだろと。キムギニョンも後者の例になると思っている。まあ金属バットのYouTubeラジオは大っぴらに言えない発言とリスナーメールだらけだったが。それは狭いコミュニティで行っていたからご愛嬌ということで。

もうアカウントもブログも消してどこか行ってしまったから何の意味もない反論なのだけど。彼自身はもうブラックジョークなどとうの昔に何にも面白い対象になっていなかったようだし。

昔は凄かったというよりかは今の方が酷いような気がする…。誰でも簡単に発信者になれて、淫夢や電車のヤバい人で人形遊びするとか迷惑系YouTuberとか出てきている訳で、これもまた「おもしろ」だけで本来の意味を履き違えた人達によるものだなと感じる。

まあ人に言えた立場かと言われると絶対にそうではないのですが。結局ウチで行われるから成立していて、ソトで正当に叱られが発生する単純なことに行き着く。内に秘める分にはまだマシだと思う。長く脱線してしまった感があるが、僕の中のブラックジョーク観(?)にキムギニョンを抜きにすることはできないので仕方ない。

前提と良識が備わってない人間は安易に発信側に回らないということ。ROM専であり続けろ。


24,吉祥寺の朝日奈くん/中田永一

彼女の名前は、上から読んでも下から読んでも、山田真野。吉祥寺の喫茶店に勤める細身で美人の彼女に会いたくて、僕はその店に通い詰めていた。とあるきっかけで仲良くなることに成功したものの、彼女には何か背景がありそうだ…。愛の永続性を祈る心情の瑞々しさが胸を打つ表題作など、せつない五つの恋愛模様を収録。

最近見ているYouTuberが紹介していてまんまと買ってしまった。叙述トリックなんだけど別にそこが主題じゃないと言ってて、もうそれ以上の感想を考えることができなくなったのでそういうことです。

僕としては、ストレートに愛を叫ぶよりかはめんどくさくて回り道するような話の方が好きなので楽しく読めました。

一番好きなのは「三角形はこわさないでおく」かな。交換日記の体裁だけで話が進んでいく「交換日記はじめました!」も良かった。全体を通して、若干実験小説の雰囲気も感じられて、結構凄い本なのかもしれない。



25,1R1分34秒/町屋良平

なんでおまえはボクシングやってんの?

デビュー戦を初回KOで飾ってから三敗一分。
当たったかもしれないパンチ、
これをしておけば勝てたかもしれない練習。
考えすぎてばかりいる、21歳プロボクサーのぼくは、
自分の弱さに、その人生に厭きていた……。

長年のトレーナーにも見捨てられ、
先輩の現役ボクサーで駆け出しトレーナーの
変わり者、ウメキチとの練習の日々が、
ぼくを、その心身を、世界を変えていく――

いや良かった。けど上手いこと言語化ができない。早い話、ピンポンを見てる時と同じ気分やテンションだったんだけど、いつも何かに例える時逃げてるなと感じてしまう。自分の組み立ての無さに辟易する。

主人公がすごく人間的な作品だった。精神があまり安定していなくて自責思考が強いんだけど、ジムにフィットネスに来ていた女を簡単にひっかけて、容易にセックスまで持ち込んだところは普通に強者やんけコイツと思ったのはある。

シンプルに面白かった。手放しで褒めるほどでもないけど、貶すほどでもない。可もなく不可もなし。少なくとも時間の無駄とは思わなかった。

レビュー見た感じはわりと低評価が目について、そうなんだと思った。僕はこういうフツーに面白いと感じるような作品が大好きだ。何でも楽しく読めるから今までの経験上扱き下ろすほどつまらなかったのはそうそう無かったと思う。ライトノベル以外は。



最近は結構直木賞芥川賞を多く読んでる気がする。ミーハーになってるのか、ちゃんと押さえてるというか。まあ◯◯受賞作なんて全然知らない人いっぱいいそう。芥川賞はつまらないって言われがちだけど、最近読んだ作品はそんなに打率低い気はしない。ずっと前に数十頁読んで挫折した「火花」も今読むと面白いのかな。

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