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#000受講生I氏インタビュー 教育業界の変化に見る「生きる力」の現在

これは編集・ライター講座での、受講者間でお互いのインタビューをして記事を構成する課題の成果物です。なので、インタビュイーは匿名のIさん。掲載許可、ありがとうございます! 

I氏は現在、予備校を運営する企業で広報の仕事をしている。社内のあらゆる部署の社員から経営者まで、それぞれの観点からの「教育の今」について感じるところを聞いている。

I氏は幼少期、父親の仕事の都合で転校を重ねた。子供の進学期は進学先の選択肢が多い東京に配属するという風潮があったようで、彼も受験期を前に東京の中学校に転校した。しかし、転校したのは3年の7月。内申点を重視する都立高校は選択肢から外れ、志望校は私立高校に絞らざるを得なかったという。最初の進路選択となる高校受験で受験制度の矛盾を感じたことも、少なからず将来のI氏のキャリアを方向づける動機となったのかもしれない。

 受験制度の矛盾というと、テストで良い点を取る能力と、社会で生き抜くために必要な能力とが乖離していることは長らく議論されてきたが、世界中で予測できないことばかりが起こる近年、その乖離は近年ますます広がっているように思われる。現在の受験教育現場はどんな状況なのだろうか。I氏は言う。

「改めて『生きる力』を育む教育をいかにするか、教育業界も今大きく動いています。間もなく大学の定員と受験者数が逆転する局面に来ています。真の大学全入時代ですね。そうすると、大学側も生き残りをかけて差別化をしないといけない。だから、ブランド力のある一部の大学を除いては、卒業後の進路のことまで視野に入れた教育方針を打ち出してしのぎを削っています。それを受けて予備校業界でも、キャリア教育に近いことを始めています。それも、企業人として優秀な人材というよりは、自ら生き方を切り開いていくような人を呼んで話をしてもらったり。」

「最近は模試でも偏差値だけではなく、コンピテンシーを評価するようになってきています。リーダーシップとか、やり抜く力、そういったものを模試でみるんです。それと合わせて、個々人のキャリア志向も受験期に入る前に評価して、それをもとに学習計画と目標設定をしていく。例えば職人になりたいというキャリア志向を持っている子と、大企業での組織運営に適性を見出だしている子とがいたら、リーダーシップの能力に重きを置くべき比重は違いますよね。その子の個性と志向に応じて必要な能力にフォーカスして育てることで『性格は変えられないけれど、資質は変えられる』という考え方のもと、指導をするようになってきています。」

これまでの画一的な教育からひとりひとりの強みを伸ばす方向に舵を切る。言葉にすると簡単だが、結果を出すのは容易なことではない。あらゆる施策の効果測定の一環として行っている大学生のコンピテンシー評価結果は、この10年ほど思うようには上がっていないとI氏は言う。コンピテンシーは、実は高校生くらいの年齢以降はあまり伸びないということ、そしてこれまで企業が採用活動で重視してきた部活動やバイトでの経験も、さほど関係が無い、ということも分かってきているらしい。

その一方で、挫折を経験した子供たちが、意外な強みを見せることもあると言う。

「私たちは不登校や中退を経験した子供のサポートもしています。先日その部門の担当者から聞いたんですが、実は彼らはレジリエンスが高くて推進力もあるそうです。理由を聞いたら、彼らは親や周りからの期待も、自分のあるべき道も全部一度失っている。だからこそ、失敗してしまってもほかの道を探せばいいんだ、ということを身をもって知っているんじゃないかと。失敗したときの切り替えがすごく早いそうです。とってもしなやかなんですよね。」

これは、希望のある話だ。予測不可能な時代を生き抜く力は、既存の教育現場の枠を飛び越えて、子供たち一人一人の生き様から培われるものかもしれない。子供が安心して悩み失敗でき、挫折しても戻ってくることのできる社会は、教育者だけでなく、おとなみんなで創らなくてはならない。

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