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彼の愛する、古い家〜パートナーとの話⑩

初めて、彼の家を訪ねたことを思い出している。

彼の住むおうちはとても、古い。

細い坂の途中、左に曲がって、門を通る。
その目の前に、彼の家はない。
大きな屋敷の脇を抜け、奥の奥まで歩いてみると。驚いたことにそこに一軒の家がある。
それが、彼の家だ。

白い木壁の一部がほんの少し剥がれ、その下からひゅるひゅるとこれまたほんの少しツタがのびている。

裏へまわると、少し重い色をしたこげ茶のドアが、優しいお家を守るように存在していた。

チャイムを鳴らす。

はいー

と出る彼。

家の鍵は、オートロックだ。
アプリで扉を開け閉めする。
最初、そのギャップに私はとても驚いた。

お邪魔します。

入ると目の前に暖かい金色と茶色の混ぜ合わさった空間があった。
ライトが絶妙に良い色だ。

大きな机と、座り心地の良い椅子がリビングの空間を斜めに分けるように置かれていた。
壁には、李禹煥の絵。ドライフラワーと共に家を飾り、静かな、少し寂しげな雰囲気を醸し出していた。

彼の家の中は、落ち着いた色合いで整っていた。
大量生産で作られた安っぽいものが、何一つない。
制作に時間をかけ、使う過程でより色が深まり、愛着がどんどん湧く、そんなものが点々と存在していた。
古い家と反対に、電気機器は最新のもので揃えられていた。
アプリでコントロールされる、リビングと寝室の調光たち。
廊下は人が通ると点灯する。
古い家と最新機器と、味のある家具。
控えめに言って、センスは抜群だった。

そんな彼とある日庭に出て掃除をしていた。
軒先が少し傾き、庭から見ても壁はほんの少し剥がれていた。
彼は外から家を見ていう。

『ボロいなぁー』

苦笑いに満足を足したような顔で笑う。
とても素敵な笑顔だった。
愛されてる家は幸せそうだった。

彼は時間しか作れない美しさが好きだ。
その象徴が真鍮。
金色を増し、少し緑がかったこげ茶になっていくのが好きで、私が最初彼から貰ったプレゼントも真鍮のブレスレットだった。
真鍮のカーテンレールや、ライト、トイレットペーパーホルダーなど、様々なところに点在するそれは古い家を格段に良くさせた。
相性もとてもよかった。

秋になり、家の中は寒くなってきた。
耐熱耐寒という言葉とは程遠い家は、季節の変化をその体いっぱいに受ける。
昨日はまだ10月終わりだったが、リビングの黄色い絨毯はその色合いとは真逆に寒々しかった。

『これからどんどん寒くなるぞ!うちは!』

ニコニコ笑いながら、彼がいう。
家と一緒に季節を感じることが、彼を喜ばせているようだった。
私は寒いのがとても苦手なので、冬を感じたくはなかった。
彼が仕事をしているのをよそ目に、いそいそと寝室に入り、布団をあたためた。
イサムノグチの灯りが灯る。
ぼんやりとともる、オフホワイトの灯り。
みてると少しずつ眠くなってくる。

少しだけ暖まった頃、彼が入ってきた。

『2人であったまろう』

彼がいう。

くっついて眠る、古い家の寝室は、私が知るどこよりもずっと暖かい。

この家は古く、外観もほんの少し、壊れかけている。
けれども愛情が育つ家だから、彼は嬉しげに人を招いては、この場所でいろんな人と語り合い繋がっている。

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