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幸せな元彼女 パートナーとの話⑨

彼の元彼女は幸せ者だ。
彼は別れてからも、彼女を大切にしていたからだ。

元彼女は、彼を愛しすぎていた。
束縛したり、制限をかけたり。
疑ったり、妬いたり。
それはとてもとても。

彼は元彼女の全てを受け入れていた。
疑われたら対話して、束縛されても我慢した。
たまにストレスを発散するために、外に出かけて自由な空気を吸い込んだが、基本的には彼女のために尽くしていた。

それは長い長い間。

遡ると、彼は子供の頃からいい子だったらしい。
『可哀想』と思えばその相手を助けたくて必死だった。
彼の対象は、そのうち元彼女になった。
彼の『可哀想』と愛情を、食べて食べて元彼女の心は豊かになった。
と、同時に失うのが怖くて、黒くなった。
黒くなった心が、彼を制限し、自由を奪った。

彼はたくさんのものを奪われた。
お金、時間、仕事、やりたかった事。

元彼女は少し満足したが、時間が経つと不安になり、また奪った。
彼への愛情は尽きなかった。

彼もまた、彼女の巻き付くような愛情を大事にしていた。
むしろ、なくなるのが怖くなっていた。
自分の存在を、命と同じくらい欲してくれる彼女に、彼は救われていた。

だがしかし。
元彼女の愛情は、突如として爆発する。
愛しすぎて愛しすぎて、信用できなくなってしまい、彼の元から離れた。
離れないと破滅してしまうと感じたのだ。

私は、彼からそんな過去の話をよく聞いた。
最初は嫌で嫌で仕方がなかった。
けれども、彼が苦しそうな顔をして言うものだから、ついつい聞いてしまう。
聞かなきゃいいのに、聞いてしまう。

聞いてるうちに、彼が自分を責めている事がわかった。
なんで幸せにしてあげれなかったのか。
なんで守り切れなかったのか。
彼は語って、昇華をしていたのだった。

だんだん気づいてきた私は、彼を心から信用するようになった。
人を愛して、砕けてしまった彼の心は綺麗だった。
その美しさを信じた。
男の人を信用することのなかった私の、初めてだった。

私は、嫉妬深いし、子供っぽい。
すぐ泣くし、少し落ち込んだりもする。
けれど、彼の全てを信じている。

彼の心のかけらを美しいと思えたからだ。

過去の恋愛は、しばしば人を不安にさせる。
でも、その中で耳を傾けてほんの少しずつ見方を変える。
すると、より深く相手を知って、もっと好きになる。

昔の話は私のパートナーを作ってきた礎だ。
そこを愛してあげたら、見えるものがもっともっと広がるのだ。

元彼女は幸せ者だ。
そして私も、幸せ者だ。

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