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上手くなるには、上手くなれる環境に自ら飛び込むこと。成長するための行動力とはーー青木沙耶香選手インタビュー

2019年夏に大会デビューした青木沙耶香選手は、翌2020年に女子・ミックス両カテゴリーで日本代表初選出に加え、JFBA新人賞を受賞。さらに、2021~2022年には女子カテゴリーで日本代表選出だけでなく、年間最優秀ペア賞(MVP)を連続受賞しました。

テニス、マラソン、ゴルフなどフレスコボール以外にもアクティブな青木選手がどのように実力を磨き、実績を残してきたのか。ペアの私(落合真彩)によるインタビューという、少し気まずい状況ながら(笑)、いつも通り歯に衣着せぬ言葉で語ってくれました。

デビュー戦で希望を抱き、1年で日本代表に

落合:フレスコボールに出会ったのはどんな経緯でしたか?

青木:2019年春、仕事で広告代理店との接待に参加したときに松浦さん(松浦孝宣選手/FLC)がいて、「フレスコボールをやっている」という話を聞きました。

私は小学生の頃からずっとテニスを続けていたのですが、社会人になると大学時代と違ってあまり練習できないので、自分の思うようなプレーができない。試合に出て勝ちたいけど、これ以上、上にはいけないなというジレンマがありました。

そんな中でフレスコボールのことを知って、ラケット競技だし、1回やってみようと思って、友だちと永福体育館に行ったのが初回です。その時は嵐さん(五十嵐恭雄選手)と松浦さんがいて、「あいのりの嵐だ!」と写真を撮ってもらったのを覚えています。

軽いノリで、1回大会に出てみることにして、すぐオンラインでラケットを買って、7月の大会まで全く練習せずに本番を迎えました。

落合:初めて大会に出てどう思いました?

青木:いきなり女子カテゴリーの4位だったんですよね。実際には3位との差がものすごくあったんですけど(約250点)、私はそこで「上を目指せるかもしれない」というかすかな希望を抱いて、その次のジャパンオープン2019にも出場しました。

落合:なるほど。その年はそれでシーズン終了でしたが、2020年からは本格的に練習するようになったんですか?

青木:2020年はすぐコロナになってしまったので、3ヶ月くらいまたフレスコボールに接しない生活。ただ、なかなか練習できない中でも、気持ちはずっと持っていて、家でラケットは握っていたんです。マンションの壁に打ってみたこともありますが、かなり音がしたのでやめました(笑)。

少しずつ外で練習できるようになってくる中、きんにくん(赤塚康太選手/SKFC)と2大会出てもらえることになった辺りから徐々に熱量が上がってきました。やっぱり上手い人と打つと続くし、自分のミスでたくさん落としてしまって申し訳ない気持ちはあるけど、それ以上の楽しさがありました。

落合:そこからもう2年半以上、毎週のようにフレスコボールをしている状態ですね。

青木:もともと家にいるのが嫌いで、家にいすぎると本当に具合が悪くなるんですよ(笑)。小学生の頃はテニスと水泳と塾とピアノ、平日のうち4日を習い事で埋めていたし、中学高校はソフトテニス部に入りながら硬式テニススクールにも通っていたし、大学では体育会の硬式テニス部。

社会人になって、最初は記者職だったので土日休みではなかったですが、空いた時間でまたテニススクールに通い始めて。仕事で14連勤くらいしても体調を崩すことはないし、その生活自体は苦ではなかったです。異動して土日休みになった後も、ネットで検索して見つけた社会人テニスサークルに入って、週末にテニスの練習をして、その後飲み会に行くという生活をしていました。

落合:動き続けないとダメなタイプね(笑)。ジャパンオープン2020で、初めて入賞(両部門準優勝)して、次のオオクラカップ2020でも、女子3位、ミックス2位、あっという間に日本代表になりました。これ、実感がなさそうですね。

青木:ペアにおんぶに抱っこだったので、全然実感はなかったです。練習をめちゃくちゃするようになったから、腕は痛かったですけど、あまり苦労という苦労はしていないですね。

成長スピードを上げるコツは、どんどん上手い人と打つこと

落合:普段どんな練習をしているか、紹介してみてください。

青木:国内大会に向けては、毎練習1回は5分計測をして、その結果をスプレッドシートにつくった表に入力して一覧化しました。まあやさんが毎回アタックを数えてくれる前提ですが、相当細かく数値化する感じでした。

※具体的な数値は内緒(笑)

落合:私が異様に数字に細かいから(笑)。でも表で数字を見ることでだいぶ自分たちの状況がクリアになった気がします。目標に対して今どこにいるのか、あとどのくらい頑張ればいいのか。

感覚としては良い感じで打っていたつもりでも、計測してみると意外と打数が下がる日があるとか、毎回数値化しているからこそ変化がわかる。数字でコミュニケーションをとることが大事だなと思います。

青木:さすがビジネスパーソン(笑)。

落合:テニス経験者はたくさんいる中で、なぜ自分はこんなに早くトップ選手になれたと思いますか?

青木:テニス経験者はみんなポテンシャルがあると思うので、まずは続けられるかどうかじゃないかと思います。フレスコボールはペア競技なので、真剣にやろうと思ったらペアをどうするかも重要です。

ちゃんと練習するために、私はテニスの頻度をかなり減らしました。トップになりたいなら両立は難しいと思うし、結果を残している人は毎週フレスコボールをしている人たちがほとんど。

テニス経験を置いておいたとしても、上手くなれるかは練習の仕方次第だと思います。私の場合はいかに上手い人に打ってもらうかだと思って、自分から声をかけて打ってもらうようにしました。初心者同士で練習していても、上手くはなるけど、その速度は遅いじゃないですか。

上手い人と打つと良いところに返してくれるから、自分の打ちやすいポイントで打てて、フォームが定まってくるし、自分がミスするのが申し訳なさすぎて、ミスしない打ち方を考えるようになると思います。

落合:自分からそういう環境に身を置くというのは確かに大事ですね。

「5分を計るのが怖い」初めて訪れた挫折

落合:印象に残っている大会はいつですか?

青木:リクゼンタカタカップ(2022年7月)です。自分の中で、心と体のバランスがしっくりこなくなっていた大会でした。それまでコンスタントに練習していた中、2週間まとまって休んだあとに、周りのレベルが一気に上がったような気がしてしまったんですよね。

特に、「(その後ミックスペアを組む)松浦さんと(現女子ペアの)まあやさんが上手くいっているけど、私とはあまり上手くいっていない」みたいに思って、メンタル的に崩れていった気がします。周りを見過ぎて全然打てなくなって、5分計測をするのが怖くなりました。

リクゼンタカタカップでは、帰りの新幹線ですごく落ち込みました。それまで大きな挫折をしてこなかったし、調子が悪くても優勝できてしまっている状況もあったから、入賞を逃したことで特にショックが大きくて。「そんなつらい思いをしてまでこの競技を続ける必要あるかな?」と思うくらい悩んでいました。

落合:そこからどうやって復調したんですか?

青木:8月の大会は初めから「出ない」と決めていたから、逆に良かったというか。そのおかげで、ペア練以外にも、鵠沼の方々をはじめいろいろな人と打つ時間がつくれました。

その中でフレスコボールに対する純粋な楽しさが戻ってきた感覚があります。その結果、メンタルも戻ってきた。別に何かがあったからではなく、時間が解決してくれた感じです。

この経験は、今思うといいことだったなと思います。

落合:8月はこのペアでは出ないと決めていたからこそ、良い距離感を保てたのはありますね。私にとってもそれは幸運だったなと思います。

青木:その結果、ジャパンオープン2022では全てを克服して、満足いくプレーを出せたかなと思います。ジャパンオープンは、フレスコボールを始めて間もない頃に目にしてから、ずっと優勝したいと思っていた大会だったんです。唯一表彰台に立てる大会だし、その一番高いところに立ちたいって。特に、2021年に獲れずに悔しい思いをしていたので、今年こそはと。

落合:2019年に初めてジャパンオープンの盛り上がりを見て憧れて。2020年は嬉しい2位、2021年は悔しい2位でしたね。

青木:そう。同じ2位だけど、全然違う感じ方でした。だから2022年は正直、ジャパンオープンだけ優勝したいと思っていました(笑)。

上手くなるために手段を選ばない

落合:ジャパンオープンを獲れるまではプレッシャーは感じていましたか?

青木:2021年はかなりプレッシャーを感じました。みんなから「勝つだろうな」という目で見られるようになって、ジャパンオープンはそれをより強く感じてしまいました。周りの目に応えられるだけの技術を、自分は持っているのかなと常に疑問に思いながらやっていたところもあったので。

落合:そのプレッシャーはしんどくなかった?

青木:最初の方は上手い人と組む機会が多かったから、自分の落球で順位が決まってしまうと思うとしんどいこともありました。でも2022年は、自分の中でも「勝って当たり前」と思ってできるようになっていたから、プレッシャーとは思っていなかったです。

時間が経つにつれて、ペアがどうにかしてくれると思うようになったし、21年ごろから急に男性陣からミックスペアに誘われるようになったことも、「誘われるうちが華だな」と開き直ることにしました(笑)。

落合:その開き直りとか、切り替えの早さは強みだよね。あとは、上手い人と組みに行くという、ある種の図々しさ(笑)。
 
青木:確かに昔から、自分が上手くなったり目標を達成したりするためには手段を選ばないところはありますね。テニスでも、最初に上手い先輩に組んでもらって結果を残して自信をつけてきました。

落合:その時に、周りの目は気にならない?

青木:ならない。結果を残せばいいでしょって感じです。

落合:「周りがどう思うかな」と思ってしまう人の気持ちが、私はすごくわかるんです。そういうことを乗り越える強さがないと、上手い人と組めても結果を残すのは難しいなと感じます。

青木:私はもうちょっと周りのことを気にしないといけないですね(笑)

落合:うまくいく時といかない時の差は、自分なりにわかってきました?

青木:周りを比べてしまって自分に集中できていない時が悪い時ですね。「よそはよそ、うちはうち」と考えることができないと、ただただ自分が焦るだけ。上手くいく時は、そこまでに自分がちゃんと練習できたという自負があるから、周りを見ても「上手いけど、たぶんうちらの方が上手かな」と余裕がある感じです。

落合:ある意味それも、周りを見て自分と比べているわけで、微妙な差だなと思うんですけど。

青木:確かに。でも、練習でつけた自信があるかないかの差だと思います。ダメなときは数をこなして、100本でも1000本でも打ってもらって、自分がしっくりくるところまで練習する。それをやり切れたら自信も出てくるんです。テニスも練習量で勝負してきたところがあるので、それも生きていると思います。

フレスコボールに打ち込む原動力は「後悔したくない」

落合:マラソンもするし、ゴルフもするし、フレスコボール以外にもたくさんのことに興味があると思います。その中でここまでフレスコボールに打ち込んでいる理由は何ですか?

青木:目標があるからですかね。ブラジルで優勝することをフレスコボールの最大目標にしているので、それに向けて努力は惜しみたくないなって。「ちょっと脱線したから勝てなかった」みたいな後悔はしたくないので。それが達成できたらゴルフをするかもしれないです。
 
落合:今後について考えていることはありますか?

青木:ありがたいことに国内では欲しいタイトルを獲ることができました。ここからは、自分がしてもらったように、誰かの目標にコミットしてあげられるようになりたいという思いはありますね。もっといろいろな人が表彰台に上がれるように、競争をあおっていきたいです。

(インタビューおわり)


●まーや的雑感

2年間ペアを組んできて、青木選手について一貫して思うのは「合理の人」。フレスコボールに限らず、実現したいことや目標に向けて、最短距離の選択肢をしっかり考え出し、周りがどうかは関係なく選び進むことができる印象があります。インタビューでは「図々しさ」という表現はしたものの、このシンプルな行動原理は私も参考にさせてもらっていているし、考えすぎる人にとってはある意味新鮮な考え方ではないかなと思いました。


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