#008 ストーリーの創り方②
拝啓 表現したい衝動のある方へ
前回のつづきです。
まず最初に、ざっくり書いたお話ひとつ、お読みください。
~ タイトル:オレの名前 ~
オレには、これまでの記憶がない。
自分の名前や職業も、家族や友人についても、何も思い出せない。
オレはいま海岸にいて、途方に暮れている。
いつ、どうやって、この海岸に来たのかさえ、まるで思い出せない。
オレはいま、ぼんやりと海を眺めている。
すると突然、背中に激痛が走った。
オレは振り返った。
そこには、見るからに素行の悪そうな少年たちがいた。
オレは少年たちに囲まれ、さんざん暴力を受け続けた。
…… オレの意識は遠のいていった。
…… ん? どうやらオレは気を失っていたようだ。
「大丈夫か? 生きてるか?」…… 男の声だ。
「安心しろ。あいつらはもういない。オレが蹴散らした」
ゆっくりと目を開けて、声の主を見上げた。
その顔を見て、オレは思い出した。…… すべてを思い出した。
あの箱。…… あの玉手箱。…… 竜宮城。…… 乙姫。
竜宮城からこの海岸に戻って、あの玉手箱を開けたら、
日付の書かれた1枚の紙が入っていた。
確か、あの日付は、オレがあの亀を助けた日、
竜宮城に向かったあの日の日付。
そのあとオレは、あの玉手箱から立ち上った白い煙に包み込まれ、
気がついたら、何もかもを忘れちまって、この海岸にいた。
そうだ。きっとそうだ。間違いない。
おそらくオレはいま、あの日付の日に戻っている。
そしていまのオレは、…… なんてことだ。やっぱり亀になってやがる。
いまオレを助けたこの男は、まさしくあの日のオレ自身だ。
自分の名前もハッキリ思い出したぞ。
オレの名前は、浦島太郎だ。
~ おしまい ~
このお話、どう思われましたか?
昔話「浦島太郎」を元ネタにした「二次創作」です。
しかも、いい加減、食傷気味のタイムリープ系。
ぶっちゃけ、コレ、誰もが思いつくようなヤツです。
さらに「で、何が言いたいの?」とツッコミたくなります。
あらかじめのコンセプト(メッセージ)設定が、いかに大事か?
そのことがよく分かる失敗例です。
同じように昔話「浦島太郎」を元ネタとして扱うにしても、
コンセプト(メッセージ)を設定した上で創作すると、
こんな駄作にはなりません。
詳しくは、前回の記事をご高覧ください。
(リンクを貼っておきます)
さてさて今回は、
もうひとつの「ストーリーの創り方」です。
今回も、具体例というか、実例をお話しします。
小説「赤いバトン」を執筆する前に、わたし自身が行ったことです。
※拙著「赤いバトン」は、
X(旧 Twitter)投稿用の[全10話]の短編として制作。
そののち[全20話]へと大幅リニューアルした作品です。
(この記事の最後にリンクを貼っておきます)
2021年がスタートした頃、わたしには、
どうしても表現したいコンセプト(メッセージ)がありました。
どうにか形にしたいという衝動があるにもかかわらず、
小説なのか? 詩なのか? 画なのか? 動画なのか?
作品のイメージすらなく、アイデアも皆無でした。
どうしても表現したかったコンセプト(メッセージ)というのは、
コレです。
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「感謝の言葉『ありがとう』をちゃんと言おう」
「そのことをあらためて自覚しよう」
「そして、できれば繋げていこう」
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しかし、まったくの白紙状態だったため、
わたしは以下の①~⑥をしました。
①キーワードの『ありがとう』『繋げる』からの連想
ありがとう、蟻が10、感謝、Thank You、サンキュー先生、メルシー、ダンケなんちゃら、謝謝 etc. 人から人へ、子から親へ、親から子へ、恩師へ、親友へ etc. 母の日、結婚式、卒業式 etc. 手紙、ことば、手話、メッセージ etc. 繋げる、つなぐ、バトンリレー etc.
②連想からのエピソードづくり
母の日のエピソード、結婚式のエピソード、卒業式のエピソード、親友同士のエピソード、バトンを渡すエピソード etc.
③各エピソードに肉付けして削る
エピソードに肉付けして、ざっくりストーリー化。
書いたストーリーを読み返し、
コンセプト(メッセージ)から逸脱していないか? の確認。
逸れてしまっていたら訂正もしくは削る。
そしてまた肉付けして削る。
わたしは何度もこの作業を繰り返しました。
④ラストシーンを考える
上記③をしながら、ほぼ同時進行で、
エンディングに向かうラストシーンを考え続けました。
コレ、正直、いちばんワクワクする工程でした。
⑤各エピソードを繋げてプロット作成
「どうしようか?」と思案投首しながら、
「ああでもない、こうでもない」と組立作業。
設定したコンセプト(メッセージ)とにらめっこしつつ、
ストーリー全体を俯瞰して、
不要だと感じたエピソードは、ごっそり削る。
⑥いざ執筆
執筆しながらも、①~⑤を継続し、その都度調整。
指針はもちろん、設定したコンセプト(メッセージ)でした。
長編作品を書かれた経験のある方は、
おそらく似たような作業をされていると思います。
地味でしんどい工程ですが、楽しく臨むことが肝要です。
ちなみにわたしは、生身の人間が精魂込めて拵えたモノには、
制作者の思いはもちろん、制作過程の感情なども宿ると信じています。
だから、楽しく執筆すれば、その楽しさが読者にも伝わる。
笑いながら書いた小説は、読者も笑ってくださる。
泣きながら書いた小説は、読者も泣いてくださる。
わたしはそう信じて書いています。
わたしにとってのモチベーションのひとつにもなっています。
余談ですが、
AIが自動生成したアート作品を観て「美しい」とか、
生成された文章を読んで「ふむふむ」と思うことはあります。
しかし「涙が出そうになる」までの感動はありません。
生身の人間の思いや感情が宿っていないからでしょうか。
AIには、最大公約数のニセモノを作らせておけばよくて、
人間は、新たな素数を創らなければならない。
…… なんてことを思っていたりもします。
さて、前回と今回を通じて、ストーリーの創り方を紹介しました。
前回「#007 ストーリーの創り方①」は、短編&中編の小説向き。
今回「#008 ストーリーの創り方②」は、中編~長編の小説向き。
…… なのかなと思います。
いずれにせよ、最初の最初に、作品が完成した後のこと、
公に発表した後のことを考えておくべきです。
「何のために? つまりどういうこと?」
作品を世間に公開するということは、著者の元から、
作品(我が子)が巣立つこと(親離れ)に他なりません。
その作品自体が、ある種の人格みたいなものを備え、
意志を持った作品として自走させるためにも、
最初にちゃんとコンセプト(メッセージ)を設定する。設定してあげる。
ということです。
これが、前回と今回を通じて、
いちばん伝えたかったことで、ありまする。
★ 拙著「赤いバトン|改訂版」全文掲載しています ★
~ お時間あるとき、ぜひどうぞ ~
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